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インタビュー

凛として時雨 『i'mperfect』



原点の〈3人の音〉を追求するという、また自身に高いハードルを設けた新作。満たしたくても満たせない、〈不完全な完成形〉の中身と真意に迫る!



凛として時雨_A



3人でできる究極の形を突き詰める

前作『still a Sigure virgin?』がオリコン・チャート1位を記録し、名実共に日本を代表するロック・バンドとなった凛として時雨。その後、TK(ヴォーカル/ギター)はソロ活動を、345(ヴォーカル/ベース)は百々和宏(MO'SOME TONEBENDER)とyukihiro(L'Arc〜en〜Ciel)と共にgeek sleep sheepを結成するなど、最近は個々の活動が目立っていたが、今回完成した2年半ぶりのニュー・アルバム『i'mperfect』には、暴力性と美しさが共存する〈これぞ時雨!〉といった楽曲が並んでいる。

「ソロをやったことによって、この3人でできる究極の形を突き詰めようっていうスタート地点に立てたのは大きかったかもしれないです。前作はアコギやピアノを使って、いろんな音像のなかで時雨の音楽を作り、それをさらにソロっていう違ったアウトプットで表現したことによって、今回はより3人を凝縮したアウトプットの仕方ができたのかなって思いますね」(TK)。

“Beautiful Circus”や“abnormalize”では、テクニカルなギター・フレーズと推進力のあるリズムに乗って、ますますキーが高くなったTKと345のツイン・ヴォーカルが炸裂し、跳ねるビートが新鮮な“Metamorphose”はプログレッシヴな展開で……と、アルバム序盤から勢いが物凄い。〈メンバー個々の活動の延長線上には、やはり時雨があったのだ〉なんて言いたくなるところだが、彼らはむしろこれまでと変化がないことを強調する。

「時雨とgeek sleep sheepだと完全にスイッチが切り替わっちゃうので、お互い影響を与え合ったりすることはあまりないんです。geek sleep sheepはスタジオでセッションをして曲を作る感じですけど、時雨はそうじゃないので」(345)。

「時雨ではできないことを別なところでやってるだけなので、いろんな活動をして、それを時雨にフィードバックするっていう気持ちはさらさらないです(笑)」(ピエール中野/ドラムス)。



未完成なものを聴いてもらっている感覚

TKの言葉を借りれば、そもそも凛として時雨には〈線〉という概念が存在せず、すべてが〈点〉でしかないのだという。作詞/作曲から録音/ミックス/マスタリングに至るまで、バンドのクリエイティヴィティーをほぼ100%担うTKが、いかに345とピエールのポテンシャルを最大限に引き出し、自身の描いたイメージに近付けるかという作業——彼らのアルバム制作とは、その〈点〉の繰り返しなのだ。そんななかにあって、本作がこれまでの作品と異なるのは、いくつかの曲でミックスを外部のエンジニアに任せていることである。

「僕のなかで、ミックスは曲作りと完全にいっしょなんですけど、僕はプロのエンジニアではないので、自分が作業することによって失われる部分があったとしたら、それは単純に嫌だなって。自分を疑うことは、自分を信じることと同じか、それ以上に大事なことだと思うんです」(TK)。

先行シングルにも参加していた高山徹と片岡恭久に加え、L'Arc〜en〜CielやLUNA SEAなどを手掛ける比留間整がエンジニアとして参加し、“Sitai miss me”“キミトオク”に透明感のある音像を付与。さらに、“make up syndrome”のミックスをシンフォニーXなどのメタル系の仕事で知られるイェンス・ボグレンが担当しているのも注目だ。しかし、本作のクライマックスはTK自身がミックスした“Missing ling”だろう。「すべての瞬間において自分を詰め込みたい」と思って作ったというこの曲は、サウンドと歌/言葉の一体感がアルバムのなかでも突出している名曲である。そんな現時点での時雨の完成形とも言えそうな同曲が収録されているにもかかわらず、タイトルは『i'mperfect』。一瞬〈アイム・パーフェクト〉とも読めそうだが〈インパーフェクト〉、つまり〈不完全〉なのだ。

「ソロではそこまでじゃないんですけど、時雨に関しては自分がイメージしたものを満たせてないっていう思いが根本にあって、その絶望感とか悲しみが自分に突き刺さって苦しいんです。それを何とかアルバムっていう形にして聴いてもらうんですけど、未完成なものを人に聴いてもらっているという感覚はこれまでもずっとありました」(TK)。

新しいインプットを入れることなく、あくまで3ピースの可能性を追求した本作の制作は、TKにとっていつも以上に困難な作業だったという。しかし、そのギリギリのせめぎ合いによって、凛として時雨の作品には独特の緊張感が生まれ、それが何物にも代え難い魅力となっていることも、また間違いない。

「凛として時雨は〈続けたい〉とかって思いじゃなくて、結果として〈続いてる〉っていうほうが、バンドの存在の仕方として美しいのかなっていうのはありますね。僕としては、(時雨の理想を)究極まで満たそうとしてるんですけど、満たしてしまったら終わってしまうと思うし。果たしてこれがどこまで続くのかわからないですが……でもきっと一生満たせないんだろうなって思ってますけどね(笑)」(TK)。



▼『i'mperfect』の先行シングル“abnormalize”(ソニー)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年05月20日 00:00

更新: 2013年05月20日 00:00

ソース: bounce 354号(2013年4月25日発行)

インタヴュー・文/金子厚武