インタビュー

挾間美帆インタヴュー(ロング・バージョン) /3

「ジャズ作曲家」?

──国立音大に入学したときはどういう作曲家になろうと?

「えー、映画音楽の作曲か、クラシックの作曲家になるかと」

──まさかこうなるとは?

「思っていなかったです。二年前も思っていなかったです(笑)」

──いまは思っている?

「いまはやっと思えたのでCDを作ることが出来ましたね」

──「ジャズ作曲家」というのは、珍しい言い方かもしれないけれど……

「皆さんに、こう、一番気軽に、というか馴染みがある言葉で私の立場を説明するとこうなると思うんですね。二年間、ジャズを学びに、というかジャズ科に入ったのですが、周りの友達はあんまりジャズを勉強していない、というかジャズのディグリーではありますが、教えている先生たちもものすごい他の音楽とのつながりが深くて、私の教授に最初のレッスンで(国立音大で師事した)夏田昌和さんとまったく同じことを言われてしまったんです──「この音には何の意味があるんですか?」って。で、私答えられなかったんですよ。ジャズってもっと、耳に優しい音楽書いてれば良いと思っていたものですから。

NYには知識がほとんどない状態で行ったので、「この音には何の意味があるんですか?」って聞かれて「ん?」と思っちゃって。そしたらその先生は、作曲する前にまずはスケッチをして、この構成とこのモティーフと、ちゃんと意味のある構図とモティーフで計算して、全体像を割とイメージしてから書くような、かなり緻密な譜面をお書きになる方で、出てくる音もジャズだけではない、コンテンポラリーな、現代的なクラシックの音や、あるいはロック的な要素とか、そういうものがすごく混ざっていたんです。

マリア・シュナイダーはわたしにとってはかなりヒーローのような存在です。彼女の作風もジャズという枠を越えた音が聴こえてくる。二年間そういう音楽に触れる機会がすごく多かったということもあったわけです。だから、「自分の音楽を作りなさい」と、ジャズとかそういうことじゃなくて、「あなたはあなたのアイデンティティを使って出来る音楽を作るべきであるから、そのままそれを続けなさい」と言われ続けたので、このCD、というか卒業するまでには自分のバンドの編成とか、作りたい音楽の方向性が「これが自分がやりたかった音楽だったんだな」とかためることは出来たんです。

ただしかし、それを録音して持って帰り「じゃ、これが挾間の音楽なんでどうぞ」って言っても「挾間だれ?」だし、「この音楽は何?」ということになってしまう。わかりやすい言葉で代弁するためにはどうしたらいいか。まずは、ベースとドラムがいて、それからインプロヴィゼーションするセクションがある、というその二つの要素から、ジャズ、というのが一番わかりやすい。というところで、この結論に。ジャズ作曲家と言うと、みんなには「ジャズっぽいけど作曲する人なんだ」って分かってもらえるかな、と。

現にNYでは若い子たちが、ジャズ作曲科に入って、私もジャズ作曲科で勉強していたわけだし、そうやって作曲や編曲やコンダクトをする人たちもいるわけです。そういう立ち位置が成りたっているので、日本ではあまり馴染みがなかったものですから、ぜひ、日本でもジャズ作曲家という立場がもっと広まると良いな、という思いもこめているんです」

──たとえば、少なからぬ人たちは、ジャズというとインプロヴィゼーションだと思ったりします。で、そのうえで、これくらいこまかく譜面に書いているというのは、どんなふうに説明しましょう?

「そういう音楽がジャズにも増えてきた、と言った方がわかりやすいかもしれません。昔はそうではなかったのは事実です。昔はセッションで、たとえばうまい人だけが出てきて、やっぱり格好良かったり……。でも、そのうちだんだんマイルス・デイヴィスとかが自分の新しいジャンルを他のもと融合していって、それがまた現代音楽やクラシック音楽と出会って、変わっていって、現在のようになってきた。そんなふうにとらえればいいのではないでしょうか」

──それこそビッグバンドというのが流行というか、時代の趨勢から外れてしまった、と言うのが逆に良かったのかもしれないとも考えたりするわけです。つまり、ビッグバンドのなかのうまい人が立ってちょっとソロをとる、とかいうのではなく、それこそ全体をどういう風にコントロールしつつ新しいひびきをつくっていくのか、っていうのは、そういうマイナーな位置にあったからこそ可能だったのかな、と。なんてね。

「なるほど。しばらく、そうですね、遠ざかっていたと思いますね」

──逆に、じゃあ、ジャズってなんですか? みたいな意地悪な問いを発したくなるわけですが(笑)。ラヴェック姉妹とか、二人で弾いたりするときって、ほとんどちゃんと書いてあるわけですよね、譜面が。でも、スウィング感は断然良い。逆に、即興はしているけどスウィング感はありませんよ、ってプレイヤーもいくらでもいる。だからそれは譜面を書いているかどうか、即興をするかどうかじゃないじゃないか、ともね。

「私は、自分の曲をジャズっぽく聴かせるためには、良いドラマーを選ぶんですね(笑)。彼以外には、このバンド、このベースとドラムとは偶然にも学校で出会ったのですが、この二人なしにはこのバンドは成りたたない、と言うくらいこの音とグルーヴを愛しています。自分が良い演奏して、自分のバンドで、というのはもちろんある。でも、良い演奏したいのであれば、ミュージシャンは自分の責任でプロデュースするのが、正しい仕事、ジャズ作曲家のだと思いますね」

──ちょっと余計なこというと、少し前、渡辺貞夫さんが某楽器店でレクチャーをされたとき、その相手役をやったんだけど、10年前の録音とかDVDをかけたわけです。で、会場の方にただ参考程度で視聴してもらおうとしただけだったんだけど、貞夫さんがかけている最中に自分で楽器を吹き始めちゃったわけ。だから、10年前の渡辺貞夫と現在の渡辺貞夫が共演してしまうという、すごく不思議な光景があって(笑)。しかも、部分的には、その、アドリブが重なるんです。で、あとで、「貞夫さん、どうして、あんな……おぼえていたんですか、あのアドリブ?」「おなじ曲を何回もやっているから似てきちゃうんだよね」って。そのときはびっくりしてアタマがはたらかなかったけど、そうかもしれない、ってあとでおもうようになった。アドリブって、みんなやり方がちがう。勝手にやっているかもしれないけれど、人によっては、先に書いておいて、覚えてやる人もいたりする。で、何回もおなじようなことをやっていると、似てきちゃうってあるんだろうな、と。でも、10年前の自分と共演というのは……すごく良かった。お客さん、びっくり。

「良い、良い! ベストに聴こえるツボって絶対あると思いますね。いくらインプロヴィゼーションとはいえ」

──だから、作曲家っていうのは、それを目指して書くわけでしょうね。そこがソング・ライティングなのかコンポーザーなのかの違いでしょ? で、さっき、先生が一音だけを「この音はどういう意味なの?」と問い掛けたのは、「コンポーズ」の意味で考えた時に、このブロックが何でいるの? ということだよね。

「そうです。芸術的な意味で考えるわけです」

──だから、そういうことまで考えると、東京オペラシティでの「ニューイヤー・コンサート」は、まさにそういう作品を聴く場、なのだろう、と。

「こちらは、かなり芸術作品を聴いていただくためのコンサートだと思います(笑)。いままでもクラシックの方々から、プロデュースされることが多かったものですから、今回もその方向性を失わないように、ドラムとかベースとかそういうものは入らずに、オーケストラだけで出来ることを考えたているわけですね」

──作曲したとき、それこそ一番、こう、注意というか強調したいところってどんなところですか?

「えっと……それは編曲ではなく、作曲で、ですね? それこそ芸術家としては、書くことに意味がある音楽を常に心がけているので、コンセプトはしっかり、簡単にすらすら書くということではなくてしっかり練るようにしてはいます。ただ、それは、聴いている方にはなるべくわからないように、というのが私の作曲するときのモットーですね。というのは、私の両親はプロのミュージシャンではないものですから、前に一回作曲して「超格好良い!」と自分で思った曲を聴かせたら、ひと言「わかんない」って言われたことがあって……」

──よくあることです(笑)。

「それが、すごくショックで(笑)。そっかー、いつも応援してくれていたのに、わかんないって言われちゃったなー、と。それから、やっぱりそういう人にでも「なんかわかんないけど楽しいな」とか「なんかわかんないけど綺麗だな」って思ってもらえるように。で、蓋を開けたら「あっ、そうなっていた」とか思う人がいてもいいんじゃないかな、というくらいの気持ちで曲を書くようにしていますね」

──わかんない、っていうのは難しい。どこがわかんないって言わせてしまっているのか、自分でもわからないから。

「そうなんですね。まあ、どうやら格好良くなかったみたいです。私は格好良いと思って書いたものが。難しかったみたいで」

さいごに

──アルバム『Journey to Journey』に収められた作品はどこかで演奏しないのでしょうか?

「します! 1月31日に、六本木STBスイードベイジルです。NYからベーシストとドラマーを招き、アルバムとおなじ13人編成で。そう、あと、わたしのホームページに、アルバムのなかの1曲をPVにしているのですが、これもご覧いただきたいのです。J-POPってPVあるじゃないですか。あれ、すごく良いことだと思っているんですね。音楽がわからないという人も「面白そうだから見てみよう」って気になる。視覚から何か別の刺激が入るという意味ではすばらしいことだと思っていて。視覚から音楽を得る、というのが私は大変好きでね。バレエとか舞踏、アニメーション、映画、TV、CM…映像。全部好きで、そういう意味でそういうものをこういう音楽に対してもつけられるというのはうれしい」

──PVはどこで見られますか?

「私のウェブサイト上(http://www.jamrice.co.jp/miho/)で11/1に公開しておりますので、誰でも無料で見られます」


LIVE INFORMATION
東京オペラシティ ニューイヤー・ジャズ・コンサート2013
山下洋輔プロデュース「挾間美帆のジャズ作曲家宣言!」

1/11(金)19:00開演
曲目:
[第1部]山下洋輔(挾間美帆編曲):Selections from "CANVAS in QUIET"
[第2部]挾間美帆:Suite "Space in Senses"(世界初演)
出演:挾間美帆(作・編曲、P、指揮)東京フィルハーモニー交響楽団  山下洋輔 (プロデュース、P)
会場:東京オペラシティ コンサートホール
http://www.operacity.jp/

「ジャーニー・トゥ・ジャーニー」発売記念ライブ

1/31(木)19:30開演
出演:狭間美帆m_unit
会場:六本木STBスイードベイジル
http://www.jamrice.co.jp/miho/

©Miho Aikawa



カテゴリ : インタヴュー Web Exclusive

掲載: 2012年12月27日 17:48

interview&text:小沼純一(早稲田大学教授/音楽・文芸批評)