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インタビュー

Rabbit 『裸人』

 

ウサギ……ですか!?──ヴィジュアルからして混乱させる、謎だらけななかの第一歩。個性もキャリアもさまざまなミュージシャンたちによる集合体、Rabbitとは?

 

 

ひとつの形であって、最終目的ではない

去る11月30日、ニュース配信サイトなどでその存在が報じられていたRabbitが、とうとうこの世にピョコリと姿を現した。場所は都内某所、この発表記者会見の模様は動画配信もされていたので、その様子を見た方も多いと思う。会場に姿を見せたのは、名うてのミュージシャン6人。そのメンバーとは、JAGATARAの南流石を中心に、森俊之、Watusi、佐藤タイジ、沼澤尚、そして、大塚 愛。

Rabbitは、バンドでありながら、〈コングロマリット〉だという。コングロマリットとは、相互に関係性のなかったものたちが合わさり、多角的に活動を営む集合体/複合体のこと。つまり、バンドはひとつの形であって、最終目的ではない。バンドを起点にどんどん仲間を増やし、ジャンルを越えてメンバーを増殖していく可能性もあるというものだ。そんなRabbitの初期設定の根底には、80年代に世界中で話題となったUSAフォー・アフリカの“We Are The World”、その進化型をめざしたいという想いがある。あの時、世界は横に手を繋いでひとつになろうとした。Rabbitは横だけでなく縦にも人を繋ぐ。縦横無尽にさまざまな人々が数珠繋ぎになることによって、ジャンルも世代も突破していこうというわけだ。「上にも下にも手を差し出していろいろなものを引っ張り上げる。あるいはいろいろなものに引っ張られる」(南流石)──この行為を〈コングロラビット〉と呼ぶそうだ。

コングロラビットを実践すべく、レコーディングもメンバー全員が顔を突き合わせてのものとなった。これだけのミュージシャンが顔を揃えているだけに、いや、そうではなくても、楽器ごとのレコーディングがいまや常。ベースとドラムのリズムを録り、そこにギターとキーボードを乗せ、最後にヴォーカルを入れる。いまはそれが普通のパターン。だが、Rabbitはメンバー6人でのレコーディングを基本とした。その理由は、デビュー・アルバム『裸人』から伝わってくる。サウンド的には生音と電子音、生のリズムとプログラミング、オルタナティヴでもありメインストリームに響くものでもある自由な発想。大塚が書いた曲を佐藤が歌ったり、佐藤が書いた曲を大塚が歌ったりと、メンバーのユーティリティー・プレイヤー的な活躍も魅力的だ。“泡ガール”という曲では、ファンキーなギターのカッティングが印象的なダンス・ポップを聴かせたり、“Nikki”では佐藤がブルージーなプレイを聴かせながら大塚とヴォーカルの掛け合いをしたり、“ローリン アース ストーン 〜地球を転がせ〜”では、いまを生きる人々を鼓舞せんとする言葉を壮大なスケールのスロウ・バラードに乗せて歌い上げてみたりなど、ヴァラエティーに富んだ楽曲たちは、どれも兎に角、優しい。それはきっと、個性豊かな、というよりバラバラな6人が、顔を突き合わせて音楽を奏でたからなのだろう。

バラバラな6人だったゆえに、結成から2週間ほどで意見がぶつかり合い、早くも解散の危機を迎えたという裏話もあったと聞いている。しかし、結果的にはその場でのカオスや摩擦がこの集合体らしく楽かったという。今後、〈コングロラビット〉が進めば、さらに大きなカオスや摩擦が生まれることは容易に想像できるが、Rabbitはそこをも越えて行くであろう強さも早々に身に付けたというわけだ。生物学的にもウサギは繁殖能力が高い生き物。つまり性欲=〈生欲〉が強い。この〈生欲〉によって共同体はますます大きく、強くなっていく。個と個が寄りかかり合うのではなく、高みに向かって信頼し合い、競い合う。その相手を、Rabbitでは〈仲間〉と呼ぶ。

 

 

優しさを生むグルーヴ

個への信頼は、6人の間だけのことではない。活動に伴って接するすべてのスタッフにも、その原則を貫いている。例えば、ミュージック・ビデオにおいてもそう。今回、Rabbitの映像監督を務めているのは、Superfly、ゆず、BOOM BOOM SATELLITES、9mm Parabellum Bulletなど幅広いアーティストの作品を手掛けてきた若手映像作家・田辺秀伸。現在、“Nikki”のミュージック・ビデオと映像作品「裸人」の2本が公開されているが、これらのクリエイションは、Rabbitから田辺への〈どの曲で作りたい?〉というひと言から始まっているのがユニークだ。通常、ミュージック・ビデオというものはシングルでリリースされる曲、またはアーティストやレーベルが推したいと思う曲で作るものだが、Rabbitの場合はアルバムを全部聴かせたうえで、〈あなたが作りたい曲で作ってください〉と委ねたわけだ。そして、田辺が作ったのが、南の作詞、佐藤の作曲による“Nikki”。さらに彼は、Rabbitからのユニークなオーダーにユニークな形でお返しとばかりに、「裸人」というタイトルの映像作品も手掛けるが、同名の楽曲はアルバムのなかにはなく、このタイトルはズバリ、アルバムのタイトルだ。田辺はアルバム『裸人』の全曲をフラッシュバックさせ、まさに数珠繋ぎになった1本の映像を作り上げた。ずいぶんと大変な作業に進んで挑んだわけだが、作品を完成させた田辺のひと言がイカしている。

「こういう仕事、みんなやりたいって言うと思う」──この信頼感がRabbitの核でもある。楽曲制作以外のポジションに就いている人たちには余計な口出しをせず、作業を全面的に任せる。そこに必要とされるのは、ひとつの大きな目標に向かってみんなで楽しむということだ。では、そのRabbitの目標とは何なのか? それは、人を優しくするということだ。Rabbitというコングロマリットに参加する者は、それぞれ個々での活動も持っている。個々で追求すべきものは個々で果たしていくものとして、Rabbitに関わっている瞬間は、ただ人として優しくなってほしい、そんな想いがある。そこで生まれるのは信頼。人数も増えていけば、メンバー同士はウマが合わないこともあるのかもしれない。それでも信頼し合える仲間、それは絆とか友情とかといった言葉で繋がっているものとも違う。信頼、つまりグルーヴ。このRabbitの放つグルーヴは、過不足なく、温かく、優しく、気持ちいい。

Rabbitは、すでに新たなコングロマリットを始めている。11月30日に行われた発表記者会見でもすでに2名のモーション担当の増殖が発表された。さて、次はどんなメンバーを増殖させるのか? いやいや、もしかして増殖ではなく、減少するのかもしれない。ピョンと飛び出してきたRabbitがどんなふうに跳ねていくのか、注目し続けたい。

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年12月12日 18:00

更新: 2012年12月12日 18:00

ソース: bounce extra issue 2012 Winter

インタヴュー・文/ジョー横溝