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映画『セブン・デイズ・イン・ハバナ』

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公開
2012/07/06   20:47
ソース
intoxicate vol.98(2012年6月20日発行号)
テキスト
text:佐藤由美

歴史遺産と多様な文化、美しい光と色彩に満ちたハバナの街
そのエキゾチックで奥深い魅力を刻み込んだ珠玉のアンソロジー

アンティル諸島の真珠と謳われたキューバの首都を舞台に、7日間、7つの小編を並べ、市井の人々を活写するヒューマンドラマの登場だ。

各編は独立しながらも、共通の小道具や人物交錯を巧みに忍ばせて、どこかドキュメンタリー風の寓話といった趣がある。スクリプト・コーディネーターにレオナルド・パドゥーラ・フエンテス。音楽はバルセロナのグループ、オホス・デ・ブルホのパーカッショニストだったチャビ・トゥルル。キューバ側からデセメール・ブエノとケルビス・オチョアが参加。1878年創業、94年キューバ政府と仏ペルノ・リカールの合弁会社となった、ラム酒の老舗ハバナ・クラブが制作を全面サポートする。

★月曜日「ユマ」は、プエルトリコ出身、ベニチオ(ベニシオ)・デル・トロ監督編。初のハバナ訪問に戸惑う米国人青年(ジョシュ・ハッチャーソン)と、ガイド兼運転手との、妖しげな夜の道行き物語だ。撮影地の小クラブは、その筋では名の知れたRogelito。「ユマ」とは、米国ガイジンを指すそうだが、由来については、登場人物らの諸説ご開帳をお楽しみあれ。

★火曜日「ジャムセッション」は、アルゼンチン出身、パブロ・トラペロ監督作品。映画祭に招かれた著名監督……実在の本人を演じるは、セルビアのエミール・クストリッツァだ。酔態さらす大物監督を、悪戦苦闘しつつアテンドするタクシー運転手。公式ディナーを蹴って二人が訪れたのは、「デスカルガ」と呼ぶ普段着のジャムセッション。意外や、洗練されたトランペット奏者の顔をのぞかせる運転手に、酔漢監督の目が光り輝く……なんせ、彼自身も音楽家なのだから。

★水曜日「セシリアの誘惑」は、スペインのフリオ・メデム監督。19世紀の小説に想を得て、歌手セシリア、野球選手ホセ、スペイン人プロモーターレオナルド(06年『サルバドールの朝』の演技も鮮烈なダニエル・ブリュール!)の三角関係を描く。海外で好機をつかむか、ここに留まるべきか……究極の選択に直面したハバナ娘の苦悩を、名ボレロの歌詞がなぞる。

★木曜日「初心者の日記」は、パレスチナのエリア・スレイマン監督・脚本・主演。キューバ要人(もしかして、コマンダンテ=兄カストロ?)取材のため、大使館を介し約束をとりつけるも、街にたたずむ土地人を観察しながら、ひたすら待ち時間をやり過ごす主人公……不可思議な距離感を絶妙に醸し出す。

★金曜日「儀式」、アルゼンチン出身、フランスで活躍するギャスパー・ノエ監督が、初めて母国語で撮影できたと喜ぶ作品。夜の浜でダンスに興じるうち、女の子同士で朝を迎えてしまった忌まわしい娘を、サンテリア司祭のもとへ送り出す両親。森の奥、泉のほとりで行われる清めの儀式を、つぶさに追う無言劇だ。

★土曜日「甘くて苦い」が、キューバ人監督フアン・カルロス・タビオ編。心理学者でTV出演など多忙を極める妻(ミルタ・イバラ)とご亭主の、綱渡り的な日常。早朝からサイドビジネスの菓子づくりで、ストレスは頂点に。いきなりの停電、卵が手に入らない、小麦粉の配達は? それでもTV番組講演のお題、「不慮の出来事に対し理性的に向き合う方法」とくる。しかも、実家へ戻った長女の様子が案じられ……。

★日曜日「泉」は、08年『パリ20区、僕たちのクラス』でカンヌ映画祭パルム・ドールに輝いた、フランスのローラン・カンテ監督作。夢枕に現れた川の女神オチュンのお告げゆえ、自室に泉をしつらえるべく、隣人らを駆り立てる女性。無体な指令にも信頼を示し、資材調達に奔走する人々……やりくり上手の生活ぶりが、おかしい。奉納ソプラノ《アヴェ・マリア》から、オチュンの歌唱和に沸く場面も、絶品だ。

ハバナには因習や偏見もあるが、奔放な女性(シングルマザーへの支援万全な国だから?)を力強くさせる、家族と地域の結束は健在。縁の希薄な社会に跋扈する「絆」の文字が虚しく映るのも、やむなしか。

© FullHouse/MorenaFilms

映画『セブン・デイズ・イン・ハバナ』

■月曜日『ユマ(EL YUMA)』 監督:ベニチオ・デル・トロ 出演:ジョシュ・ハッチャーソン、ウラジミール・クルス、デイジー・グラナドス、オテロ・レンソリ
■火曜日『ジャムセッション(JAM SESSION)』監督:パブロ・トラペロ 出演:エミール・クストリッツァ、アレクサンダー・アブレウ
■水曜日『セシリアの誘惑(CELIA’S  TEMPTATION)』監督:フリオ・メデム 出演:ダニエル・ブリュール、メルヴィス・エステベス、レオナルド・ベニテス
■木曜日『初心者の日記(DAIARY OF A BEGINNER)』 監督:エリア・スレイマン 出演:エリア・スレイマン、セバスチャン・バリオ
■金曜日『儀式(RITUAL)』 監督:ギャスパー・ノエ 出演:オテロ・レンソリ、クリステラ・ヘレラ、ドュニア・マトス
土曜日『甘くて苦い(DULCIE AMARGO)』 監督:フアン・カルロス・タビオ 出演:ミルタ・イバラ、ホルヘ・ペルゴリア、メルヴィス・サンタ・エステベス、ベアトリス・ドルタ
■日曜日『泉(LA FUENTE)』 監督:ローラン・カンテ 出演:ナタリア・アモーレ、オテロ・レンソリ、アレクシス・ヴィダル

◎8/4(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
www.7dayshavana.com/