LONG REVIEW――藍坊主 『ノクティルカ』
〈生きること〉に徹底的にフォーカスしたコンセプト・アルバム
歌詞に着目する限り、極めて明確な意図を持って編まれたコンセプト・アルバムと言っていい。1曲目“天国からの手紙”で描かれているのは、おそらく東日本大震災をモチーフとし、愛する者を失くして心に深い傷を負いながらそれでも生きてゆく人々への心からのエールであり、ラスト曲“涙が滲む理由”で歌われる〈命は一人一人の中にはない、人と人を繋ぎとめるもの。〉という力強い結論へと一直線に繋がっている。この2曲は藤森真一の作詞/作曲だが、hozzyはhozzyで彼特有の鋭いイマジネーションを駆使した“エフィラ”“メテフィラ”といった曲で、生命の根源についての詩的な表現を試みる。一見甘く切ない青春ソングに聴こえる“ホタル”“花火計画”なども、〈生きること〉に徹底的にフォーカスしたこのアルバムのなかでは、ズシリと重い実感を伴って胸に迫ってくる。
サウンド的には、“イエロームーンチャイルド”“生命のシンバル”“ホタル”など、得意としているパンキッシュでメロディアスなサウンドをベースとしつつ、グッと幅を広げた印象だ。60年代のサイケデリック・ロックへのオマージュのような、カラフルなサウンドメイクを施した“バク”や、反復するエレクトロ・ビートとディストーション・ギターとがダイナミックに融合する“エフィラ”、深い海の底を漂うような美しいエフェクトを纏わせた“メテフィラ”などを聴けば、このバンドの飽くなき音楽的な成長意欲を疑う余地はない。
かつては〈青春パンク〉と呼ばれたバンドが、そのメッセージの核心部をより研ぎ澄ましながら、音楽的なトライを積み重ねてここまで来た。藍坊主の生き方を、ロック・バンドが歩む理想の道の一つとしてリスペクトしたい。