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インタビュー

AO INOUE 『Arrow』



〈DRY&HEAVYの声〉が臨むソロ・ステップは、深く潜るベース・ミュージック。閉塞した現状を射抜く矢がまっすぐに放たれた!!



AoInoue_A



95年からはあのDRY & HEAVYの一員として、近年だと2人編成でダブ・ミュージックに挑んだmaccafatの一翼として、日本のレゲエ/ダブ史にその名を刻んできたAO INOUEが、初のソロ作『Arrow』を完成させた。彼の名を聞いて真っ先に思い浮かぶのは、あのダビーに響くスモーキーでコク深い歌声。ところが本作はヴォーカルなし。まさかのインスト・アルバムである。

「意外に感じる人は多いでしょうね(笑)。でも、曲作りに関しては、実は2004年から始めていたんです。その3年前からDJも始めたんですけど、やっているうちに、この曲とこの曲の間にかける曲を自分で作りたいとか、そんな思いが芽生えて……。だから、そもそも自分が歌うためのオケにしようとか、インスト集を作ろうとかはまったく考えず、本当に趣味としてやっている感じでした」。

以来、コツコツと作り貯めては自身のDJセットに織り交ぜるなど現場では披露されていながら、「結局、お蔵入りにしていた」というトラックたち。それがここにきて、アルバムとして実を結んだのには理由がある。

「2010年は自分の音楽人生を振り返る時期だったんです。DRY & HEAVYを脱退して、maccafatも活動を停止。この先どうしていこうかと。気付いたら、僕はこの18年間バンドでしか活動していなかったんですね。ミュージシャンというよりバンドマン。それがあたりまえになっていた。じゃあ、これまで自分ひとりで作ってきたものがあるか、ソロで勝負できるものはあるのか、そう考えた時に、あのビートの存在を思い出したんです」。

当初は自主リリースを考えていたが、AOが信頼を寄せるレーベル(DRY & HEAVY時代のレーベルでもある)のスタッフに音を聴かせたところ、即リリースが決定。新曲が制作され、過去の曲もオーヴァーダブやエディット、新たなミックスによって生まれ変わった。その内容はというと、ダブステップやグライム、デジタル・ダンスホールなどの薫りを纏った、AO流の新感覚ベース・ミュージックだ。

「DJを始めた2000年代初頭は、バイリ・ファンキやグライムが出てきた頃だったし、それ以前からラガ・ヒップホップやドラムンベース……そういうレゲエと他ジャンルが邂逅した音にすごく惹かれていたんですよね。ダンスホールにしても、ディプロやレンキーが作る音は、マッチョイズムとかラスタの思想とか、従来のレゲエにある要素とは違う新しいリアリティーを感じて、すごく垢抜けて聴こえたんです。共感したし、刺激も受けたし、憧れた。そもそも曲を作りたいと思った衝動は、そこにあります」。

これまでバンドでは「古いレゲエに憧れて、それを現代流に再現することを求めてきた」と言う。しかしいまの彼が求めるのは、よりレゲエが進化していくための〈未来感〉だ。

「この音は、レゲエならではのベースの感じ、リズムの感じを身に染み込ませたあとで出てきたもの。そう解釈してもらえたら嬉しいですね。〈ギトギトのルーツ・レゲエやダブが好きだった人間がこうなりました〉っていうサンプルとして見てもらえれば(笑)」。

『Arrow』=〈矢〉というアルバム・タイトルは、「矢が現状を突き破る、未来に突き進むイメージ」で付けられたという。そこには「震災後に出す作品としてのメッセージも込めている」と語るAO。音楽の未来、そして日本の未来を願い、いま、青い矢が放たれる。



▼AOがトラック制作に挑む源泉となったであろう作品の一部。

左から、2004年のグライム〜ダブステップ・コンピ『Grime』(Rephlex)、ディプロの2004年作『Florida』(Big Dada)、レンキーの定番リディム使用曲を集めた2002年のコンピの新装盤『Diwali: Gold Edition』(Greensleeves)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2011年12月07日 00:00

更新: 2011年12月07日 00:00

ソース: bounce 338号(2011年11月25日発行号)

インタヴュー・文/岡部徳枝

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