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インタビュー

THE XX 『Coexist』



たった1枚のアルバムで音楽シーン全体をメランコリックでアンニュイなムードに塗り替えたXX。彼らの描く闇の向こうには、いったいどんな景色が広がっているのだろう……



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いまUKでもっとも厚い信頼と期待を寄せられている若手と言えば、XXを置いて他にいないだろう。2009年に送り出したファースト・アルバム『XX』が、有力な音楽メディアの年間ベストをほぼ総舐め。さらに、セールスよりも音楽性を重視することで一目を置かれている〈マーキュリー・プライズ〉を受賞するなど、新人にとってこれ以上ないほどの理想的な成功を収めてきた。急激な成功の代償としてか、メンバーの脱退劇があったものの、それも彼らの勢いに歯止めをかけてはいない。次々と〈話題の新人〉が生まれては消えていくなか、XXは誰よりも新作を待望されていたバンドである。



俺は完璧主義者だからね

そして、そんな彼らからついに届けられた3年ぶりのニュー・アルバムが『Coexist』だ。本作には、変わらぬXXらしさと確かな成長の跡の両方がしっかりと刻まれている。

「自分でもすごく満足してるよ」と静かに語るのは、昨年ソロとしても八面六臂の活躍を見せたトラックメイカーのジェイミー・スミス(以下同)。

「(ソロ活動を経て)俺はまた2人の親友とどうやって仕事をするのか学び直さなくちゃいけなかったんだけど、最終的にはそれがアルバムに良い結果をもたらしたんだ。そういった学びの過程やチャレンジが、俺たちにより大きな自信を与えたからね。それに今回、プロデュースだけじゃなくてエンジニアリングもやったのが、個人的にはチャレンジだった。俺は完璧主義者だから、サウンド作りにはたくさんの時間を費やしたよ」。

そんなふうにたっぷりと時間を費やせたのは、自分たちで新しく作ったスタジオでレコーディングしたことも関係しているかもしれない。〈マーキュリー・プライズ〉で手にした賞金をスタジオの建設費用に充てると宣言していた彼らは、実際にロンドンの街中にプライヴェート・スタジオを設立。もっとも、ジェイミーが言うには、それは決して豪勢なものではなく、「家の近くにアパートを借りて、音漏れ防止で壁中にカーテンを張っただけ」らしいが。

シンプルに〈俺たちのスタジオ(Our Studio)〉と名付けられている彼らのスタジオがどの程度の規模であるにせよ、自分たちだけの居場所を持つことができた3人は、そこにメンバー以外の誰も入れることなく、毎日のように夕方から翌朝まで楽曲制作に没頭。「俺たちはただ音楽のことだけを考えていた。ファースト・アルバムを作っている頃みたいな感覚だったね」と語っているように、前作の成功からくるプレッシャーはほとんど感じずにレコーディングを行えたらしい。

実際『Coexist』には、セカンド・アルバムにありがちな肩の力が入りすぎた様子はなく、驚くほどに自然体の3人、いつものXXの姿がある。そっと囁き合っているようなロミー・マドリー・クロフトとオリヴァー・シムの物憂げなヴォーカル、ツボを得たクールなビート、空間を活かした音数少なめのギターとベース──そして、その音の行間から立ち上がってくるのは、夜の街角にひとりポツンと佇んでいるような、どこまでもメランコリックで切ない情景だ。

「僕らが本当に好きな音楽ってメランコリックなサウンドだし、そういう音楽を作るのはそんなに難しいことじゃない」とジェイミーは説明する。「だって、大抵の時はハッピーっていうよりメランコリックでいるほうがリアルだし、リスナーもそこに共感してるんだと思うよ。90年代のハウス・ミュージックにもそういう感覚を持っているものが多いよね。心を動かす悲しい歌詞を歌いつつ、踊ることができるっていうものが」。



新しい音にたくさんインスパイアされたね

先ほども〈変わらぬXXらしさと確かな成長の跡の両方がしっかりと刻まれている〉と書いた通り、『Coexist』は前作を繰り返しただけではない。やはりソロを経験した成果は大きく、ジェイミーが担当するビートとサウンド・プロダクションは目覚ましい進化を遂げている。音の深みや奥行きが前作とは段違い。また、ダブステップ以降の尖鋭的なサウンドが次々と生まれているクラブ・シーンからの影響を咀嚼したリズムの組み方も、以前より遥かに冒険心に溢れていて刺激的だ。

「俺は昨年DJで世界を回っていたから、他のDJがかける新しい音楽をたくさん聴いて、それにインスパイアされたね。この前はフォー・テットやカリブーとギグをやって、6時間もバック・トゥ・バックをしたんだ。すごく楽しかったし、あの2人はいつも進歩的で革新的な音楽を作っているから、俺のやることに影響を与えてるよ。でも、新作では特に誰かに影響を受けたとは言いたくないんだ。っていうのも、ただ大勢の人たちが同じ音楽を楽しんでいるっていう感覚に、俺は刺激を受けたんだからね」。

7月に行われた来日公演では、スタジオ音源よりもさらにビートのエネルギーが強く感じられた。とりわけ、新作のちょうど折り返し地点に収録されている“Reunion”〜“Sunset”のダンス・ミュージック的な展開は、間違いなくライヴのハイライトだったと言っていいだろう。だが、そのビートの力強さが彼らの儚く繊細な雰囲気を壊すことはない。つまり、〈心を動かす悲しい歌詞を歌いつつ、踊ることができる〉というジェイミーが語った90sハウス・ミュージックの魅力は、そのままXXの魅力として置き換えることが可能なのだ。そして、その〈悲しくも踊れる〉というコントラストがいっそう研ぎ澄まされているという点において、『Coexist』には彼らの良質な進化が刻まれていると言っていい。



▼関連盤を紹介。

左から、9月12日にリリースされるフォー・テットのシングル集『Pink』(Text/HOSTESS)、カリブーの2010年作『Swim』(City Slang)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年09月19日 17:59

更新: 2012年09月19日 17:59

ソース: bounce 347号(2012年8月25日発行)

インタヴュー・文/小林祥晴