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インタビュー

Aaron Parks



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ECMの10本の指にはいる あらたな10指

ピアノソロによる即興演奏だけでいったいこのレーベルにどれくらいのアルバムがあるのか。当然ピアノという楽器の特性もあるが、ECMがピアノソロのために割いてきた膨大な時間は、ジャズ史に残る異形のひとつだろう。キース・ジャレット、チック・コリア、ポール・ブレイといったアーティストの成功から今日に至までピアノソロの前衛を崩すことなく、ECMは続々と様々なピアノソロのアルバムをリリースしている。

今回、あらたにニューヨークの若手、アーロン・パークスのピアノソロアルバムが発売された。2008年にリリースされた彼のアルバム『インヴィジブル・シネマ』(ユニバーサル TOCJ-66458)では、精緻なアンサンブル指向のピアニストという印象が強かったが、今回のソロについてメールで取材した。

「事前に準備しなかった点で、今回はいつもと勝手がちがいました。収録した音楽は、録音したホールで生まれたものがほとんどです。ピアノの前に座り何日か演奏し、すべて録音しました。私の作品やスタンダードもいくつか演奏しましたが、結局、聞き返して気に入ったもののほとんどが即興でした。(即興の)不完全さ、感情的なもろさや、はかなさにはまってしまったのです」

即興によって造り上げられたトラックには、緩やかな構成が聴こえ、決して2本のレールを踏み外さないトロッコのようにのどかな新しい音の風景を開いていく。しかし、作品の落ち着いた雰囲気を生み出しているのはどのような音を演奏するかという配慮ではなく、おそらくはアーロン自身のピアノ演奏の確かさなのではないだろうか。

「ピアノソロには様々なジャンルにわたって豊かな歴史があり、何年もたくさんの作品を演奏し、レコードを愛聴し私もその歴史にどっぷりと浸かってきました。しかしながら、このレコーディング以前では、ほんの一握りのソロ演奏しかなかったですし、クラシックの名曲を演奏するよう訓練してきたわけではありません(ようやく『平均律』を少々演奏してみてますけれど)。ソロといえば家にこもって自分のために演奏していることがほとんどでしたが、もしかするとこのレコーディングにはそういう気分が残っているのかもしれません」

今回、二曲のオリジナルを含みつつ、ピアノの即興演奏のある種の偏見を溶きほぐしてくれるそんなアルバムに仕上がった。彼自身はピアノを演奏しながら何を感じているのだろう。アーロンの10指の運動に何を託すのか。

「時には、新しいことを創り出すために指癖を壊してしまうような何かを考えてみるのもひとつの手ですが、音楽は全身で創り出すものだと思います。願わくば実在する人に匹敵するような音楽作品を創り出したい。いつもは演奏しているときは、床を踏みしめたり、部屋のある場所をみつめたり、生まれつつある心の中にあるメロディに集中していたりするけれど、自分の指がどう動いているかなんて不思議にも考えたことはないですね」

どうやら10本の指は、演奏しているときには存在していないらしい。そんな達人の彼の演奏を日本でも目撃できる日が待ち遠しいが、トリオでの来日が決定した。動画サイトで垣間みるしなやかな動きが生み出す、ピアノトリオのしなやかな演奏を期待したい。



<新たな沈黙の兆し~>


ミュンヘンでのエキジビジョンで使用されたM.アヒャー選曲によるコンピレーション・ボックス(6枚組)が鎮座する店頭にいま、並んでいるはずの新譜ティム・バーン(alt-sax)率いるスネイクオイルの『シャドーマン』は、ベースレスのクラリネット、ピアノとドラム(みなさん持ち替えていろいろやってますが)というモートン・フェルドマン的リズムでもりあがる。注目の作品としては映画監督のタルコフスキーに捧げたアルバムなどで知られるフランソワ・クチュリエが編曲を手がけた18世紀の作曲家ペルゴレージに捧げられた作品集がリリース予定、ECMらしいテクスチャーにナポリの古典が蘇る。ニューシリーズからはヒリアード・アンサンブルによる作曲家ロジャー・マーシュ(英b.1940)がダンテの神曲に触発された作品を中心に構成したアルバムとツエートマイアー・カルテットが新旧メンバーによる演奏を交えた最新作(3枚組)をリリースする。ハルトマンの作品に注目か。



<ECM NEWS>


●2013年10月31日付ー今年のマッカーサー・ファウンデーション・フェローシップの受賞者、ヴィジェイ・アイヤーとECMは来年2月末(USリリース)彼のピアノソロと作品 (弦楽四重奏とピアノ、ラップトップのための作品)をリリースすると発表した。アイヤーは2007年に同レーベルで制作されたロスコー・ミッチェルのアルバム『Far Side』に参加している。今後は同アルバムで共演したクレイグ・テイボーンとのピアノデュオ作品などもふくめ、リリースを予定している。

●intoxicate Facebookで12月11日から「ECMのピアノソロアルバムと言えば?」というポスティングを開始します。是非、コメント寄せてください。あなたの大好きなECMのピアノソロアルバム(クラシック/ジャズを問いません)をコメント欄に記入してアップしてください。



LIVE INFORMATION


『アーロン・パークス・トリオ』
○2014/2/4(火)~5(水)
『アーロン・パークス・ソロ』
○2014/2/6(木)
会場:丸の内 コットンクラブ
www.cottonclubjapan.co.jp 



カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2014年01月07日 10:00

ソース: intoxicate vol.107(2013年12月10日発行号)

interview&text : 高見一樹