独特な映像美とストーリーテリングで『ザ・ロイヤル・テネンバウムス』（01年）や『ダージリン急行』（07年）といった家族のドラマを生み出してきたウェス・アンダーソン。彼が今回手がけたのはなんと、ストップモーション・アニメだ。『チャーリーとチョコレート工場』などの原作者として知られる英国の作家、ロアルド・ダールの短編小説『すばらしき父さん狐』をかわいらしい狐の人形たちを使ってコマ撮りアニメにしている。
「この作品をずっと映画化したくて初めてロアルド・ダールの奥さんに会ったのが9年前。それから2〜3年の時間をかけて脚本を書き、1年かけて資金繰りや映画製作のための準備をした。その間にキャストを集め、まず全てのセリフを録音した。その後1年かけて人形を使ってストップモーション・アニメを撮影し、編集や音楽製作などの後処理に2年間を費やした。企画から映画が公開されるまで10年近くもかかっているプロジェクトだけあって、僕にとってもとても大切な作品になっているんだ」（ウェス・アンダーソン監督）。兼ねてからアニメーションを手がけてみたいと思っていたアンダーソン監督は、3Dが台頭するこの時代にあえて手間のかかるストップモーション・アニメを選び、今までの実写映画に通じるような彼らしい映像世界を作り上げている。アニメーション監督の経験はとても楽しかったようで、「今後も実写映画を作ってはアニメーション、また実写というように作り続けて行きたい。ストップモーションだけでなく、セル画を使ったアニメも撮ってみたいと思うよ」と語っている。
Mrs.FOX（声の出演はメリル・ストリープ）の妊娠を機に泥棒稼業から足を洗ったMr.FOX（声の出演はジョージ・クルーニー）。しばらくは夫婦と息子アッシュ（声の出演はジェイソン・シュワルツマン）の3人家族でつつましく暮していたが、やはり野性の血がうずき出し……。セリフを録音してからアニメーションを作っているだけあり、人形の動きと名優たちの演技はばっちり合っている。主役の父さん狐役は脚本を書いていた時点からジョージ・クルーニーを思い描いていたと言い、妻役を演じたメリル・ストリープは「アニメーションならばジョージの妻を演じることも可能よね！」とウィットに満ちたコメントを寄せている。さらに弁護士のアナグマ役にビル・マーレイ、アンダーソン監督の盟友であるオーウェン・ウィルソン、そして『ダージリン急行』に続き出演しているエイドリアン・ブロディら豪華役者が顔（声？）を揃えている。
アンダーソン監督らしさが現れているのは、何と言っても一枚の絵画のような映像の美しさ。彼の映像特有の黄色味を帯びたシーンの数々は、まるで古い絵本かのように完成されている。狐人形の衣装は全て手作りで、父さん狐が着ているコーデュロイのスーツはアンダーソン監督のスーツを手がけているテイラーに特注したものだとか。監督のこだわりは狐たちが暮らす穴ぐらのインテリアや音楽にも活かされていて、90年代のブリット・ポップの旗手であったバンド、PULPのフロントマン、ジャーヴィス・コッカーがオリジナル楽曲を提供している。アンダーソン監督は『ライフ・アクアティック』（05年）でブラジルのセウ・ジョルジにデヴィッド・ボウイの楽曲をボサノバ風アレンジでカバーさせるなど印象的な音楽の使い方をする監督だったが、アニメーションでもノスタルジックでいて実験的な映画音楽を作り上げている。ちなみに、ジャーヴィス・コッカーもとある役で出演しているのでお見逃し（聞き逃し）のないよう。アメリカの現代映画界を代表する映像派監督であるウェス・アンダーソンによるハードボイルドな狐たちの世界を堪能して欲しい。
映画『ファンタスティックMr.FOX』監督・脚本・製作：ウェス・アンダーソン
原作：ロアルド・ダール「すばらしき父さん狐」（評論社刊）
音楽：アレクサンドル・デスプラ
声の出演：ジョージ・クルーニー／メリル・ストリープ／ジェイソン・シュワルツマン／ビル・マーレイ／ウィレム・デフォー／オーウェン・ウェイルソン／他
配給：ショウゲート （2009年 アメリカ・イギリス 87分）
◎ 2011年3/19（土）よりシネスイッチ銀座ほかにて全国順次ロードショー！
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