インタビュー

MoNa a.k.a. Sad Girl 『Never say never』



濃厚な新作を引っ提げてSad Girlがストリートに帰ってきた。いままで以上に己の表現をまっすぐに突き詰め、甘く切なくやるせなく、凛と咲くMoNaの歌を聴け!



MoNa_A

日本ではまだまだ珍しいチカーノ・ラップ/R&Bのスタイルを標榜し、クラブやローライダー・イヴェントなどでパフォーマンスを続けてきたMoNa a.k.a. Sad Girl。本場のチカーナたちが醸し出す情緒を咀嚼して生まれたハイブリッドな魅力は、出身地の京都で活動を開始した時から貫いてきた現場主義の賜物だろう。初の全国流通盤『Hearty Beat』(2008年)から急上昇しはじめたその人気は、集大成的な仕上がりとなった『POR ViDA』(2010年)のセールス面も含む成功でいよいよ拡大していた。

「それ以前から女の子のファンが多いんですが、さらに増しました。ライヴではいつも前の5列はガールズ・オンリーになってます。あとは子供にモナって名前を付けたという方を4人ほど知ってます(笑)」。

が、リリース後の彼女は活動を一時休止。外部での客演なども増え、あきらかに上昇気流に乗っていただけに、正直もったいなく思えたものだが……。

「休んだ理由は……正直に言うと、ビビったんです(笑)。確かに『POR ViDA』を出してファン層の変化や知名度の上昇にはかなり驚いて、私は何も変わってへんのに変わっていく環境が怖くて仕方ありませんでした。わがままな悩みとも言われましたけど、やっぱりあの時期は自分でこうあるべきだという〈MoNa像〉が見えなくなっていましたね……」。

そんな迷いからおよそ1年を経た昨秋、渡米を経てリフレッシュした彼女は、力強いダンスホール調の“Azucena”を配信リリースして活動を再開。スペイン語で〈ユリの花〉を意味する表題が冠された同曲を選んだのには、MoNaなりのファンへの思いもあったそうだ。

「ユリって咲いてる時は凛として強く見えるけど、枯れる時は1枚ずつ、儚く、そして切なく散る。そんな素敵な女性でありたいな……っていう気持ちの反面、強く咲いてるように見せてるだけで、本当はいまにも花びらが落ちそうな〈弱さ〉に気付いてほしいという気持ちも込めてます。私は女の子のファンにすごく支えられているので、まず彼女たちに捧げたくて」。

同曲の好調を受けて登場したのが、およそ2年ぶりの新作『Never say never』だ。濃密な歌声とキレのあるラップという持ち味はさらに磨き上げられ……とかいう理屈じゃなく、バンギンなGファンクでゴリゴリ迫る冒頭の“Girlz Do It Better”から問答無用のカッコ良さにブッ飛ばされる!

「1曲目からパンチを喰らってほしかったから、今回イントロは入れてません。それはきっと何か吹っ切れた自分を表しています。今回はリリックをオブラートに包まなかったものが多いですし、何か狙いがあったというより、自分が作りたかったものやカッコいいと思えるものが出来ました」。

容赦ないリリックでエモーションを全開にする彼女だが、FUEKISS!!やonodubらによる多彩なトラックが詰め込まれたトータルの展開は一貫して心地良い。パトリース・ラッシェン風の流麗な“Haa-Hoo”やライター・シェイド・オブ・ブラウン“Hey DJ”を連想させる“The Best Day Of My Life”に代表される、90年代っぽいスムースさも作品全体の流れを快くしている。

「90年代は大好物でかなりお気に入りです。金、酒、男みたいなブリブリな曲は自分らしくないし、やっぱスムース・チューンは得意」。

他にも、盟友SURELOを迎えたレゲトン調の“Bang”、タブゾンビのトランペットを擁するトム・ブラウン“Funkin' For Jamaica”のリメイク“Asian Funk”、ラオス出身のシンガーであるトミー・Cとの儚いデュエット“Come Back To Me”、「このタイミングでどうしても歌いたかった」という哀切に満ちたMANABOON製のスロウ“R.I.P”など、聴く者の胸に迫るMoNa節はどこを切っても素晴らしくグッとくる。楽曲の一つ一つに溢れる思いの強さは「絶対〈Never〉って言わへん、初めから〈無理や〉って諦めたりしない、そんな強さがいままでの私にはなかったので自分を煽ってやりましたよ(笑)」というアルバム・タイトルにも顕著だろう。

「アルバムを開けてもらうと中にサインするスペースがあって。それはCDを買って聴いてもらって、ライヴに足を運んで生で聴いてもらい、最後に私が直接サインをして、初めてこのアルバムが完成するという意味なんです。ゆくゆくはワンマン・ツアーもしたいので、まずは一つ一つのライヴを確実にこなすよう努めます。アルバムを聴いて直接会いに来てくれたら嬉しいですね」。



▼関連盤を紹介。

左から、ライター・シェイド・オブ・ブラウンの94年作『Layin' In The Cut』(Mercury)、トム・ブラウンの80年作『Love Approach』(GRP/BBR)、SOIL & "PIMP" SESSIONSの2011年作『MAGNETIC SOIL』(ビクター)、SURELOの参加した2011年のコンピ『BARRiO SUiTE -JAPANESE CHICANO STYLE VOL.3』(TEARDROP)

▼MoNa a.k.a. Sad Girlのフル・アルバム。

左から、2008年作『Hearty Beat』、2009年作『Sadgirl on the street』、2010年作『POR ViDA』(すべてTEARDROP)

カテゴリ : インタビューファイル

ソース: bounce 344号(2012年5月25日発行)

インタヴュー・文/出嶌孝次

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