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インタビュー

J. COLE 『Born Sinner』



生まれながらの罪人——大いなる成功を収めた前作をいかにして超えるか、地の底に堕ちたところから這い上がる自身の姿を描いた『Born Sinner』が解禁された……



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アーティストとしての二重性

ミックステープ・シーンでサヴァイヴし、ジェイ・Z率いるロック・ネイションの第1弾アーティストとして契約したJ・コール。2011年にリリースしたメジャー・デビュー作『Cole World: The Sideline Story』が全米アルバム・チャートで初登場1位にランクインしたうえ、セールス的な成功だけでなくリリシスト/プロデューサーとしても高い評価を得た彼が、サイクルの早い現行シーンにおいてはやや長めのスパンとなる1年9か月ぶりに、セカンド・アルバム『Born Sinner』をついに完成させた。

「ファースト・アルバムの時はリリースされる前からツアーの連続でほとんど休む時間がなかったんだ。でも今回は、アルバム制作の過程で7か月の休みを取って、レコーディングに集中する時間ができて良かった。以前と比べて〈アーティスト〉としての自信がさらに増して、自分の才能を信用できるようになったよ」。

新作のタイトルに掲げられた『Born Sinner』(=生まれながらの罪人)という言葉は、故ノトーリアスBIGのクラシック“Juicy”でもラップされているワードとしてヒップホップ・ファンには馴染み深いと思うのだが、アルバムの冒頭曲“Villuminati”ではその“Juicy”でのラインをフックにサンプリング。本編のラストを飾っている表題曲ではJ・コールの得意とするヒップホップをメタファーとし、まるでハードボイルド映画のようにヒップホップへ賭ける生き様を綴っているようにも感じ取れる。

「タイトルは〈デュアリティー(二重性)〉を表現している。〈善〉と〈悪〉や、〈正しいこと〉と〈間違ったこと〉との間での葛藤──俺自身がアーティストとして持ち合わせている両方の部分、またその中間になろうとしている葛藤を、今回のアルバムでは表現している。それ以外にも、自信喪失が原因で絶望したネガティヴな状態から、葛藤や挑戦をすることで、よりハッピーで自信が持てる段階に向けて進むこと、地獄から抜け出して天国へ行く過程を、今回のアルバムのタイトルで表現しているんだ」。



自分をそのまま受け入れること

客演を多く招いて話題を生むことが主流となっている昨今のマーケットにおいて、ゲストを絞り込んで制作された前作はそれが逆にフレッシュだったが、今作もその方向性を踏襲。先行シングル“Power Trip”ではミゲルやケンドリック・ラマーらのホットなゲストを最小限で招きつつも、あくまでメインとなっているのはJ・コールのラップで、コラボ・アルバム制作の噂もある盟友のケンドリック・ラマーをラップなしのコーラスのみで起用するというのは、昨年大ブレイクを果たしたラマーに対するJ・コールの意地をも感じさせるではないか。

そんななかでも大きなトピックとなったのは、“Crooked Smile”でのTLCとの共演。99年に発表されたTLCの名曲“Unpretty”のように、この曲では外見ではなく内面を磨くことの重要性を説いている。

「この曲には大事なメッセージが込められていて、世界が何と言おうとも何も気にする必要はなく、自分の見た目の欠点を受け入れ、そのままで完璧だと気付くことの大切さを伝えている。整形する必要もなく、自分自身をそのまま受け入れ、他人の言葉を気にすることはないということを」。

一方で今作は、リリースまで残り約1か月という直前の段階で、スケジュールが急遽一週間前倒しされたことも大きな話題となった。J・コールの発言によると、カニエ・ウェストの新作『Yeezus』のリリース・アナウンスに触発されて同日の6月18日にブツけたようだが、前作同様に今作もアルバムのほぼ全編をJ・コール自身がプロデュースしており、カニエの素晴らしいであろう新作にも内容として十分に対抗できるという絶対的な自信があったからこそ、同日リリース対決を仕掛けたのだろう。



確固たる自信がついた

「(前作の制作時と比較して)一言で言えば、確固たる自信がついたよ。最初に良いと思ったことを信じ続けたり、最初に良いと感じたサウンドを実際に使ったり、最高に気に入った曲をサンプリングしたり、自分の直感を信じてリズムやテンポなどいろいろな新しいことに挑戦した。以前よりプロデューサーとして成長したと思うよ」。

同じくリリース前から注目が集まったのは、前作からのリード・シングル“Work Out”について辛辣な意見を述べたというナズに関してラップした“Let Nas Down”だ。そのナズとのやり取りを仲介したノー・IDのプロデュースによるこの曲では、まさに前述したJ・コールの発言通り、実際にナズとの間で起きた出来事での己の〈葛藤〉と〈挑戦〉がリアルに綴られている。また、同曲をはじめ、アルバムの随所でボスであるジェイ・Zをネームドロップしているのも印象的だ。

「ジェイ・Zはレジェンドで、アイコン的な存在。俺にとって彼の存在は大切で、俺に〈可能性というもの〉を教えてくれた。彼が実際に成し遂げた多くのことは、後に続く俺たちの道を開いてくれ、可能性を広げてくれたんだ。そういう意味でも重要な存在で、できるだけ彼から多くを学ぼうとしてる。彼と会う時は彼の動きを細かく観察するし、話す機会があれば、いろんなアングル(観点)からの彼のアイデアに注目する。彼には多くの経験から培った知識があり、俺のキャリアにとって絶対的に必要な存在なんだ」。   



▼関連盤を紹介。
左から、J・コールの2011年作『Cole World: The Sideline Story』(Roc Nation/Columbia)、ジェイ・Zの2009年作『The Blueprint 3』(Roc Nation/Atlantic)、“Juicy”を収録したノトーリアスBIGの94年作『Ready To Die』(Bad Boy)、ナズの2012年作『Life Is Good』(The Jones Experience/Def Jam)

 

▼『Born Sinner』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、ミゲルの2012年作『Kaleidoscope Dream』(Bystorm/RCA)、ケンドリック・ラマーの2012年作『Good Kid, M.A.A.D City』(Top Dawg/Aftermath/Interscope)、ダーティ・プロジェクターズの2012年作『Swing Lo Magellan』(Domino)、このたびリリースされたTLCの新録ベスト盤『20』(ワーナー)

 

▼J・コールが参加した近作を一部紹介。
左から、メラニー・フィオナの2012年作『The MF Life』(SRC/Republic)、リタ・オラの2012年作『Ora』(Roc Nation/Columbia)、エル・ヴァーナーの2012年作『Perfectly Imperfect』(RCA)、ゲームの2012年作『Jesus Piece』(Geffen)、タイガの2012年作『Careless World: Rise Of The Last King』(Young Money/Cash Money/Republic)、DJキャレドの2012年作『Kiss The Ring』(We The Best/Young Money/Cash Money/Republic)、DJドラマの2011年作『Third Power』(Affiliated/eOne)

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年07月23日 21:05

更新: 2013年07月23日 21:05

ソース: bounce 356号(2013年6月25日発行)

構成・文/升本 徹

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