インタビュー

LONG REVIEW——小林太郎 『tremolo』



衒いなく、自身の思う格好良さを追求した痛快作



小林太郎

これを待っていた。ザクザク突き刺さるようなギターのリフに、本能的な叫び。身体を揺らし、たぎる熱をそのまま封じ込めたような、理屈じゃないロック。小林太郎、覚醒。そう言い切っていい3枚目のアルバムだ。

現在22歳の彼。シーンに登場した2010年の時から、彼は天性のロック・アーティストだった。一発で〈誰? これ〉と聴き手の耳を鷲掴みにするような、ゾクッと背筋が震えるような〈声〉の持ち主。ヒリヒリした焦燥感をそのまま転じたような楽曲。スタイルや形ではなく、グランジやオルタナティヴ・ロックの根底にあったエネルギーをそのまま体現してしまう異能のソロ・シンガーとしてのデビューだった。

同年にアルバム『Orkonpood』をリリースし、その後に収録曲がドラマ主題歌に抜擢されて、数々の夏フェスのステージへも参加。さらには〈ミュージックステーション〉へも出演と、順風満帆に思われたキャリアの幕開けを飾った小林太郎。しかし、その後は迷走が続いた。〈小林太郎とYE$MAN〉というバンドを結成して小さなライヴハウスを拠点に活動していたかと思うと、昨年7月にはふたたびソロへ。きっと、彼はどこかで迷っていたのだと思う。スキルには揺るぎないものがある。しかし果たして自分自身は何がやりたいのか。ミュージシャンとして進むべき道はどこにあるのか。そういう壁に向き合っていたのではないかと思う。しかし、新作『tremolo』を聴く限り、彼は悩みの期間を突き抜けたようだ。アルバムには、そう確信させられるパワーが漲っている。

うねりまくるギター・リフと疾走するビートに乗せて〈嫌なんですよ そんな誇示宣伝は〉と歌う“答えを消していけ”。ポップソングとしてのスケールの大きさを感じさせるストレートなバラードの“目眩”や“星わたり”。モロにメタルなギチギチのリフに歌謡曲的なセンスを感じさせるメロディーが乗る“輪舞曲”。衒いなく、真っ直ぐに〈格好良い〉と思うことを追求した全11曲が収録されている。知識や技術ではなく、自分自身の〈声〉と感覚を軸に、唯一無二の音楽を作っていくこと。それが貫かれている痛快なアルバムだ。


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掲載: 2013年01月16日 18:01

更新: 2013年01月16日 18:01

文/柴 那典

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