インタビュー

クリスチャン・マクブライド

豪華ゲストが参加したデュオ作とビッグバンド作

クリスチャン・マクブライドの新作は、今や人気、実力ナンバー・ワンのアコースティック・ベーシストらしいバイタリティ溢れる創作力でファンを圧倒する。作品は2枚。一方はデュオ・アルバム、そして、もう一枚は、何とビッグ・バンド・アルバムというアンサンブルの両極を極めるレンジの大きさだ。さらに言えば、デュオは、スティング、チック・コリア等々ジャンルを超えたスターを集めたアルバムで、小粒どころか、逆に大粒の中身でノックアウトさせる大作である。

もっともアンサンブルの規模は両極端だが、マクブライドにとって、その関心の方向は同じだとも言える。デュオの形式は、ベースによく合っていて、むしろ最良の楽器だという。実際、ベースほど柔軟な会話の絡み方ができる楽器はないだろう。裏方に徹し、一見不器用そうにみえるが、実は、繊細かつ豪快な表現のレンジの広さがあり、さらに音楽的の様々な機能を備えているオーケストラのような楽器である。

ベーシストならではのこうした音楽の視線は、そのままオーケストラの世界に広がっていく。マクブライドがオーケストラに関心を抱いたのは、オリバー・ネルソンの『ブルース・アンド・アブストラクト・トゥルース』、そしてマッコイ・タイナーの『テンダー・モーメンツ』だという。オーケストラというより、ラージ・アンサンブルといった方がいい規模だが、そのマジカルな音楽の広がりに魅せられ、パート譜を採譜して勉強したという。むろん、それはベースの演奏にも大きなヒントにもなったろう。

ビッグ・バンド組織は、その延長にあるが、なぜミュージシャンは、ビッグ・バンドに魅せられるのだろうという質問に、少し考えた後、「それは多分ビッグ・サウンドの魅力なんだと思う」と、何ともシンプルな答えが返ってきた。つまり人間というものは大きな音が好きなんだということだということ、これもマクブライドらしい。「だから、小さなアンサンブルでも大きく聴こえるのが、何ともファンタスティックなんだよね」。

デュオのアルバムは、続編も考えているし、ビッグ・バンドもこれで終わるつもりはないという。音楽の驚きはまだまだマクブライドの創作力を刺激し続ける。今回エレクトリック・ベースは使われてないが、それを指摘すると、多分、次作でと笑って答えた。本来越境するミュージシャンのマクブライドがいよいよ本格始動である。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年01月06日 13:18

ソース: intoxicate vol.95(2011年12月10日発行)

取材・文 青木和富