「NME」「MELODY MARKER」「Rockin' on」「CROSSBEAT」など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック･ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、米メディアから絶賛されているUSインディー大本命バンド、ダーティー・プロジェクターズの新作について。
僕の週に一度の楽しみはギターの個人レッスンです。僕はいつも自分で耳コピできない曲を先生に教えてもらうんですが、「おー、そうなってるのか」とわかった時は最高に気持ちよくなります。気持ちいい反面、僕はいつになったら相対音感が持てるんだろうと悩んでしまいます。習い始めて5年以上経つのに、ジャズやボサノヴァが理解して弾けるようになりません。とにかく練習するしかないんですけど……。
ディアハンターのブラッドフォード・コックスが〈新作『Microcastle』は王道ポップスのコード進行に影響されている〉と言っていたので、解明しようと思ったら音がホワーンとしていて解明できなかったことは前回書きました。そこで、どんなものかとワクワクしながら先生に教えてもらったら、2～3曲調べるうちに「これ、高校生レヴェルだよ。レディオヘッドに100の音楽性があるとしたら、この子たちは10くらいだね」と言われてしまいました。
その高校生レヴェルの音楽を解明できなかった自分が悲しい。1曲目のEメジャー7とAメジャー7すら聴き取れてなかったですからね。しかし、僕のギターの先生に〈高校生レヴェル〉って言われるバンドを、アメリカでいちばん気勢をあげている評論メディア、ピッチフォークがいちばんバンドに挙げている状況ってどうなんでしょうか。
ピッチフォークって名前自体が、そもそもヤバいですけどね。ピッチフォークって、農業用のくま手（農業用フォーク）って意味ですから。ヨーロッパなんかで農民が一揆するときに持つ武器の象徴、ようするに吊るし上げたるぞってことでしょう。悪魔が持っている槍もこのピッチフォークですよね。でもまあ、ディアハンターは先週書いたように歌詞と歌が本当にいいなと僕は思うんです。それに僕はブラッドフォード・コックスのキャラや、その周辺のことが好きだからいいんですけど。
しかしいま、おもしろいと言われているのはアメリカのアーティストばかりですね。そんななかでも最も注目されているのが、今回紹介するダーティー・プロジェクターズでしょう。デイヴ・ロングストレスの変態ギターと、それに見事にマッチする彼のヴォーカルが魅力です。デヴィッド・バーンが彼らを奇麗に説明してくれています。「ものすごく奇妙なのに、同時にどこかで聴いたことがあるような懐かしさを覚える」。まさにこの通りです。懐かしく聴こえるって、ヘンリー・カウのフレッド・フリスとか、そんな感じといえばいいでしょうか? デイヴは本当に奇妙なギターを弾きます。そういう人って、実はたいした音楽知識もないのに大風呂敷を広げているだけというケースがあるので警戒するんですが、デイヴはイェール大学で音楽を学んだとのことで、学歴もよろしくて安心します。
でも、いい大学に行ってれば本当にすごいのかってことは疑問ですけどね。東京芸大に通っている僕の息子と中卒の僕がアートに関する知識対決をすると、毎回僕が勝ちます。「アートでいちばんの学校に行ってる奴が、俺より知識なくてどうするの。俺の専門は音楽で、アートは趣味だぞ」って捨て台詞を吐くのが楽しいんです。そうするとうちの子はいつも、「あんたの方が長生きしてるんやから、知識あって当たり前やろ」とキレます。僕は、高い金払って学校行ってるのに、本とかTVでしか情報を入れていない奴より知識がないって、どうなのよと思うわけです。
まあいいや。話を戻すと、デイヴは学歴だけじゃなく、他のアメリカのポスト・ロック勢と同じようにハードコア・パンク出身の奴がおもしろいことをやってるぞ、ってところに芯を感じさせます。前作『Rise Above』では、ブラック・フラッグの『Damaged』を再現したりしてたりするし（15年間聴いてなかったブラッグ・フラッグのアルバムを、想像でやったらどんな感じになるか、という現代アートみたいな作品なんだけど）。
それに僕がデイヴを信用しているのは、彼のギターを弾いている姿を見てるからなんだよな。むちゃくちゃかっこいい。左利きで右利き用の白いストラトを持っていて、ジミヘンをモロに意識してる。ギターのネックがデカヘッドじゃなくてスモール・ヘッドで、ジミヘンの完コピじゃないところがまたかっこいい。自由に弾いている感じもいい。アコギを弾いている時もかっこいいんだけど、僕は断然エレキを弾いているデイヴが好きだ。これからもっとブレイクするのか、気になるアーティストです。
