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インタビュー

湯川潮音 『濡れない音符』



単身NYへの渡航を経たことによって手にした〈まっさらな気持ち〉。軽やかな歌声が素顔のまま優しく寄り添ってくるニュー・アルバム!



湯川潮音_A



3年ぶりのオリジナル・フル・アルバムにして、レーベル移籍第1弾作『濡れない音符』のレコーディングを振り返りながら「もう必死でした!」と笑いながら話す湯川潮音がいる。一度作り上げた状態のものから歌詞を取り除いて〈ラララ〉というスキャットで歌い直してみるなど、時間をかけてリフォームしながら作り上げた難産のアルバム。曲が書けないわけではないが、出てくるものがいまの自分に見合ったものではないのでは?という違和感をさまざまな人からのサポートを受けながら徐々に払拭しつつ、完成に漕ぎつけたという。

「2011年4月から半年ほどNYに滞在したんですが、行ってはみたものの日本のことがずっと気になって、なぜここにいるんだろう?って、そんな葛藤を抱えながらフラフラと街を彷徨ってたりしました。で、セントラルパークの路上や夜中のライヴハウスで誰も私のことを知らない人たちのなかで歌ったりするうちに、いま自分が持っているものはどんなものだろう?と考えたりして。帰国時はまっさらの状態というか、自然とデビューしたての頃の気持ちになって」。

今回、いつもの通りのやり方では表現しきれないものがあると察知した彼女は、まったく弾いたことがなかったピアノでの曲作りを実践。同時に、原点を見つめ直したい意識が働いてもおり、そういった理由からアルバム制作の協力者に鈴木惣一朗を選んだという。

「余計なものはあまり入れず、ひとつの流れが途切れず続くようなアルバムにしたいと話しました。すると惣さんは、内容には関知しない、私が投げたものに対してのみ投げ返すスタンスで臨むから、と言ってくれて。その結果、最初にイメージしていた形のものが良い意味で大差なくできたし、そのうえ広がりも生み出せました」。

藤原マヒトや徳澤青弦といった腕利きたちが紡ぐ温かい音色とふくよかな響き。これぞ〈湯川潮音的世界!〉と言いたくなるような、凛としていながらも穏やかなアコースティック・サウンドが広がる本作。〈これが欲しかった!〉と膝を打つ音があちこちで上がることが容易に想像できる。1年間ほど思い詰めていたという歌詞はおおはた雄一やGOOD BYE APRILの延本文音らの手を借りることになったのだが、この空気の入れ替えが作品のオープンな雰囲気を高めることに繋がっているように思う。それにしても、羽のように軽やかな歌声を聴かせる彼女が素敵すぎて、ウットリが止まらない。

「何回歌い直しても、みんながいるところでハンドマイクを使って歌ったもののほうがどうしても良かったりして。私は1テイク目を超えるものは録れない歌手なんだってことがよくわかった(笑)。私が気張って歌ってるように見えたときは周りが〈いまの上手すぎ!〉って指摘してくれたりしたのもありがたかったですし、そばに寄り添ってくれるような音楽にしたいと思っていたので、とにかく飾り立てずに親密感のある歌をめざして。たったひとりの人のことを考えてその人に手紙を書いているような感覚で録音を進めていったんです」。

このようにして完成に至った自信作『濡れない音符』がどのように受け止められるのか気になったりしません?と訊ねてみた。

「今回のレコーディングは、自分で壁を塗るところから始めて、ひとつひとつ内装を直しながら作り上げていったような作業だったから、細部のことが精一杯でアルバムの外見まで考えが及ばなかったというのが正直なところで(笑)。ひょっとしたら外観は汚れて見えるかもしれないけど、中では美味しいお茶と食事を用意してありますから、っていう気持ちですかね(笑)」。



▼新作に参加したアーティストの作品。
左から、GOOD BYE APRILの2013年作『もうひとりの私』(AVOCADO)、おおはた雄一の2012年作『ストレンジ・フルーツ』(コロムビア)、湯川潮音も参加した鈴木惣一朗プロデュースのコンピ『アマールカの子守唄』(Living Records Tokyo*)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年11月26日 14:20

更新: 2013年11月26日 14:20

ソース: bounce 360号(2013年10月25日発行)

インタヴュー・文/桑原シロー

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