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インタビュー

INTERVIEW with 桜井青(5)――究極の私小説



東京、40時29分59秒



―― ……可愛くまとめていただきましたが(笑)、では最後の“東京、40時29分59秒”。シングルの時のタイトルからは、2時間31分前ですね。

「そうですね。タイトルの理由は秘密です。前の取材でも秘密って言いましたから。理由はあるんです、ちゃんと。その秘密の部分が、またこの歌詞のないところに隠されてるんですけれど(この部分も資料から抜けていたため、その場で書き写させてもらった)」

――最後にフェイドインしてくるコーラス以降――〈歩き出す、自分らしく。〉の部分ですね。ここがもともとの〈東京〉の世界観をよりグッと押し広げてます。

「この部分は最初からもうあったんですけれど、この曲はアルバムに入れることを前提に考えてたので、シングルの時はあえてここを外しておいたんです。この部分はより私小説に近いので、シングルに入れるものでもねえな、っていうのがあって。だから、この部分をもってしてこの曲は完成するんですよ。その前で言っている〈今、この幸せに意味はあるのでしょうか? 引き換えに無くしたのは何なのでしょうか?〉っていうところは、この最後の歌詞があるからこそで。別にいまの人生に不平不満があるとかそういうのではないけれど、僕だって、ホントは違う誰かの人生を歩きたかったんだよ、みたいなところはあるんですよね。ホントは僕も他にやりたいことはあったけれど、結果的にいま僕は、桜井青という人間をここでこうしてやってる。自分がやりたかったことっていうのは違う誰かがやってくれているから、それに対して……なんだろうね? よかったっていうか、それを見てちょっと安堵してる。昔だったら嫉妬だと思うんですけど、そこはもう嫉妬じゃないんですよね。いま若い人たちが、僕がやりたかったことをやってくれているっていうのは素晴らしいこと。僕がその仕事をやっていたらその人たちになれたかっていうのはわからないけれど、うん」

――それは音楽以外で?

「いろんなことですよ。仕事だったり、生き方だったり、恋愛だったり、いろいろあるじゃないですか。さっきも言ったけれど“初恋中毒”とかもそうですよね。自分の初恋は叶わない。でもその初恋の相手とうまくいく人はいるんですよ。そういうことですよ。ここで自分自身を否定してはいけない。意外と深いんです、この曲。特に冒頭の歌詞の部分って、ホントに僕と同い年ぐらいで、なおかつ90年、91年ぐらいの頃の新宿駅の裏側とか、あのへんに行ったことある人はすっげえわかると思いますよ」

――20年ほど前ですね。見たまんまを描かれてるんですか?

「いまのフラッグスがあるところですよ。東南口です。昔、新宿駅裏には空き地があって、ガーッてフェンスがあったんです。そこのなかに、土管だったりとか工事現場のものがいっぱいあったんですよね。で、ビル風がすごかったんです、ここ。わかる人にしかわからないこの光景。これがだんだんと打ち崩されてっていまの風景になってったのを僕はずーっと見てるから、すごく思い入れが深いんですよね。この曲に関して」

――そうすると、この曲は青さんの、究極の私小説的なものですか?

「究極っていうわけではないけど、ただ書いてなかったから……まあ復活してからはいちばんの私小説ですよね。いやでも、究極の私小説になるのかな? やっぱり。30代の最後に書いたっていうのも、相当思い入れがありますからね。30代から40代へ向けて。ちょっと大人になりすぎじゃね?みたいなところをなんとなく感じなくもないけれど(笑)」

――〈青春〉というものをとても美しく書かれてると思いますよ。

「これはね、青春というよりは惜春です。なんか、懐かしむって感じですかね」

――聴いたあとの余韻が素晴らしいんですよね。

「余韻に浸ってこのアルバムを聴き終わっていただければ非常にいいですよね。1曲目がなんにしてもあれじゃないですか」

――そうなんですよ。あの曲で始まって、この曲で終わるっていうのがね。

「だけど、そういうところが本来のcali≠gariに戻ったと思いませんか? cali≠gariって本来そういうバンドですよ。もう、メチャメチャなおもちゃ箱のようなバンドなんで」



より原点に回帰してる



「より一層、原点に回帰してるような気がしますね。おもちゃ箱に入ってるおもちゃのクォリティーがアップしてるだけで。今回の『11』に関しては、僕は相当気に入ってますよ。『10』の時と違って、捨て曲というものがないです。最初に曲順を考えて、空いてるピースを作っているから。今回は本当に作り置きの曲が1曲もなくて、11曲すべて、完全にゼロから作ってる。他(のプロジェクト)からの流用とか、出来合いのものを詰め込んでやったらこうはならないと思いますよ」

――はい。よく1本の流れになっているな、という。

「綺麗に繋げてみましたよ」

――前回の取材の時に、石井さんは今回のアルバムでcali≠gariの黄金律が出たらいいな、っていう話をされてたんです。それは、いまの青さんのお話で言えばより洗練された形での原点回帰なのかな、と。

「そうですね。あとたぶん、これにちょっとバカなものがいくつか入ってくると、もっと本来のcali≠gariになるんでしょうね。それは例えばドラマだったり、CMだったり、さらにわけがわからない、〈これ何なの? 一体。なんでこんなものが入ってるの?〉みたいなものが入ってくるときっとこの『11』もまたちょっと変わってたんだけど、いまはこれでいいです。純粋に音だけで楽しんでいただけるアルバムだと思うんで。そのわけがわかんないのはこの間のシングルとかで十分楽しんでますし、またそういった小ネタをアルバムに入れたくなったら入れるだろうけれど、今回はホントこれでよかったと思ってます。自信を持ってお送りいたします。やっぱり自分自身が自分のバンドのファンじゃないと駄目じゃないですか、自分が聴きたい曲を自分で作ってるんですから。で、僕がいいって言ってるんだから、これはいいんですよ。もう自分で何回リピートしてるかわからないぐらい聴きまくってるし(笑)。『10』なんかは飛蝗者(“飛蝗者読誦”)飛ばしちゃったりとかさ、いろいろあるわけですよ(笑)。実験は楽しいけれど、実験した曲が必ずしもおもしろいかっていうと、ちょっと違くありません?」

――そうですね。

「『≠』に関しても、もうちょっとがんばれば『11』に届くはずだったんですよ。それが今回ようやくね、〈これだよね、ウチら復活して作りたかったのは〉っていうものに辿り着いた……辿り着いたっていうか、やっと出来たわ、みたいな(笑)。いやあ、みんなやっと勘を取り戻したって感じです(一同笑)」

――2年かけて(笑)。そして、このアルバムが出た後は東名阪で〈地下室〉があって、その後は……。

「まあでも、もう『12』を考えないと駄目ですよね」

――おお。

「ほんとだったらもう、出来た時点でしばらく考えたくないっていう感じなんだけど、そういうわけにもいかないんで。『11』はもう出来たんだから、そろそろ次の青写真だけでも考えないとヤバいですよね。『12』なのか〈#_3〉なのか、まずはそこからですね」


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掲載: 2012年01月11日 18:01

更新: 2012年01月11日 18:01

インタヴュー・文/土田真弓

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