パスピエ 『演出家出演』
21世紀流立体伝心永代黄金律的式目覚醒! バンドとしての総合力を高めて獲得された圧巻のポピュラリティーは、5人の比類なきポテンシャルをいよいよ白日の下に晒す……
バンドとしての生々しさ
何かしらのトレンドやお祭り騒ぎに乗っかったわけでもなく、ただ単純に高い音楽性と人懐っこさを備えたポップネスでもってフォロワーを増やしてきた5人組、パスピエ。今年1月にはそれまで(ライヴ以外では)伏せていた素顔を公開し、3月には楽曲提供した山下智久“怪・セラ・セラ”が発表されたり、初のシングル“フィーバー”をリリースしたり、4月にはThe SALOVERSとFRONTIER BACKYARDらを迎えて初の自主企画イヴェント〈印象A〉を東阪で開催したり、5月には泉まくらをフィーチャーした初のリミックス“最終電車”をリリース──今年に入ってからも数々のトピックを提供してきた。そして「いろいろと初めてのことが多かったので、〈出ました!〉感をちょっと含みつつ」(大胡田なつき、ヴォーカル)なタイトルを冠したファースト・フル・アルバム『演出家出演』が届けられる。
「今回は楽曲や音から〈内の部分〉が見えるようにしたいなあっていうのがあって。大胡田が画を描いたり、歌詞を書いたり、音源制作においては僕の頭の中で練ったアレンジを加えたり……っていうのはパスピエとしての多面性を見せるっていうことでずっとやってきたことなんですけど、そこには人と人とがぶつかり合ってない、バンドらしからぬ様子も出てるのかなって思ったんですね。けど、今回は、僕がイニシアティヴを執りつつも、アレンジの部分は自分の部屋ではなくスタジオでレコーディングしながら、メンバーとそこで受けたイメージをその場で投入していったり、そういう新鮮さというか、リアルタイム感を意識しましたね」(成田ハネダ、キーボード)。
「歌詞の書き方自体はいつも自由なんですけれど、アルバムのうちの何曲かはライブをしているパスピエの姿を想像しながら書きました。パフォーマンスだったり、お客さんの反応だったり……わたしの中では初めての試みです」(大胡田)。
「今回、ライヴで受けた影響っていうのがものすごくあって、それをリスナーに返したいっていう欲求が生まれて」(成田)。
すべての曲に意味がある
スリリングなビートとスパイシーな歌詞、ミステリアスなメロウ感が交錯する“S.S”で幕を開けるアルバムは、先行曲“フィーバー”や和テイストを忍ばせた“はいからさん”、幻想的なサウンドスケープにハードボイルドなギターが小気味よく斬り込んでくる“ワールドエンド”といったビート・ナンバーにブラッシュアップされた演奏力を顕著に感じることができる。そんなところからも〈ライヴで受けた影響〉という言葉の意味が伝わってくるのだが、加えて、85年のニュー・オーダーを想起させるメランコリーを孕んだ“シネマ”、ミッドテンポの8ビート・チューン“くだらないことばかり”、ムーディーなジャズ・ボッサ風味をさらりと盛り込んだ“デ・ジャヴ”、大胡田のヴォーカルがユーモラスかつリズミカルに跳ねる“△”、クラシカルな雰囲気を湛えた“カーニバル”などアレンジの幅を貪欲に広げたことでリスナーを楽しませる、すなわち〈リスナーに返したい〉という欲求を叶えている。彼らにとってかつてないヴォリュームの作品ではあるが、箸休め感のある楽曲は一切ナシ。11曲すべてが個性的で、どこから箸をつけても美味しくいただけるひと皿だ。
「こういう曲が入るから、その曲を聴かせるためにこういう曲を作ろうってことじゃなく、僕としては全部シングルのつもりで書いてるんですね。アルバムとして聴かせるっていうことは大事だし、僕もそういうところに憧れてやってきてはいるんだけども、いま、いろいろな音楽が手軽に聴ける環境にあるなかで、果たしてそれをそのままやって伝わるのかっていうのはあるし、ヴァリエーションを出してるっていうのも、そのぐらい力を込めて作っていかないと通り過ぎられてしまうんじゃないかって思って、ただ曲数が増えたっていうことじゃなく、一曲一曲意味のあるかたちにしたかったんですね。やっぱり、メジャーでやってる以上、アルバムの中の数曲がリードとしてフィーチャーされることは絶対だと思ってるので、そのなかで他の曲に意味を持たせるっていうところで、とりあえず僕が出した結論ですね」(成田)。
それはそれ
〈大衆性 最新の意味は何、と問いかけてみたんだ〉── “名前のない鳥”のなかにそんなフレーズがある。それは、パスピエというバンドが常に向き合っている命題のようでもあり、世の中に対するアイロニーのようでもあり……。
「この曲の歌詞は流行のもの──同じ柄のスカートを日に幾度も見かけたり、お洋服だけではなくって、食べ物や言葉などにも〈最新!〉〈いま流行の!〉みたいなものがあるじゃないですか。そういうものに少し疑問を感じたところから出てきたもので……でも、わたしが意図しているところ以外でも深読みしてもらえたらと思っています」(大胡田)。
「そういう反応っておもしろいですよね。僕の曲が大胡田に転がされてるとも言えるし、さらに出来上がった曲をリスナーが転がしてくれる。たとえばそれがたまたま予期せぬ方向に転がされたとしても、それはそれでっていう。あちこち転がっているうちに、真ん中に戻ってたりするんで」(成田)。
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2013年06月12日 17:59
更新: 2013年06月12日 17:59
ソース: bounce 355号(2013年5月25日発行)
インタヴュー・文/久保田泰平