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インタビュー

パスピエ 『ONOMIMONO』



!極上のポップソングを生み出す才能集団が『ONOMIMONO』でメジャー進出だよ!よだ出進ーャジメで『ONOMIMONO』が団集能才す出み生をグンソプッポの上極!



パスピエ_A



フィジカルが強くなった

無邪気と邪気が隣り合わせた歌声に、タイトでキッチュな80年代テクノ・ポップ調のサウンド、超ポップなメロディー、そして謎のイラストによるプロフィール——とはいえ、昨年のデビュー作『わたし開花したわ』にパッケージされていたのは、ただただキャッチーで高品質なポップソングたちでした。そんなパスピエが、またも天衣無縫な名曲を詰め込んだ『ONOMIMONO』でいよいよメジャー・デビュー。そんなわけで、音楽面のリーダーを務める作曲担当の成田ハネダ(キーボード)と、作詞を手掛ける大胡田なつき(ヴォーカル)のふたりに訊いてみましたよ。

——『わたし開花したわ』の反響をどう見ていましたか?

成田ハネダ「僕なりに、メンバーなりにアルバムにはいろいろなエッセンスは詰め込んだつもりなんですが、単純に“電波ジャック”のイメージが強かったんだなって、ライヴでも実感しましたね。曲名だったり、シンセがいっぱい鳴ってるサウンドだったり」

——実体があるのかないのかわからないぶん、イメージの初期設定に大きく作用した曲ではありますよね。

成田「ただ、この半年でライヴを重ねていくうちに“チャイナタウン”も口ずさんでくれるようになっていったり、お客さんの反応も変わっていって。あと、認知されて嬉しいっていう感情ももちろんあります」

大胡田なつき「周りに知ってもらうことで、自分たちのやってることに自信が持てるようになったのかな。リハの感じもとてもいいですし」

——バンド内の人間関係も良い?

成田「まあ、別にどこかにみんなで遊びにいったりはしないですけどね(笑)」

大胡田「ないです」

成田「あ、三澤(勝洸:ギター)とやお(たくや:ドラムス)がルームシェアすることになって。それは衝撃でしたけど(笑)。それで関係が良くなるか、悪くなるか……」

——どっちかですね(笑)。で、そういう状況を反映して新作『ONOMIMONO』が早くも完成したわけですが。

成田「リリースはこまめに続けたいし、前作から間髪入れずに新曲を作ろうって決めてました」

——大胡田さんが作詞、成田さんが作曲、バンドでアレンジっていうクレジット上は前作と同じですけど、実際の関わり方はどうでした?

成田「前回が悪かったとか、今回が劇的に良くなったとかではなく、単純にバンドとしてのフィジカルが強くなったかなっていうのはあって。それがきっかけかはわかんないんですけど、前作はバンドで録った後に、僕が気の赴くままにキーボードやらストリングスをダビングしていって仕上げたんですね。それが今回は、蓋を開けてみたらそんなに加えたりするところがなかったんです。なので、実際リアルタイムでバンドの変化を肌で感じたわけじゃなくて、蓋を開けてみたらパスピエの音楽像っていうものをバンドで具体的に出せるようになってきたのかな、と思いました」

——確かに今回はベースがよく聴こえたりして演奏が太くなってますね。あと、鍵盤からいわゆるテクノ・ポップ的な音色使いが少なくなったように思います。

成田「前作はバンドがいまの5人に固まったところからリリース時点までの活動をまとめた作品なんです。それを出して反響もあって、じゃあ次を作りましょうとなった時に、メジャー最初の作品ということもあって、僕が10代の頃に書きためてた……つまりパスピエを組む前ってことですけど、その“トロイメライ”と“最終電車”をパスピエで消化してみたいと思ったんですよ。ポップソングを書きはじめた頃の自分が肯定されるのか試してみたい気持ちもありましたし。で、ニューウェイヴとかテクノっていう前作同様のサウンドに10代で書いてた曲を当てはめていいのか、別のアプローチがあるんじゃないか、ってことで、結果的にシンセの割合が減って、ピアノやエレピになった部分もあります」

——ちなみに、メジャーから出すことって意識してましたか?

成田「いまって、もともと裏だった音楽が表になっているというか……パスピエが裏表どっちなのかは聴く人次第ですけど、表であるべき音楽が表に立った時にいろんなおもしろいことを起こせるんじゃないかな、と思っているので。自分はポップソングをやりたいんです」



いろんな角度から捉えられる

大胡田が絵を描いて制作したPV曲“トロイメライ”は、前作の延長線上にあるサウンドで緩急自在な疾走を見せてくれますが、ファンキーなオルガンの響く“デモクラシークレット”、シャープなギターリフが哀愁を導く“プラスティックガール”、とアルバム全体はバンドとしての一体感を増した彼らの現在進行形をより明快に示すものになります。そして、幻想的なピアノのパートからダイナミックに展開する“トリップ”、エレピの温かみがメランコリーを包み込んで走る“最終電車”と続いて“ただいま”で着地する後半の展開には胸を揺さぶられます。これがいまのパスピエです。

——その“トロイメライ”と“最終電車”についても、詞は大胡田さんが書かれてますし、制作のプロセスは同じなんですよね。

成田「曲が先で詞が後っていうのは前作と同じですね。ただ、前作だと“電波ジャック”は僕も半分作詞してますし、“うちあげ花火”や“真夜中のランデブー”は、もともと仮タイトルがそういうものだったりしたんですけど、今回に関しては仮タイトルでイメージを与えないで、大胡田の世界観だけで広げていければと。そういうクリエイティヴの面ではかなり前作と違いがありますね。上がってきた歌詞を受けてメロディーをいじってみたりもしましたし」

——詞は前と違う雰囲気を感じました。音の印象も相まって、生々しさがあって。

大胡田「前は曲ごとに自分を作り上げたり、キャラクターづけたりして書いていたんですけど、今回は本当に自分がいつか書きたいなと思ってたことだとか、好きだった言葉とか、短い文や単語だけを書き留めていたようなものから言葉を選んで繋げて書いてみたりとか。〈自分の言葉〉みたいな部分が大きいかもしれないです」

——今回はキャラクターが自分そのものだったりする?

大胡田「自分と近くなってきているかもしれないです。そのままと言われればそのままかもしれないですし、自分の多面的な部分の、その一面ですね」

——抽象的じゃない恋愛の歌が多いように思ったり。対象がはっきりしてるのに、手が届かない感じというか……後半で、なんか泣きそうになるんですけども。

大胡田「(笑)前だと“ただいま”みたいな感じの詞はなかったですね。もっと人っていうものだとか、自分の思い出とかに近いものが出てきているのかもしれないです」

成田「体温感がありますよね。今回は音的にそこまでパキッって開けてる曲はないので、どんな歌詞になるかと思ったら病み感漂う感じで、おお……と思いました(笑)。本人はきわどい恋愛だったりとか、死に向き合うことだったり、生命だったりを意図してる部分があるみたいですけど、大胡田の歌詞って捉えようによっていろいろ意味が変わる気がしてて、だからいろんな角度から想像してもらえるように、音の面でもメンバーとイメージしてアレンジしました」

——そういえば〈ONOMIMONO〉っていうのは? 直接関係のある曲はないですよね。

大胡田「そうですね。前回は最初に“開花前線”を書いた影響もあって思いついたタイトルなんです。そこから回文にするっていう縛りが生まれたんですけど、今回はおもしろい言葉とかをメモしてた中から、形がよい!と思って」

——丸とギザギザが記号みたいに並んで、図形としてかわいいですね。

大胡田「いい形ですよね。真ん中が〈I〉っていうのも気に入っているんですね」

ONOMIMONOの真ん中にストローのように刺さったIは、愛なのか、それとも〈アイ〉なのか。いずれにせよ、エッジと丸みを兼ね備えたその形はパスピエの紡ぎ出すポップなサウンドのそのもの。そんなわけで、『ONOMIMONO』はいかがですか。



▼パスピエの2011年作『わたし開花したわ』(COCONOE)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年07月25日 00:30

更新: 2012年07月25日 00:30

ソース: bounce 345号(2012年6月25日発行号)

インタヴュー・文/出嶌孝次