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インタビュー

MARK STEWART 『The Politics Of Envy』



地を這うベース、けたたましいアジテーション、そして銃声の如きノイズ音── ブリストルのドンが4年ぶりのソロ作を放射したぞ! 闘う準備は整っているか!?



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テキ2008年に13年ぶりのソロ作『Edit』をドロップ、翌年にはポップ・グループを再結成し、昨年は〈サマソニ〉をはじめとする各国のフェスに出演。ここ数年、ギラギラと精力漲る活動を展開してきたマーク・スチュワートが、満を持して新作『The Politics Of Envy』をリリースした。これがもうギラギラの大放出と言ってもいいほど攻撃的でロック的、理屈よりも先に強烈な音を叩き付けて捻じ伏せるような迫力を持つ、戦闘アルバムに仕上がっているのだ。

参謀役とも言うべき共同プロデューサーにキリング・ジョークのユース、半数以上の曲で斬り込み隊長の如く尖ったギターを聴かせるPILのキース・レヴィンと、80年代からの不良仲間がガッシリ脇を固めているのも頼もしいが、さらに注目すべきは驚くほど豪華で多彩なゲスト陣。彼ら共闘の士たちとのコラボで生まれたケミストリーこそが本作最大の動力源である。

ざっと注目曲を紹介していこう。冒頭を飾る“Vanity Killer”からいきなりNYパンクのレジェンド、リチャード・ヘルと映像作家のケネス・アンガーという仰天の組み合わせ。ケネスのテルミンが異彩を放つロッキン・ダブステップに仕上がっている。

続く、プライマル・スクリームが駆け付けた“Autonomia”は、不穏なサイレンの音と破天荒なエレクトロ・サウンドが渦巻くなか、マークとボビー・ギレスピーがアジテーション的な掛け合いを炸裂させる狂騒曲。元ジーザス・アンド・メリー・チェインのダグラス・ハートによるノイジーなギターも聴きどころだ。

リー・ペリーを迎えたアーバン・ヘヴィー・ダブ“Gang War”も驚きの一曲。銃撃戦のようなエフェクトとスリッツのテッサ・ポリットによる重々しく歪んだベースを通低音に、リーの呪詛とも祝詞ともつかない歌唱が浮遊している。

アッパーなデジタル・ビートが邁進する“Gustav Says”は、本作中もっとも直球なダンス・トラックのひとつと言えよう。が、なぜかジャーマン・ニューウェイヴ勢でもヒネクレ度の高かった異端バンド、デア・プランのアヒム・トロイが参加しているのがおもしろい。

ブリストルからもダビーな後輩、マッシヴ・アタックのダディGが1曲で参戦。その“Apocalypse Hotel”は荒涼とした大地を這うようなアブストラクト・ナンバーで、呻きにも似た独特のヴォーカルが存在感抜群だ。

そしてラストを飾るのが、エレクトロック・バンドのファクトリー・フロアと組んだ“Stereotype”。ジナ・バーチ(レインコーツ)の歌唱とキース・レヴィンの開放的なギターが渡り合い、どことなくニュー・オーダーめいた官能美も漂っている。

これだけ個性豊かなアクの強い面々が参加した理由は、ポップ・グループ結成時から一貫して揺るがないマークのラジカルな姿勢への共鳴に他ならないだろう。80年代に繰り広げた、混沌と破壊による過激な音楽実験とはアプローチがやや異なれど、ロック・フォーマットのなかに多彩な異分子を放り込み、巻き起こる化学反応によってアグレッシヴなボーダレス・サウンドを創造した本作は、やはりラジカルとしか言いようがない。マークは語る、「俺はまったく成長していない。いまだに四角い穴に丸いものを入れようとしているんだ」と。



▼関連盤を紹介。

左から、キリング・ジョークの2010年作『Absolute Dissent』(Spinefarm)、PILの81年作『The Flowers Of Romance』(Virgin)、リチャード・ヘル&ザ・ヴォイドイズの77年作『Blank Generation』(Sire)、プライマル・スクリームの2008年作『Beautiful Future』(B-Unique)、リー“スクラッチ”ペリーの2011年作『Rise Again』(MOD)、マッシヴ・アタックの2010年作『Heligoland』(Virgin)、デア・プランの81年作『Normalette Surprise』(Ata Tak/Medical/CAPTAIN TRIP)、ファクトリー・フロアの2009年作『Talking On Cliffs』(Magnetic)

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年03月21日 00:00

更新: 2012年03月21日 00:00

ソース: bounce 342号(2012年3月25日発行)

構成・文/北爪啓之

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