THE D.O.T. 『And That』
ミュージックのロブ・ハーヴェイと、ストリーツのマイク・スキナー。2000年代のUK音楽シーンにおいて、異なるフィールドで活動してきた両者の出会いを、今年の〈フジロック〉で来日した際にマイクがこう振り返ってくれた。
「実は僕とロブは同じ事務所に所属していて、マネージャーもいっしょなんだ。ずっと友人関係でもあったし、もう10年来の付き合いになるよ」。
ストリーツのラスト作品『Computers And Blues』(2011年)ではロブが3曲で参加し、その後のツアーやドイツの野外フェス〈Melt!〉にまで帯同するなど、公の場でも親密な関係を披露。勘の良いファンなら2人が何か新しいアクションを起こすことを、その時点で予感していたかもしれない。
「ストリーツの活動を終えた後に、仲間のミュージシャンたちとセッションを繰り返していたんだ。楽曲制作というよりも、トラックやビートを実験的に録り続けていたという感じだね。その際に〈スタジオに遊びに来ないか?〉とロブにメールしたのがきっかけで、まず2人で3曲作って、その後は60曲以上の楽曲を完成させた。それがD.O.T.の始まった経緯だよ」。
ストックされていたそれら60以上もの楽曲は、インターネット上で次々と公開。驚くことに、ほとんどの曲にPVも存在するほどの徹底ぶりだ。そして今年6月には名刺代わりとなる『Whatever It Takes EP』を日本限定で発表。改めて突発的なコラボではなく、〈2人が演る意味〉みたいなものを提示することになった。
「僕自身、ラッパーとしては認知されてきたけど、プロデューサーとしての一面はあまり知られていなかった。ロブも同様で、彼が本当に素晴らしいシンガーということをもっと知られていいと思った。それが、D.O.T.というプロジェクトの目的のひとつでもあるよ。楽曲に関しては、僕が好きなビートやリズムを作って、そこにロブの持つロックやソウルフルな側面を打ち出すという感じかな」。
リリシストとしても評価が高い2人だけに、歌詞の内容もユーモアに溢れている。ミュージシャンとして成功したいま、日常のなかでその目に映るリアルな風景や情緒が、時に切なく、時に自虐を含む笑いも込めて綴られていくのだ。
「歌詞に関してはロブと僕が半々で書いている。当然、曲によっては僕がバック・トラックの歌詞を書き、ロブがメインの部分を書いているものもあるよ。ストリーツの最後の頃はリリックを書いていても、どこかTV番組の脚本を書いているような感覚だったんだ。というのも、曲中の物語を明確にリスナーへ伝える必要性があったからね。でも、ロック・バンドの歌詞は表現が曖昧でも音楽が格好良ければ許されることもある。ラップはそうはいかないからおもしろいよ。そういう意味でも、D.O.T.の歌詞にはロブの貢献が大きいと思う」。
そんな2人から、これまで公開してきた音源に新曲を交えて構成されたプレ・デビュー・アルバム『And That』が到着した。ダブステップやムーンバートン、ポストR&Bといった近年のクラブ・ミュージックのトピック的な要素を抽出し、そこに(マイクがロブの特徴のひとつだとも語る)ソウルフルな側面を融合。良い意味で裏切りの絶えない楽曲が連なっている。
「お互いにワーキングクラス出身ということで、育ち方や人生観も似ている部分は多いと思う。人間性や笑いに対するセンスも含めてね。ただやっぱり、2人で演る理由は〈良い音楽を作りたい〉という共通の思いに尽きる」。
2000年代をリアルに通過した2人の音楽的な趣味趣向を反映させ、ハイブリッドな現在のUKミュージックを創造するD.O.T.。今後のUKシーンにおける〈ポスト〜〉を明確にするヒントが、彼らの音楽に隠されているかもしれない。
PROFILE/D.O.T.
元ミュージックのロブ・ハーヴェイと元ストリーツのマイク・スキナーによる2人組。ストリーツの2011年作『Computers And Blues』にロブが参加したことから、徐々に新ユニット結成の話が進行する。そして、お互いのプロジェクトが活動を休止した2011年末に曲作りをスタート。今年に入って、6月に日本独自企画となるファーストEP『Whatever It Takes EP』を発表し、7月に〈フジロック〉で初めてのライヴを敢行。その後もSoundCloudで次々と新曲をリリースする。10月には初のUKツアーを行うなど活動を本格化して注目されるなか、これまでに発表してきた楽曲をまとめたプレ・デビュー・アルバム『And That』(HOSTESS)を日本限定でリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2012年11月19日 17:10
更新: 2012年11月19日 17:10
ソース: bounce 349号(2012年10月25日発行)
インタヴュー・文/鈴木貴視