つしまみれ 『つしまみれ』
曲作りの段階から中村宗一郎が関与することで、あるべき姿を取り戻した彼女たち。結成14年目のセルフ・タイトル作がここに完成!
自身のレーベル、Mojorからの3枚目となるアルバムは、その名も『つしまみれ』。結成14年目にして、堂々たるセルフ・タイトル作の完成である。しかし、本作は集大成的な作品というわけではなく、むしろこれまでのイメージを覆し、新たなバンド像を提示する一枚となった。
「いままでも〈これがつしまみれだ!〉と思って作品を出してきたけど、やっと出発点に立ったような気がします。14年目にして〈いまさら何?〉って感じですけど、名刺代わりの作品がやっと出来たなって」(まり、ヴォーカル/ギター)。
そんな作品の実現に大きく貢献したのが、エンジニアの中村宗一郎。もともと彼女たちはゆらゆら帝国の大ファンで、そのエンジニアだった中村に前作『SHOCKING』で初めて録音を依頼していたが、本作では曲作りの段階からガッチリとタッグを組んで制作が行われた。
「いつも作りはじめは〈こういう曲にしたい〉っていうのがあっても、3人で作り上げていく過程であれもこれもって詰め込んじゃって、結局何をやりたかったのかよくわからなくなることが多かったんです。そこに中村さんが加わることによって、〈この方向に行くんだ〉っていうのを、もう一回明確にしてもらいました」(やよい、ベース)。
「私は手数を増やしちゃうことが多かったんですけど、今回は足すよりも削ぎ落とすことのほうが多かったから、〈8ビートも4つ打ちもホント難しいな〉って、原点に帰るような感じもありました」(みずえ、ドラムス)。
その結果出来上がったのは、ストレートなギター・ポップからミニマルなクラウトロック風のナンバーまで、ラウドなだけに留まらない、実にヴァラエティー豊かな楽曲群。スタジオ作業の休憩中には中村が薦めるアーティストの曲をYouTubeで観て、さまざまな音楽を共有したことも大きなポイントだったようだ。
「“空回り”を作ってたときは、〈これ聴くといいですよ〉ってボ・ディドリーを教えてくれました。あと、個人的には近所にある音楽好きのマスターがいるバーで、ここ1〜2年でいろんなレコードを聴かせてもらってて。テレヴィジョンもそこで初めて聴いたんですけど、〈このつたないけどカッコ良いギター、私に通じるものがある!〉と勝手に思ったり(笑)。カンのオクラがいっぱい入ってるジャケのやつ(72年作『Ege Bamyasi』)も買ったりとか、知らない音楽はいっぱいあるのに、〈私たち最高です!〉って偉そうに、ずいぶん長く思ってたもんだなって(笑)」(まり)。
ラストに据えられた、淡々としながらもプリミティヴでヘヴィーな“NO PUNK”も、当初はもっとパンキッシュでノリやすい曲だったそうだが、〈本当は、初めからこうしたかった〉と、その仕上がりに自信を覗かせる。中村との邂逅によって、彼女たちはあるべき姿を取り戻したのだと言っていいのかもしれない。
「〈みんなに楽しんでもらいたい〉っていうのと、〈モッシュするだけのバンドじゃない〉っていうのが両方あるなかで、なんとなく〈こうやっておけば盛り上がってくれるかな〉みたいに流されちゃってた部分もあったかもしれないです。でも、3人で会社を設立して肝も据わってきたし、今回やっと自分たちの作りたかったものが作れたと思っているので、〈つしまみれってこういうバンドでしょ?〉っていう固定概念がある人にも、ぜひ聴いてもらいたいですね」(まり)。
▼中村宗一郎がエンジニアを務めた近作を紹介。
左から、SCOOBIE DOのニュー・アルバム『かんぺきな未完成品』(CHAMP)、GOLIATHのファースト・アルバム『TAGOMAGO』(メディアファクトリー)、キノコホテルの2013年作『マリアンヌの逆襲』(YAMAHA)
▼文中に登場したアーティストの作品。
左から、ボ・ディドリーのベスト盤『His Best』(Chess/MCA)、テレヴィジョンの77年作『Marquee Moon』(Elektra)、カンの72年作『Ege Bamyasi』(United Artists/Spoon/Mute)
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年06月19日 13:30
更新: 2013年06月19日 13:30
ソース: bounce 355号(2013年5月25日発行)
インタヴュー・文/金子厚武