こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

堂島孝平 『A.C.E.』



ベスト・アルバムで17年間のキャリアを総括した堂島クンが次に見せるのは……! やんちゃでユーモラス、もちろんポップなクレイジー・アンサンブル『A.C.E.』!



堂島孝平_A

冴えまくり、キレまくり──堂島孝平の絶好調ぶりがダイレクトに感じられる新作である。デビューから17年の軌跡をコンパイルしたベスト盤『BEST OF HARD CORE POP!』(KinKi Kidsに提供した“カナシミブルー”のセルフ・カヴァーも収録)を経て届けられたニュー・アルバム『A.C.E.』。〈常に新しい挑戦を続ける〉という精神を貫き、軽やかさと驚きを湛えたポップ・ミュージックを生み出してきた堂島クンだが、シャープかつスウィートな手触りに満ちた本作からは、彼の音楽がさらに進化していることをハッキリと感じ取れる。まず印象に残るのは、小松シゲル(ドラムス)、奥田健介(ギター)、鹿島達也(ベース)という名うてのミュージシャンたちと〈発明〉したバンド・サウンド。ドラムとベースを強調したアレンジは、ダンス・ミュージックの力強いビートにも負けない、際立った個性を放っている。

「ダイナミクスが強くて、アレンジメントにおいても、〈あっ、こんなの聴いたことないな〉っていうものをめざしました。音の粒立ちが良くて、歌とドラムとベースが極端に前に出てるっていう──ダンス・ミュージックですよ、完全に。それは前作の『VIVAP』でもやってたんですけど、あのときは7人編成くらいの感覚だったし、もっとカラフルだったんです。今回はさらに削ぎ落として、ソリッドになってますね」。

50〜60年代のポップソングを想起させる華やかさ、80年前後のポスト・パンク、ニューウェイヴの鋭さを共存させたサウンドのなかで広がっていく〈歌(詞)〉にも、斬新なトライアルが込められている。女の子に呼び出されたものの、特に楽しいことが起きるわけでもなく、夜中ぼんやりと帰宅する男の子を描いたポップ・チューン“あのコ猫かいな”、〈ぐるぐる回る〉洗濯機をテーマにしたファンク・ナンバー“センタッキ!”など、それらに共通しているのは「身の回りで起こっていることをポップスに昇華させる」というアイデアだ。

「『A.C.E.』のなかで歌ってるのは、普段ツイートしてるような、言ってみればどうでもいいことですよね(笑)。いまって、極端に前向きだったり、やたら設定がデカい歌が多いじゃないですか。そこに一石を投じたいという気持ちもあるんですよ。似たようなものが多すぎるっていうのは、作り手として許せないところもあるので」。

“境/界/線”における〈境界線からボクラはこんなにはみ出して〉〈帰れる場所すらねえよ〉というラインも強く心に残る。その時代の気分をワンフレーズで言い当て、リスナーの感情を揺さぶっていく──それもまたポップ・ミュージックの大きな役割であることを、改めて思い知らされる。

「ライヴのパフォーマンス、見た目とかも含めて、ハッピーな歌が多い印象があると思うんですよ。でも、普通に“境/界/線”みたいにセンティメンタルな曲がどうしても出来ちゃうんですよね。自分の居場所がないなって感覚がいまだに強いし、大前提として〈どうやったらオレ、もっとマシになれるんだろう〉っていうブルースが根底にあるというか。“あのコ猫かいな”もそうなんだけど、カラフルで明るく聴こえても、そこで歌われてるのは決して上手くいってることばかりじゃない。〈笑い泣き〉みたいな感覚も、僕の音楽の特徴だと思いますね」。

やんちゃで、ユーモアに溢れ、センチメントもたっぷり。優れたポップ・ミュージックの条件を備えた『A.C.E.』は、2012年のポップ・シーンに心地いい衝撃を与えるだろう。

「bounce読者には音楽的なおもしろさを感じてもらえると思うし、全然音楽に詳しくない人にとっても〈こんなの聴いたことない!〉っていう驚きが詰まったアルバムだと思うんですよね。もちろん、どんなふうに捉えてもらってもいいんですけど、ワクワクするような発見をしてほしいと思います。僕もそういう体験を通して、音楽を好きになったので」。



▼堂島孝平の近作を紹介。

左から、2010年作『VIVAP』(バップ)、ベスト・アルバム『BEST OF HARD CORE POP!』(インペリアル)

▼先頃リリースされた堂島孝平と西寺郷太(NONA REEVES)によるSmall Boysのファースト・シングル『Graduation Mystery/Cosmic Action』(CRYSTAL CITY)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年03月21日 00:00

更新: 2012年03月21日 00:00

ソース: bounce 342号(2012年3月25日発行)

インタヴュー・文/森 朋之