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インタビュー

小林太郎 『tremolo』



小林太郎



[ interview ]

いまの日本のロック作品ではなかなかお目にかかれない、思いきりダーティーでヘヴィーでメタリックなギター・リフの猛攻にたじろぎつつ、湧き上がる強烈な快感を抑えることができない。2012年、ふたたびソロに転じた小林太郎によるメジャーからの初フル・アルバム『tremolo』は、グランジ、ハード・ロック、ヘヴィー・メタルなどをルーツとする彼本来の音楽性をストレートに吐き出したうえ、激しさのなかに美しさと切なさが滲むメロディーと、心の内面を鋭く抉りながらも確かな希望を感じさせる力強い歌詞、そして何といってもロック・ヴォーカリストとしてズバ抜けたパワーを誇る歌声とが一体になった会心の一撃だ。〈無意識の意識〉という独自の境地に達した現在の心境を語るその言葉は淀みなく、自身の正しい居場所を見い出した者のみが持つ開放的な喜びに溢れている。



いちばんはギターが前に出ること



――本当の意味でのファースト・アルバムだなと思いながら聴きましたよ。どこを取っても〈これが俺です〉という音が鳴っていて。

「おっしゃる通りだと思います。もともとバンドでもソロでも、頭のなかの曲のイメージをそのまま形にしていくことは変わらずにいたんですけど、ファーストの『Orkonpood』から培ってきた音楽の知識の部分で、自分の音楽を形にするための道筋がやっと見えてきたんですよね。ミックスとかマスタリングも含めて。『tremolo』を作り終えて感じたのは、〈意識して無意識に書くこと〉という心の持ち方とレコーディングの知識がようやく噛み合って、いままでよりも自分のイメージまんまのCDが出来たなと思ってます」

――〈意識して無意識に書くこと〉というのは、歌詞の面で?

「音もそうです。前作『MILESTONE』からアレンジャーさんについてもらってるんですけど、俺、全然わかんないんですよ。〈このコードは♭5で〉とか言われても〈は?〉って(笑)。そういうところを助けてもらいながら、基本的に耳に残るロックめなギターのリフは全部俺が弾かせてもらって、それ以外の細かいところをいろいろ教えてもらったんですよ。だから俺が弾いたところだけで言えば、本当に無意識です。リフを思い付くのも、そのリフを実際に弾く時のヴィブラートの位置も、オレの手癖がすごく出てる。それで良かったんですよ。俺はヴォーカルとギターしかできないけど、そこで俺っぽさを出すことができたので」

――このアルバム、とにかく音圧がすごい。特にアタマの2曲。ぶっ飛びましたよ。

「その、音圧も不思議なんですよね。〈押してダメなら引いてみる〉で、2年前だったら〈このドラム、カッコ良いですね。じゃあドラムはこのままで、ギターをもう少し上げてください〉とか言ってたけど、それは良くないんですよ。エンジニアの人に言われたのは、〈そうすると、ドラムが小さくなるよ〉って」

――ああ、そうか。

「ギターを出したいなら、ドラムを下げなきゃいけない。音量の全体を100%とすると、そのなかでどの楽器が何割を占めるか?という世界だから、ドラムを大きくすればするほどギターの成分がそれに喰われちゃう。そういうことがだんだんわかってきたんですよ。〈すごい音圧だね〉って言ってもらいましたけど、それは、音を削って出来たものなんですよね。増やして出来たものじゃない」

――なるほど。すごくよくわかる。

「そう思ってこのアルバムを聴くと、純粋な聴き方じゃないかもしれないけど、ちょっと楽しいかもしれない。たとえば3曲目の“艶花”はヴォーカルをグッと上げてるんですよ。細かい話をすれば、ほかにもいろいろあるんですけど」

――1曲ごとにあるんですね。聴かせたいポイントが。

「そうです。でも大まかに言っちゃえば、いちばんはギターが前に出ること。できるだけギターを大きくするために何かを下げるということですね」



小林太郎



リフものが好き



――それは小林くんがヴォーカリストよりも、ギタリストとしての意識が強いということ?

「リフが好きなんですよね。簡単に目立てるから、昔からよくリフを弾いてたんですよ。あれをよく弾いてました、THE YELLOW MONKEYの“TVのシンガー”とか。〈デデデデーデー♪〉って、モロに(レッド・)ツェッペリンのリフなんですけど(笑)。リフはたぶん、音楽のなかでいちばん好きなものなんですよね。シンプルでストレートで、いちばん覚えやすくて、俺はそれしか好きじゃないぐらいだったんです。だからニルヴァーナも好きになったし。プログレのほうにいかないのもたぶんそういうことなんですよ」

――ああ、なるほど。

「ソロを弾きたいって思ったことは1回もない。ジャンルも、アコギでもエレキでも何でも良くて。ただ覚えやすくてストレートで、みんなで楽しめるものだっていう、そういうところでリフが大好きなんですよ。あとは単純に、オレがギターキッズだということですね」

――そんな小林太郎という存在って、いまの日本のシーンを見渡してちょっと独特だと思う?

「どうなんですかね? 確かにいまは、リフもののロックって少ないのかもしれない。みんなもっと、70年代のロックをやればいいのにと思います(笑)。あとは90年代前半のロックとか。ハード・ロック/ヘヴィー・メタルも、〈ザ・リフもの〉じゃないですか。無駄に排気量のデカいアメ車みたいな(笑)。そもそも高校の時に〈これカッコ良い!〉と思ったのがニッケルバックだったんですよ。自分の好きなジャンルはグランジで、アリス・イン・チェインズ、サウンドガーデン、ニルヴァーナとか……そのへんもリフものだけどグランジ色が強くて。でもニッケルバックは、そのなかでもポップさを失わないままに〈ザ・リフもの〉で。ビッグ・ステージで映えるサビとかを狙って作っていて、それがカッコ良かったから〈いいなぁ〉ってずっと思ってたんですよ」

――そういうルーツは、いまの音のなかにバッチリ出てますよ。

「最近いっしょにやらせてもらうバンドさんにも、〈お、リフものだね〉〈いいね、好きだよ〉って言ってもらうことが多くて、それは単純に嬉しいです。俺にとっては自然なことだったんですよ。曲を作る時、いいリフを考えるために全体力を費やすということが(笑)。きっとそのリフを弾きはじめた時に、みんなに〈ウワー!〉って言ってほしいんでしょうね。で、〈ウワー!〉てなってくれる状況に耐え得るリフでありたいんです、いつでもどの曲でも」


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掲載: 2013年01月16日 18:01

更新: 2013年01月16日 18:01

インタヴュー・文/宮本英夫

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