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インタビュー

THE D.O.T. 『Diary』



マイク・スキナーとロブ・ハーヴェイ──一度キャリアをリセットした2人が、新しい可能性を模索しながら綴った音楽のダイアリー。不安も焦りも希望もすべて受け止めて、歌え! 踊れ!!



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最初は焦りもあった

ロンドンの下町に暮らす若者のやるせない日常をリアルな言葉で切り取り、2000年代の音楽シーンに新しい歌詞のスタイルを持ち込んだストリーツのマイク・スキナーと、2000年代UKインディー・ロックの異端児ことミュージックのロブ・ハーヴェイ。すでに昨年の〈フジロック〉に出演、日本ではEP『Whatever It Takes EP』と編集盤『And That』も出しているので周知のことだろうが、そんな2人が組んだユニットがこのD.O.T.だ。

彼らが初共演したのは、ストリーツの最終作『Computers And Blues』(2011年)。ここでロブのハイトーン・ヴォイスとマイクが作るトラックの相性の良さは十分に証明されていただけに、こうしてタッグを組むことになったのも不思議ではない。

「ストリーツの最後のアルバムを作った後に、いろんな人とセッションしていたんだ。次に何か新しいプロジェクトを始めるまでの繋ぎみたいな感じでね。そこにたまたまロブが来たんだけど、いきなり良い曲が2つも出来て手応えを感じたんだよ。それでいっしょにやってみようって話になったんだ」(マイク)。

当時まだ契約のなかった2人は、ネット上に次々と完成した曲をアップ。無名の新人ならともかく、一時代を築いたアーティストがこのようなやり方でゼロからスタートを切ったことに、驚いた人も多いはずだ。「なぜああいうことをしたかっていうと……」とマイクは切り出す。

「あの時は世の中に曲を発表する方法が他になかったから。自分が作ったものを早く外に出したかったしね。まあ、最初は焦っていて、自分たちの動きをファンに見せたかったっていうのもある。でも、あれでストリーツやミュージックのファンが、〈D.O.T.というユニットを組んで、こういう音楽を作っているのか〉って早い段階で知って気持ちを盛り上げることができたと思うよ。それに、ネットに曲をアップするのは従来のやり方から自分たちをデトックスする行為っていうか、即効性とか創造力を発揮できる場として楽しめたね。10年間ずっとひとつの契約に縛られて……当時の契約には何の不満もなかったけど、でも、アルバムを作ってツアーをするっていう繰り返しで感じる、飽きや不満から解き放たれたいっていう気持ちもあったんだ」。

そして、ここ1〜2年の間に彼らが作ってきた曲から、ロブいわく「いちばんいいものを選りすぐった」のが、ファースト・アルバム『Diary』である。まるで日記をつけるかのようにコンスタントかつ継続的な曲作りのなかから生まれた作品のため、こう名付けたとか。



ギャフンと言わせてやるよ

D.O.T.のスタイルは極めてシンプルで、マイクの作ったブレイクビーツに乗せ、ロブの伸びやかな歌声がアンセミックに響き渡るというもの。『Diary』収録曲は文句なしの粒揃いであり、2人の底力を感じさせる会心の出来と言えるだろう。ミュージックにせよ、ストリーツにせよ、終焉が近付くにつれて重苦しい雰囲気が色濃くなっていったが、本作ではふたたび瑞々しい感覚が取り戻されているのも印象的だ。

「それってつまりドラッグみたいなもので……いや、僕はドラッグなんてやったことないけど(笑)。みんな、初めてヘロインをやった時に感じた衝撃を味わいたくて、何度も手を出してしまうわけだよね? 僕らもストリーツとして、ミュージックとして、初めてアルバムを作った時の感覚から遠ざかってしまっている感じがしたんだと思う。やっぱり新しい環境に身を置き、新しい人と新しいやり方で制作することによって、可能性は拓かれるしね。そう、今回はファースト・アルバムを作る感覚を思い出すことができた。それに去年〈フジロック〉でライヴをやった時も、(ストリーツで)初めて〈サマソニ〉に出た時の感覚を思い出したよ。歌詞は全然覚えていないし、どうなるかわからなくて不安ばかりなんだけど、逆に何でもありなんだ!っていう部分もあって」(マイク)。

しかし、このアルバムは単純に、ふたたびスタートラインに立った喜びを祝福するだけのものではない。「みんながいっしょに歌えるような曲になっているけど、確信の持てなさみたいなものも感じるんじゃないかな」とマイクが語るように、ある種の不安や迷いも滲み出ている。その背景にあるのは、過去に大きな功績を残したアーティストだからこそ重くのしかかってくる、〈デビュー時の鮮烈な輝きは取り戻せない、もうあいつは落ち目だ〉といった類いの無責任な周囲の言葉だと2人は語る。

「でも、不安があるからこそ素晴らしい作品が生まれるんだ。背水の陣じゃないけど、ここでがんばらなきゃっていう気持ちになるしね。実際、この作品を作るにあたって僕らは本当にがんばった。何十曲も書いて、そのなかからベストなものに絞ったんだよ。周りからストリーツと比べられたり、昔のように良い作品が作れないんじゃないかっていう懐疑的な見方をされているのも感じていた。正直、良い作品が出来なかったらどうしようっていう怖さもあったしね」(マイク)。

実際、このアルバムのムードは重苦しくも解放感があり、ダークでありながらも希望に満ちているという二面性を持っている。それはまさに、揺れ動く彼らの気持ちを生々しく描写したものなのだろう。本作の素晴らしさとは、その偽りのないリアリティーであり、そして、ギリギリのところで不安を跳ね除けようとするエネルギーにある。取材が終わって席を立つ時、D.O.T.に懐疑的な目を向ける人々に対し、「でも絶対、僕たちはそいつらをギャフンと言わせてやるよ」と言い放ったマイク。その言葉には決して強がりではない力強さが感じられた。



▼2012年にリリースされたD.O.T.の日本編集盤を紹介。

左から、EP『Whatever It Takes EP』、プレ・デビュー・アルバム『And That』(共にHOSTESS)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年05月21日 14:00

更新: 2013年05月21日 14:00

ソース: bounce 354号(2013年4月25日発行)

インタヴュー・文/小林祥晴