インタビュー

MARILYN MANSON

 

忌むべきは世界か、それとも自分自身なのか——怪しく、妖しく、禍々しい光を放つ3年ぶりのニュー・アルバムは、リフレッシュした環境で思うままに組み立てられた、新たなる地獄への危険すぎる招待状なのだ!!

 

 

ヘヴィーというよりハード

キリスト教に楯突き、世界を震撼させた男——マリリン・マンソンが、傑作『Antichrist Superstar』から15年、自身の存在意義を再確認するかのようなニュー・アルバム『Born Villain』を完成させた。本人いわく「自分でレコードを作り始める以前の気持ちを感じたかったんだ。マリリン・マンソンになりたいと思った時のあの気持ちを、また感じたかった」とのこと。ショック・ロッカーとして、グロ系ヴィジュアル教祖様として熱狂的ファンを引き連れ君臨してきたマンソンが、一介のロック・ファンにすぎなかった頃の初期衝動を取り戻している。

ご存知のようにマリリン・マンソンとは、永遠に愛される銀幕女優マリリン・モンローと、凶悪殺人グループの首謀者チャールズ・マンソンとを掛け合わせたネーミングだ。米オハイオ州の地方都市カントンで悶々としながら疎外感に押し潰されそうになっていた少年、ブライアン・ヒュー・ワーナーが思い付いた突拍子もない現実逃避からこのバンドはスタートしているわけだが、その時期に聴いていた音楽が今回の新作には大きく影響を及ぼしているという。

「キリング・ジョークやジョイ・ディヴィジョン、リヴォルティング・コックス、バウハウス、バースデイ・パーティといったようなサウンドさ。ヘヴィーというよりもハード。このアルバムのハードさに関してなら不足はないよ……この表現ってすごく性的にも、哲学的にも聞こえるけれど(笑)」。

そんな『Born Villain』で展開されるのは、初期ポスト・パンクやゴシック・ロックを彷彿とさせる艶やかでダークなサウンド。煌びやかなアンセム調ではないが、その代わりにハードでソリッド、まったく無駄のないしなやかなビートが社会の闇から滴り落ちた邪悪な思想と絡まり合いながら、いびつな不協和音を軋ませ、カオスを呈し、泣き叫ぶだ。

デビュー以来、愛憎関係にあった所属レーベルのインタースコープを遂に離れて、新たに自身のレーベル=ヘル・エトセトラを英クッキング・ヴァイナル内に設立したマンソン。アルバム制作にあたっては、いわゆる断捨離のようなことを実行したそうだ。つまりハリウッドにある酒屋の階上の、元はダンススタジオだったというだだっ広いスペースへと移り住み、そこを根城として制作は行なわれた)。

「始めた頃と同じ気持ちになるために、要らない物をすべて排除したよ。で、いったん黒いカーペットと白壁だけにしてみたら、今度はアートワークで埋め尽くさなければってことに気が付いた。絵画、音楽、映画など幅広い分野のアーティスティックな友人たちとコラボする時間が必要だったんだ」。

 

悪にまつわる命題

そのアーティスティックな友人のひとりが、今回ボーナス・トラック“You're So Vain”にも参加したジョニー・デップ。映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズなどでお馴染みの〈船長〉が、そこではギターとドラムスを担当。畑違いとしか思えないカーリー・サイモンの大ヒット曲を、マンソン&デップの顔合わせが歪んだ解釈で蘇らせている。

「彼とはTVの『21ジャンプストリート』にエキストラとして出演した19歳の時に知り合ったんだ。ホントだよ。逸話としては最低だけど……親しい友人なんだ。いっしょにたくさん曲を作って録音したよ」。

同じくハリウッドからもうひとり、今回の共謀者に名を連ねているのがシャイア・ラブーフ。映画「トランスフォーマー」などで人気の彼は、マンソンの大ファン。アルバムを紹介する同名ショートフィルム「Born Villain」で監督を務め、不気味なマンソン・ワールドを具現化している。またアルバムからのファースト・シングル“No Reflection”のPVには、マンソンのお気に入り映画「RUBBER ラバー」の監督クエンティン・デュピューと女優のロクサンヌ・メスキーダが参加。相変わらず美女には目のない彼なのだが、最近では嘘か真か、あのラナ・デル・レイと付き合っているとの噂も囁かれているようだ。

「“No Reflection”をファースト・シングルにしたのは、アルバム全体のムードをもっともよく表わしているからなんだ。いちばんキャッチーでみんなの脳裏に焼き付く曲かと言えば、そうじゃないかもしれないが、曲の善し悪しとそれとは別だからね。3年くらい前に出来た曲で、その時点ではいまとは違った形ではあったものの、アルバム制作はそこからスタートしている。そういう意味でも“No Reflection”はこのアルバムに収録されるべき曲であり、みんなが最初に耳にするべき曲なんだ」。

アルバム・タイトルの『Born Villain』が指しているのは、悪人とは〈生まれつき〉なのか、それとも〈育まれたもの〉なのかという命題。かつてのコロンバイン高校の乱射事件をはじめ、頻繁に起こる残虐な凶悪殺人犯たちにとって、マンソンのような音楽や映像、ゲームなどが実際に影響を及ぼし、引き金となっているのか。それとも、もともと彼らは生まれながらの悪人ということなのか。それはマンソン自身の己への問い掛けでもあり、彼の音楽に惹かれるわれわれリスナーへの問い掛けでもあるのだろう。

 

▼文中に登場したアーティストの作品を一部紹介。

左から、キリング・ジョークの83年作『Fire Dances』(EG/Virgin)、ジョイ・ディヴィジョンの80年作『Closer』(Factory/London)、バウハウスの80年作『In The Flat Field』(4AD)

 

 

▼関連盤を紹介。

左から、ジョニー・デップが参加したルル・ゲンスブールの2011年作『From Gainsbourg To Lulu』(Fontana)、“You're So Vain”のオリジナルを収録したカーリー・サイモンの72年作『No Secrets』(Elektra)

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年04月25日 18:00

更新: 2012年04月25日 18:00

ソース: bounce 343号(2012年4月25日発行)

インタヴュー・文/村上ひさし

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