パヴェル・ハース・クァルテット
プラハからの彗星、美しき「牢獄」を友愛で走りぬく
パヴェル・ハース・クァルテットが目覚しい躍進のうちに今年結成10年を迎える。昨秋の来日でもハースの第1番、最新盤に収録されたドヴォルジャークの《アメリカ》、次作に予定されるシューベルトの《死と乙女》で颯爽と進境を示した。俊敏なリズムと鮮烈な速度変化に充ちた痛快な疾走がそのままに彼らの勢いを物語るかのようだ。
第1ヴァイオリンのヴェロニカ・ヤルツコヴァがクァルテットを結成したのは、二つの愛が重なったから。愛する夫がチェロを弾くシュカンパ四重奏団の演奏会を聴いて、「弦楽四重奏と恋に落ちた」。スメタナ四重奏団で名高いミラン・シュカンパのもとへ相談に行き、ヴィオラのパヴェル・ニクルらと2002年にこの〈バンド〉を結成。シュカンパは4人の人生全般における導師のような存在だという。「最初のレッスンのとき『この世で最も美しい牢獄にようこそ』と言われた(笑)。『いつでも飛んで行くことはできる、鉄格子の間からだがね』って」。「フィレンツェでのマスタークラス初日にチェリストを退団を決めて、彼らは3人で続きをこなした。これが妻と演奏する最後のチャンスだと思って、僕はシュカンパ四重奏団を辞めた」とペテル・ヤルシェク。2008年秋からエヴァ・カロヴァが第2ヴァイオリンに加わった。「クァルテットは初めてだし、私としては自分の声を探し出す途中。難しいけれど、とても美しい仕事です」。ヤルシェクがすかさず言葉を継ぐ、「私たちはいつも互いに人生のあらゆることを学んでいる。リハーサルをすれば友人の感じていることがわかるし、困っているときには助けにもなれる。そうしていつも学びの途にある」。
母国チェコの偉才パヴェル・ハースには特別の愛着を抱き、3つの四重奏曲も早々に録音した。「ジャズ、チェコ、ユダヤなど多様な音楽がモザイクのように絡み合って、比類ない独自性をもつ」とヤルツコヴァ。「第2番に打楽器を加えたように、革新的な面もある」とヤルシェク。
「チェコの演奏伝統は血のなかに感じるけれど、自らの最善の方法を見出さないといけない。私たちは歴史上の作曲家と聴き手の間に架かる橋なのだから」とニクル。「弦楽四重奏の響きがこれほど美しいものだって、弾いてみてよくわかった」とカロヴァ。「私は楽しんで、シェアしたいだけ。クァルテットは人生と同じ。愛と憎しみの中間にある何かです(笑)」とヤルツコヴァ。「この先どうなるかみてみよう」とヤルシェクは微笑んだ。
写真:©Marco Borggreve