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インタビュー

フジファブリック 『STAR』



残されたメンバーでのバンド存続というニュースはとても喜ばしいことだったが、さてそれでどうなるのか?——音が届くまでの期待と不安が入り交じった妙な気持ちは杞憂に終わる。この新作はなんて素晴らしい!!




作品に勇気付けられた

行き場のない喪失感は、永遠に消えることはないだろう。しかしここには確かにいまを生きている人間がいて、そして音楽は続いてゆく。フジファブリックのニュー・アルバム『STAR』は、志村正彦を失った後、山内総一郎、金澤ダイスケ、加藤慎一の3人が総力を結集して作り上げた再出発作だ。結論から言おう、フジファブリックというバンドの持つポテンシャルは、想像をはるかに上回るとんでもないものだった。

「僕らは作ったほうなんですけど、作品に勇気付けられました。そういう音楽を作りたいと思ったんですけど、〈できちゃったな〉という感じがあります。バンドの中心だった志村くんがいなくなって、そこでどういうふうにフジファブリックという名前で進めていくのか。それは作品を作ってみないとわからないことだし、出てくるサウンドや言葉が持つメッセージが重要だと思っていたんですけど、そのメッセージが3人とも共通していたんですよ。ビックリするほど共通点が多かったので、言葉で話さずともひとつの方向に向かっていった気がしますね」(山内総一郎、ヴォーカル/ギター)。

「再出発という気持ちもありますけど、それを言葉に出すのは違うかな、とか思ったりします。バンド名は変わっていないし、続いていくものでもあるので。上手く表現できないですね。曖昧ですけど」(加藤慎一、ベース)。

アルバムの制作がスタートしたのは、昨年10月のこと。その3か月前、7月17日に富士急ハイランドで初の野外イヴェント〈フジフジ富士Q〉を開催し、直後には志村が遺した音源と歌を元に作り上げた前作『MUSIC』をリリースしている。その時点では今後について確定していることは何もなかったのだとか。

「3人で何かやっていきたいね、ということは決まっていたんですが、具体的なことはその後徐々に決まっていった感じですね」(金澤ダイスケ、キーボード)。

「バンド名がそのままということも決まっていなくて。ダイちゃん(金澤)は9月からアジカンのツアーをやっていて、僕はくるりと斉藤和義さんのツアーがあって、サポート・ミュージシャンとしての期間があったんですよ。いま思うとそれがすごくいい経験になったと思います。『MUSIC』を作って、〈フジQ〉をやって、バンドとしてひとつひとつ壁を乗り越えてきたことも大きいですね。それからスタジオに入って何曲か合わせてみた時に、〈あ、大丈夫だな〉というか、バンドとしての体力は残っているし、何か作れるバンドだなということを、その時に感じたので」(山内)。

新作は、エフェクトをたっぷりと効かせたスペイシーな“Intro”で幕を開ける。そのまま切れ目なく演奏がテンポアップして、痛快なギター・リフがリードするポップ・チューン“STAR”がスタート。山内が初々しく〈星を目指そう!〉と歌い出した瞬間、鳥肌が立った。〈いったいどんなアルバムなんだろう?〉という不安めいた感情は、わずか数分で完全に払拭されてしまった。

「“Intro”に歌はないんですけど、何らかのメッセージというか、〈みんなをどこかへ連れて行きたい〉という思いがあるなあって、最近思いはじめました。作ってる時は気付かなかったんですけど」(山内)。

「アルバムの曲を選ぶにあたってたくさんの候補曲があったんですけど、それぞれどの曲がいいか考えていった時に、最初からほぼここに収録されている曲だったんです。僕らがやりたいのはこういうことなんだな、という感じでしたね」(金澤)。



自分にしか歌えない歌

そこからはもうフジファブリックでしか作り得ない、純粋に音と戯れる楽しさに満ち溢れたカラフルなポップ/ロック・チューンの乱れ打ちだ。金澤の書いた“スワン”はベン・フォールズを思わせる活きの良いピアノ・ポップで、山内作の“Splash!!”はBPM200を超える高速ナンバー、加藤による“アイランド”は美しいアコースティック・ギターとオルガンで綴られたフォーキーなバラード——メンバー全員が強烈な個性を誇る作曲家であることもハッキリした。後半ではアイリッシュ・トラッドなムードの“君は炎天下”、テクノ・ポップ的な“アンダルシア”、スカパラのホーン隊が大活躍するラテン・ポップ“パレード”を経て、白昼夢のような儚い美しさを湛えたラスト・チューン“cosmos”まで、賑やかなカーニヴァルのようなアルバムのなかに、悲しみや不安の影はほとんどない。しかしただ1曲、胸に刺さって離れない歌詞がある。もうここにいない〈君〉に向けて、〈いまありったけの想いを乗せて君に捧ぐよ〉という“ECHO”を聴くと、どうしても志村のことが思い出されて、聴くたびに胸が熱くなるのを止められない。

「彼のことも含んだ歌詞になってるとは思うんですけど、志村くんのことだけを歌ったわけではないんですよ。生きていると必ず別れがあって、でも〈立ち止まってはいられない〉という気持ちは、いまのバンドの状態もそうですけど、それが生きることだと思うので。誰かがいなくなったり、彼女と別れたり、いろいろあるじゃないですか。でもそこに答えはないし、歩いていくしかないということを言いたくて作った曲です。この曲を〈ROCK IN JAPAN〉で歌った時に、すごい数のお客さんがじーっと聴いている、その姿を歌いながら見ていて、〈歌って、こういうふうに歌えば届くんだな〉と思わせてもらえた体験だったんですね。“ECHO”を作った時に〈これは自分にしか歌えない歌だ〉と思ったので、そういう意味で大切な曲ではあります」(山内)。

リード・ヴォーカルとしての山内は、爽やかで透明感のある、初々しく伸びやかな良い声の持ち主。サウンドがマニアックな方向へ偏ったとしても、あくまでポップに聴かせる大きな力を持っている。11月26日から始まる新生フジファブリックのファースト・ツアーでは、多彩な楽曲の魅力と共に、フレッシュな歌の力にも注目してほしい。

「サポートをやってる時期に、あるスタッフの方に言われたんですよ。〈総くんはヘンな声してるから、絶対歌ったほうがいいよ〉って(笑)。そして〈誰にも似てないからさ〉と言ってくれたのがすごく嬉しかったです。人それぞれの声があると思うので、もっと自分らしいものを見つけていけたらいいなと思います」(山内)。

「ライヴは〈観に来て良かったな〉と思えるものにしたいので。ぜひ足を運んでいただけたら嬉しいです」(加藤)。

『STAR』に詰まった楽しすぎる音楽の後ろにある、〈人生は、歩いていくしかない〉という強いメッセージ。このアルバムを聴き通した後、あなたにとってフジファブリックはいままで以上にかけがえのないバンドになっているはずだ。


▼フジファブリックの作品を紹介。

左から、2002年のミニ・アルバム『アラカルト』、2003年のミニ・アルバム『アラモード』(共にSong-CRUX)、2004年作『フジファブリック』、2005年作『FAB FOX』、2008年作『TEENAGER』、2009年作『CHRONICLE』(すべてEMI Music Japan)、2010年作『MUSIC』(ソニー)

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年09月14日 18:02

更新: 2011年09月14日 18:02

ソース: bounce336号(2011年9月25日発行)

インタヴュー・文/宮本英夫