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インタビュー

INTERVIEW(2)――いち音楽として接してほしい

 

いち音楽として接してほしい

 

――今回の『THIS NIGHT IS STILL YOUNG』はソロとして初のアルバムですけど、オリジナル・アルバムとしてはアルファベッツでリリースした『なれのはてな』以来ですよね。

「アルファベッツは18からハタチぐらいまで当時の専門学校の同級生とやってて、(アルバムを作った頃は)庶民がパソコン1台で音楽を作れるギリギリの頃でなんか大変だった思い出があります。(思い返すと)すっごい恥ずかしいですね、一言で言うと。同じ人間が作ってんだなって感じだとは思うんですけど、全体的に若すぎたってのと、レコーディングやもろもろに対するノウハウがなさすぎて、別になかったことになるんならそれでもいいみたいな(笑)。学生時代につきあってた彼女と久しぶりに会った恥ずかしさっていうか」

――そうなんですね。ただ、またアルバムを作りたいっていう思いはずっとあったそうで。

「性格的にもラッパーっぽいメンタリティーではないし、ヒップホップの世界も自分に合ってるかがわかんなくて、DJのほうが自分のエネルギーの出方としてしっくりきて、そっちをやるようになったんです。それがありながらもラップっていう形でアルバムを作りたいって気持ちは2004年ぐらいからあったんですよ。だから、そこらへんの断片や曲も今回ちょっと生きてるし、アルバムとしてちょっとずつ進んでったって感じですかね」

――その意味では、まさしくここ何年かのやけのはらさんの〈アルバム〉になってるっていう。

「4年ぐらいダラダラ作ってたので、その前のアルファベッツで作った時も18歳からハタチぐらいの〈専門学校の思ひ出〉みたいな感じで。これは今後5年ぐらいすると自分の記憶的には〈20代後半の思ひ出〉みたいな感じの位置付けになりそうな気がします。〈あん時のテンションがこうだった〉みたいなものっていうより、長いタームの思い出みたいな感じですかね」

――アルバムとしてめざすゴールがあったっていうわけでもなく?

「曲が出来てきた時点でタイトルが浮かんで、それでアルバムを言い表せるかなあって。それが2、3年ぐらい前で、アルバムのタイトルが決まった時点でなんとなくこういう落としどころにしようっていうのは見えました」

 

やけのはら_A2

 

――個々の曲作りはそれぞれどのように?

「アルバム最後の“GOOD MORNING BABY”がいちばん最近で、去年作ったんです。それだけちょっと違うけど、曲によってはそれぞれ理由があって出来たっていうのもあります。“ロックとロール”は曽我部恵一さんのレーベルのコンピって前提があって作ったんで、他の曲より目線がさらに若いっていうか、他の曲が高2ぐらいだったらこれは中2ぐらいの感じで。作りかけの曲のなかでもロックとか言ってるやつのほうがおもしろがってくれるんじゃないかなってとこで作った曲だし、“Rollin' Rollin'”は、人(七尾旅人)との共作だから、その人とのコミュニケーションの共通地点になるってとこもあったり」

――さっき話されてたようなラップやヒップホップの世界に対するある種の違和感が整理されて、いま、ここにアルバムが完成したんですか?

「わざとヒップホップっぽくなくしようとも、ヒップホップっぽくしようとも考えてないし、むしろ年々何も考えなくなって、自然に作ったらこうなったって感じですね。自分で歌詞書いて何かするってなると、達者に歌を歌えるわけじゃないんで、とりあえずってなるとラップになる。ヴォーカル技法としてラップっていう形を取ってるっていう」

――ラップへのこだわりもない、と。

「うーん、ないと言えばないですね。いち音楽に立ち返ってもやっぱりピッチが良かったり、韻が気持ち良かったりしたほうがいいと思うんで、そういう次元でよくしていきたいっていう向上心はありますけど。ラップがどうとか抜きにしてもただ喋ってるだけみたいになると音楽的に聴いてて気持ち良くないですからね。ただ、ラップ的なヴォーカルだけど、リズムやフロウの気持ち良さで勝負するヴェクトルではないっていう意識も当然あるんで、逆にそのぶんしっかり歌詞を書こうっていうのはあります。そこで歌詞をちゃんと書けてないんだったら何がしたいのかよくわかんなくなっちゃうし」

――歌詞を書くうえで特に力を入れたことはどんなことですか?

「今回は文脈、形式を踏まえたからこそわかるみたいなとこは極力排除してます。だから、このアルバムにはヒップホップ的クリシェは極力入れなかったんです。いまは自分が普通にやるとそうなんですけど、それはちょっと考えたかもしれない」

――たしかにどの曲を見てもヒップホップ的なレトリックがほとんど見当たらなくて。

「テクノでもヒップホップでも、共通言語が必要なもの、文脈を踏まえたおもしろさはリスナーとしてわかってるんですけど、いち音楽として接してほしいっていうのがありました。ヒップホップ・シーンに好き嫌いもないし、でも、そこでサヴァイヴしていこうってのが性格的に合わないって感付いたっていうか、そういう立ち位置的な意味では普通にただやりやすくやってるっていう感じです。ヒップホップとかテクノが好きで、サンプリングも好きだけど、シンセも好きだし、いろんな音楽が好き。ラップを入れるからってそれを無理してこうしようとかは気にしなくていいかなとも思ったんですよ」

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掲載: 2010年08月04日 18:01

インタヴュー・文/一ノ木裕之