INTERVIEW(2)——作った人が見える音楽
作った人が見える音楽
――あと、今回は隠し味的に、プログラミングも要所で使ってるでしょう。
「そうなんですよ。新しいことにもいろいろ挑戦してます。オレができればいいんですけど、なかなかできないから、アレンジャーさんにイメージを伝えて。アレンジャーさんもすごくわかってくれて、新しい楽器が入るんだけどそっちがメインにならずに、ひとつのツールであるということを守りながらやってくれたので、それはすごく良かったなと思います。でも最後の“星わたり”だけはちょっと違っていて、シーケンスから全部俺が作ったんですよ。しかも4年前に」
――そうなんだ。
「上京する前だから、いままでリリースしたどの作品よりも先に出来てたんですよ。その時にシーケンス、構成、歌詞、ギター・ソロ……全部作っていて、それをレコーディングし直したんです。今回ほかの曲にもけっこう打ち込みが入っていて、それもあって入れやすかったんですけどね。4年前に〈柳ジョージみたいなソロを弾きたい〉と思ってがんばった曲なんですけど」
――例えが渋いなぁ。
「すごくがんばったんですよ。そしたら4年後に弾けなかったという(笑)。〈どうやって弾いたんだっけ?〉って」
――この“星わたり”は本当に良い曲。歌詞もストレートに胸に飛び込んでくるし。
「オレは曲作りをする時に、〈いまのこの気持ちを曲に込めて〉ということはないんですけど、“星わたり”だけはそういう曲です。上京する時には期待と不安があるじゃないですか? 誰でもそうだと思うけど。そんな時にGOING STEADYの“銀河鉄道の夜”を聴いて感動したんですよね。それで〈俺もこういう曲を書けないかな?〉と思って、バーッと作った曲です」
――この曲には、当時の生々しい感情がそのまま入ってるわけでしょう。いま歌い直してどんなふうに思いました? 気持ちは変わってない?
「変わってないですね。でもそれが良かったなと思う。あの時に感じた期待と不安を持ったまま、どんどん洗練されていくのがいちばんいいと思ってるんですよ。この曲を作った時は、音楽を始めた時よりも音楽の知識が増えていたし、その時の期待と不安は、例えば階段の5段目から6段目に上がる時のプレッシャーなんですよね。でも昔が5段目から6段目だとしたら、いまは10段目から11段目で、全体の高さは違うけど、登る高さは変わらないんですよ。だから気持ちはそんなに変わらないと思います。いま、この曲をそのまんまレコーディングできたということは、変わらなくていいっていう答えのような気もするし、それをこのメジャー・ファースト・フル・アルバムの最後にそのまま入れられたということは、その時の自分に対して〈オマエの思った通り、変わらなくて良かった〉ということだし、変わらないのがいちばんいい方法で、目的に達するためにおまえは変わらずにいて良かったねという、ひとつの答えでもあるのかなと思ってるんですよね」
――さっき、〈いまのこの気持ちを曲に込めて〉ということはない、と言ったけれども。でも全曲、いまの小林くんそのものが出てると思いますよ。いま言ったみたいなことが、全部歌詞のなかに。
「そうなんですよね(笑)。ただ“星わたり”とほかの曲との違いは、ほかは無意識で書いてるから無意識の自分が出てるんですよ。“星わたり”は上京する直前の気持ちをそのまま描いてるから、その違いはあると思います。ほかの曲は無意識から出てきた曲だから、〈俺はいま、こういうことを思ってるんだ〉ということを発見しやすいんですよ。例えば“愛のうた”で言えば、〈偏りたくない〉という気持ちが根底にあって、希望に満ち溢れてもいないし、絶望のなかにいるわけでもないし、世の中には嫌なニュースのほうが多いけど、ありもので満足しなきゃいけないという、そういうことを歌ってます。身近なことで感謝しなけりゃいけないことはたくさんあるけど、大きく考えると感謝したくもないような嫌な世界で、でも例えば嫌なニュースを観てメシがまずくなるんだったら、メシに申し訳ないじゃないですか。メシは悪くないんだから」
――うん。メシは悪くない。
「ニュースとメシに例えたけど、人も同じだと思うんですよ。矛盾していて、どうすることもできないことがある。でも〈そんなもんだよ〉ってずっと思っている、オレの深層心理がいちばん出た歌詞かなと思います。誰かに〈そうだよね?〉と言うんじゃなくて、〈俺はこう思ってる〉というものなので、メッセージじゃなくて、〈俺はこういう人だよ〉ということを言い続けてるんだと思います。『MILESTONE』の時には、良い音楽がどういうものかはわからないけど、わからないものを何も考えずにできるだけ出してやろうと思ってたんですけど、『tremolo』を作り終えて感じたのは、良い音楽って、作った人が見える音楽だと思ったんですよね」
――うんうん。
「俺の曲だったら、俺のことを知らない人が聴いて〈こいつ、こんな奴じゃないか?〉と思うような曲でありたい。オレがニルヴァーナを聴いた時に、きっとこのヴォーカルの奴はすげぇ病んでてキレやすいんだろうなと思ってたら、やっぱりそういう奴だった。俺が“Smells Like Teen Spirit”を聴きたい時は、誰かがコピーしたものじゃなくてニルヴァーナの音源を聴きたいんですよ。それは曲を聴いているというよりも、カート・コバーンを聴いてるんですよね。カート、デイヴ(・グロール)、クリス(・ノヴォセリック)を聴いてるんですよ。音楽って、全部そんな気がする。最近歌の練習でよく歌ってるスティーヴィー・ワンダーも、“To Feel The Fire”を聴きたい時に、誰かのカヴァーでもいいやなんて思わないじゃないですか? それはあたりまえすぎて誰も言わないことだけど、曲を聴いてその人が見えなきゃダメなんだなと思うんですよ」
――そうだね。
「生活レヴェルで見える必要はないんだけど、その人の魂が見えないとつまんない。だからコピーやカヴァーじゃダメなんですよ。で、いいカヴァーというのは、カヴァーしたその人間が見えるじゃないですか」
――そう。その通りだと思う。
「それが良い音楽なんですよ、俺にとっては。そう考えることで自分の曲にも説明がついたし、世の中の多くの曲にも説明がついた。音楽のセンスは素晴らしいと思うのに、俺が全然興味を持てない音楽は、その人が見えない音楽だったんだなって。そういうことを『tremolo』を作ることで勉強させてもらった気がします」
――そこまで核心を掴んでいるのなら、もう言うことはないです。〈このまま行け!〉っていう感じ。さらけ出すことは時に痛みを伴うと思うけど、その時はその時だと思うから。
「『MILESTONE』を作った時に、俺の音楽の才能はもらいものだなって思えたんですよ。ということは、それをさらけ出して何を言われたところで、もらいものなんだから俺のせいじゃない。俺は悪くない。俺はイメージ通りにやるためにこれだけがんばってるんだから、逆に褒めろよバカヤロー!って」
――あははは。最高の逆ギレだ(笑)。
「CD買えよコノヤロー!って(笑)。俺のせいでイメージ通りの音楽が出来ないんだったら、それは音楽に申し訳ないと思うんですよ。自分の頭のなかのイメージが、何よりもカッコ良いと思ってるから。今回だって、〈これはみんながカッコ良いって思うぞ。間違いない、俺が保証する〉って思っちゃったもんだから、イメージ通りにしなきゃ、ってがんばって。だから、あとは何と言われようが関係ない。『tremolo』の需要があんまりなかったら考えるけど、でも素直に受け止めてもらえるアルバムが出来たと思います。このアルバムを作ることで、より自分が磨かれたと思いますね」
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