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インタビュー

Nothing's Carved In Stone



〈自身を殺す自身〉との抵抗のドキュメントが革命をもたらした新作。不穏な感情のカオスを抜け出した先には、新たなバンドの音を手にした4人の姿があった……!



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4人の暗殺者

「これは俺自身だし、バンド自身だなって感じがすごくする。だから……俺はこのアルバムが好きだし、いまでもよく聴くんだけど、あんまり自分で分析したくない部分があるんですよね」(村松拓、ヴォーカル/ギター:以下同)──そんな彼の発言からも窺える通り、Nothing's Carved In Stoneの5作目『REVOLT』は、身を削って11曲を作り上げた彼らの、この1年のドキュメンタリーの如き作品だ。そのリード・トラックは、〈暗殺者/刺客〉という意味を持つ“Assassin”。終わりのないメランコリーを体現するかのようなギターのアルペジオに貫かれた同曲だが、そのMVにおいて、村松は何かを探して彷徨する。殺そうとしているのは誰か、殺されようとしているのは誰か──その果てに彼が出会うのは、自分自身と瓜二つの存在だ。

「“Assassin”は、自分の中の〈殺したくない自分〉とか〈押さえ込んでる自分〉に対して歌ってる歌なんですけど、なんか、今回の俺たちみたいだなと思って。今作は、確かにドキュメンタリー的なところが大きいですね。バンドのドロドロした部分とか、それぞれが持ち寄ったストーリーとか、そういうものが曲の中に閉じ込められてる」。

前作の完成直後となる去年の6月の段階で、先行カット“Out of Control”を含めた3曲はほぼ形になっていたという。合間にツアーや各メンバーの外仕事/別プロジェクトの活動を挿んでいたとはいえ、本作の制作期間はトータルで約1年と長い。

「それまでの3枚で一周して、それを踏まえての4枚目は、〈やっぱり俺たちロックだろ〉っていう意識で作ってて。それが出来たとき、〈じゃあ、次は何を作るんだ?〉っていう感じになったんですよね。しかも、こんなに長いスパンで制作してたのはうちのバンドにとってはイレギュラーなことで、そのなかで、それぞれの理想とするものやお互いわかってるつもりだったことが、実は共有できてなかった。あと、俺以外のメンバーは負けず嫌いを通り越してすごい完璧主義で。みんなミュージシャンとしてハイスペックだからこそ弱音は吐かないし、自分を追い込むだけ追い込んで曲を作る。だからだと思うんですけど、俺が最初にバンドに入ったとき、〈このバンドは誰が王様ってことにならないようにしよう〉って話してたんです。普通はヴォーカルがバンドの王様だけど、このバンドは楽器隊が主役でもいい。それが徐々にヴォーカルを立てていこうっていう流れになって、そこから最初の方向性との歪みみたいなものが生まれて……そこで〈何かが違う〉って思いながら発信し続ける状態が、それぞれキツかった。今回は、そこを4人でさらけ出す時期だったんだと思います」。



感情の解放

そうして到着した新作は、これまででもっともダークで、ダーティーで、危うい色気に満ちた仕上がりだ。クールかつ端正な彼ら特有のミニマリズムや抜けの良いメロディーに一触即発の不穏さが宿っており、サウンドがいい意味で整いすぎていない。そんな音と呼応してか、詞も挑発的な負の感情を滲ませたものが多くある。

「俺、どういうライヴをやるのが正解なんだろうって、ずっと答えが欲しかったんですよね。音楽って、聴いた人それぞれが持っているストーリーと結び付いて、その人のものになるところがすごいと思うんです。前作はそうあってほしいと思って『Silver Sun』って名付けたんですけど、そのあと、この間のシングル(“Out of Control”)に入ってる“Crystal Beat”っていう曲で聴いてくれる人に言いたいことや、ライヴでお互いに求めてるのはこういうことでしょ、ってことを書いて。あれが出来たおかげで、もう南極の氷みたいに〈溶けません!〉って(笑)、ずっと自分のなかにあった〈楽曲で聴き手に何か伝えなきゃいけない〉っていう気持ちが溶けたんですよね。それで今回は、バンドにインスパイアされたことをそのまま書いてみようって自然に思えた。みんなすごいエモーショナルなプレイをしてるってこともありましたし」。

感情を解放することで、4人の〈Assassin〉が葛藤から抜け出す様を追った本作。彼らの抵抗の物語は、過去作以上の緊張感を持って、聴き手を鼓舞することだろう。

「『REVOLT』は〈抵抗〉っていう意味なんですけど、もともとは〈REVOLUTION〉――〈革命〉っていう意味も含んでて。今回は、自分たちの持ってるコード進行とかアレンジ力、あと自分たちに対するイメージとかとそれぞれが闘ってて……もうバンドに備わってた遺伝子を変えてくぜ、ぐらいの作業だったと思うんですよね。だから〈誰かのために〉っていうタイトルにしたくなくて、〈Song for Assassin〉にしようと思ったほどで。でも、ちゃんと届くものはあるはずだから……そこまで聴いてもらえたらって、ホントに心から思いますね。



▼Nothing's Carved In Stoneの近作。
左から、2012年のシングル“Spirit Inspiration”、2013年のシングル“Out of Control”、2013年のDVD「A Silver Film」(すべてエピック)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年07月22日 19:30

更新: 2013年07月22日 19:30

ソース: bounce 356号(2013年6月25日発行)

インタヴュー・文/土田真弓