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インタビュー

SEEDA 『BREATHE』

 

深く吸い込んで吐き出すのは、吹き抜ける風か、時代の空気か。ついに帰ってきたSEEDAの、粋で、活きが良くて、生きるための『BREATHE』にブッ飛ばされろ!

 

 

ハッキリ言ってレヴェルが違うというか……まさに息を呑むというか、息つくヒマもないというか、息もできないくらい、というか。ハイチ被災のチャリティー・プロジェクト〈JP2HAITI〉への参加、ベスト盤の発表などを経て、ラッパーとしてふたたび息を吹き返したSEEDAのニュー・アルバム『BREATHE』が届けられた。

 

リリックは後からでいい

――いまさらですが、まずは〈引退〉と〈復帰〉について。前作でインタヴューした際にもその話が出て、こっちも普通に聞き流してたんですが。けっこう真正面から受け取った人も多いと思うんですよ。

「やりたいからやるっていうか……気ままにやらせてもらってごめんなさい(笑)」

――まあ、その時点で「やりたくなったらやる」という話でしたけど。

「ぶっちゃけ曲も書いてましたし、周りはみんなそれを知ってるから〈やればいいじゃん〉という感じで。だから、友達の作品の手伝いに区切りがついたら好きにやらせてもらうよ、みたいな感じになったっす。まあ、モチヴェーションが上がった時に抑えることができないんですね。おもしろい話もいっぱい入ってくるし(笑)」

――その間に、単純に聴いてて刺激を受けたものって?

「ジェイ・Zはもちろんですけど、キッド・カディやワーレイはリリックも曲調もさらにニュー・スクールで。J・コールはリリックがすごく好きだし。あと、ドレイクはもう最高でしたね。そういう、内容もあってフロウもしっかりしてて、音楽性をそれぞれ追求してる……音楽してる人が好きで。あとはPSGも新しい感じでした」

――挙がった名前のいくつかは新作のトーンにも繋がりますね。昨年末の“WISDOM”は別として、最初に録った曲というのは?

「3月か4月ぐらいに録った“MOMENTS”と“BIX 90's”ですね。“MOMENTS”を書いてる時期にちょうどDJ YUTAKAさんやZeebraさんと〈JP2HAITI〉の話をさせてもらってて、YUTAKAさんの言葉にインスパイアされて書いてることもあります」

――前作はBACHLOGICさんと2人で全体を見る体制でしたが、今回は?

「僕とBLくんとOHLDの3人です。OHLDがミックスしてBLくんが仕上げをやるっていうのが最近の流れで。ちょっとした悩みとかトラック選びとか、相談しながら進めていきました。クレイダの曲とか、そうじゃないものもありますけど」

――ドイツのクレイダは、世間的にはドレイクとやった人、っていう紹介のされ方になると思うんですが、組んだ経緯は?

「久々にMySpaceを開いたら、クリスっていうパートナー経由でビートが届いてたんです。それが格好良くて。〈よくあるデモじゃねえ!〉って思って調べたらビックリしましたね。Skypeでしか話してないですけど、謙虚な人たちで良かったです」

――トラックメイカーやミキサーにはUS勢も多いですが、日本の人たちと比べて大きな違いは感じましたか?

「自分の知ってる範囲だけの話ですけど、USのものは完成度以前に身体が動くか動かないかにシンプルにこだわってる気がしましたね。緻密な完成度と、首が振れるかどうかと、世界のトップの人っていうのはその両方が追求できてるっていうか」

――新作はそのどちらへの意識が強かったですか?

「どうすかね……例えばBLくんのトラックには緻密さもありますけど、首が振れるようにしたかったし、身体が動くことを前提に歌詞もあるっていう順番だから、リリックは後からでいいですね。聴いて2週間ぐらい経って〈けっこうマトモなこと言ってるでしょ〉みたいな(笑)」

――とはいえ、リリックは前よりさらに聴き取りやすいです。

「ミックスにも流行があって、例えばドレイクのあの感じって、昔ならラフミックスと呼ばれてたものだと思うんですよ。声が前に出てて一語一句が聴き取りやすい。どっちかというとそっちに行きたいというのはあります。あと、ブラウナーっていうマイクに替えたのも大きくて、上手く説明できないですけど、自分の声質の芯を立たせるというか、もう〈出会ってしまった!〉みたいな。そうやって機材にも少しずつこだわってる感じですね」

 

世界標準じゃなく、世界と繋がる

プレイボタンを押せば、街を俯瞰しながら空を翔けるような“SET ME FREE”が急降下してくる。その灯りが明滅するような隙間の多いビートの“FLAT LINE”ではメランコリックなTYC(SKYBEATZ)の歌が叙情的に響き、そしてクレイダによる問答無用の“THIS IS HOW WE DO IT”だ。この冒頭3曲の流れだけでブッ飛ばされるはずだが、ドラムがシャキシャキ走る“TAXI DRIVER”に進んでもSEEDAの足取りは止まらない。同曲を手掛けたBLが今回も全体のトーンを整えるべく多彩な手捌きを披露していて、懐古ではなく回顧することで前を向く“BIX 90's”、鋼田テフロンなる歌い手も動員したアコギ・ループの“alien me”、夢のなかを泳ぐ“DREAMIN'”など、駆けだしたり立ち止まったりする自由闊達な主役の姿は、BLの的確な伴走があってこそ実現されている部分も大きいだろう。

 

――今回もBLさんのビートが中心ですけど、最近の王道っぽいBL節みたいなのとはまた全然違う感じで嬉しかったですね。

「それは本人に言ったら喜ぶっすね(笑)。例えば“TAXI DRIVER”のトラックとか誰も買わなかったみたいで……だから、BLくんにとっての僕の役割は人が使わなかったけど彼自身がやりたい音楽をSEEDAを使って表現しよう、みたいな(笑)」

――実験台ですか。ちなみに冒頭の“SET ME FREE”もBLさんのビートですが、『GREEN』にも同名の曲がありまして……。

「それ、気付かなかったですね……でも、FREEの意味は全然違ってて、聴けば当時の自分といまの自分の違いが出てると思いますね。当時は子供っぽいというか、子供はすでに自由なのに小さな欲望としての〈SET ME FREE〉を主張してて」

――『GREEN』といえば、そこにも参加していたleccaさんとは3回めのコラボで。

「leccaはISH-ONEと遊んでて紹介されてからだから、付き合い長いっすね。今回はやる前にハードルがあったのを……彼女がハートを見せてくれて実現できたんです。まあ、普通に友達っすね」

――その“LIGHTS”もそうだし、真摯な雰囲気の曲が耳にしっかり入ってきます。

「未来のために〈いま言わなきゃ〉っていう気持ちが強かったから、誤解も生みそうなテーマとかは今回に関しては入れたくなかったんですね。いま住んでる場所は鳥や犬や猫や草花が身近で、その生命を日常的に感じながら表現してるというか……」

――『BREATHE』っていうアルバム・タイトルはそこにも繋がってくるものですね。

「そうですね。人も動物もブリーズして生きるし、SEED(種)も呼吸して育つし、聴いてくれる人も呼吸してるし……しっくりきたんですね。最初は『FLAT LINE』とか『はぐれメタル』も候補だったんですけど(笑)」

――(笑)実際、デヴィッド・バナーとの“LIFE SONG”の印象もあって、〈LIFE〉っていう言葉も、ヒップホップでよく語られる〈生活〉や〈人生〉よりも〈生命〉っていうニュアンスが強く感じられました。

「そう取ってもらえると嬉しいです。“LIFE SONG”はいくつか送ったトラックに合わせてデヴィッドから書いてきたテーマなので、彼に貰った曲みたいな感じっすね」

――今後の展望も開く作品になりましたね。

「〈世界標準〉とかじゃなくて、世界と繋がるっていう意味で、確実にステップを踏ませてもらったと思います。自分は世界で、地球で音楽やりたいと思ってるし、もちろん日本にもおもしろい奴らがいっぱいいて、この先が楽しみだし、自分がそのなかにいたいっていう気持ちが強いっすね」

 

▼現在入手可能なSEEDAのアルバム。

左から、2003年作『ILL VIBE』、2005年作『GREEN』(共にPヴァイン)、2006年作『花と雨』(KSR)、2007年作『街風』(EXIT TUNE)、2008年作『HEAVEN』(KSR)

 

▼『BREATHE』に参加したアーティストの作品。

左から、leccaの2010年作『パワーバタフライ』(avex trax)、デヴィッド・バナーの2008年作『The Greatest Story Ever Told』(SRC/Universal)、漢の2005年作『導~みちしるべ~』(Libra)、bay4kの2007年作『i am...』(Pヴァイン)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年08月18日 18:02

更新: 2010年08月27日 18:15

ソース: bounce 324号 (2010年8月25日発行)

インタヴュー・文/出嶌孝次