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インタビュー

INTERVIEW with 石井秀仁(3)——気怠いムードがあるけど飛ばしたくならない曲



娑婆乱打



――その特典CDはぜひ皆さんに入手していただきたい、ということで次はシングルにもなった“娑婆乱打”ですが、これは歌い直していらっしゃるとか。

「一応そうですね。特に何か意味があるわけじゃないんですけどね。ただ、ちょっと録った時間がずいぶん前だったから、自分の気分的にみたいなところですかね。テイクが嫌だったってことでもないし」

――“娑婆乱打”と“暗中浪漫”の位置付けが、青さんの意見とは違っていたというお話を伺ったんですが。

「ああそうなんですか。青さんってああいう感じだけど、俺がちょっと〈こうかな?〉って言うと、それをすんなり受け入れてくれるタイプの人なんですよ。だけど俺、別に〈こっちのほうがいいんじゃない?〉って言ってる時に、それほど強くそれがいいとは思ってない。この場合は、ほら、まだ3曲目ですよね? ここで“暗中浪漫”だと、曲のテンポ感とは違うところでしっとりしてしまうところってあるじゃないですか」

――温度が低いポップスっていう。

「そうそうそう。それでちょっと〈あれ?〉って気がしましたね」



コック ア ドゥードゥル



――そして4曲目は80s風のシンセ・サウンドが印象的な“コック ア ドゥードゥル”。これは研次郎さんとの共作で。

「そうですね。共作っていうのもアレだけど、共作具合はいつものパターンですね。いまのcali≠gariは、基本的に俺が作る曲と青さんが作る曲とふたつあって、あと研次郎くんとマコっつぁんが作るものに関しては、デモを1回もらってしまうから、それをどっちがもらうかの問題なんですね。俺がもらうか青さんがもらうか。青さんがもらってそれを再構築して出してきたものっていうのは、前だったら“クロニックダンス”とか“月光ドライブ”とかで、俺だったら“ハラショー! めくるめく倒錯”だったり。マコっつぁんとやったのは“偶然嵐”とか。そのパターンっていうことですね。1回預かって、って」

――預かった時点ではどういう曲だったんでしょうか。

「預かった時点では、すごく構成の多い……どれぐらいあったかわかんないけど、ホントにDメロ、Eメロとかまで展開があるような、昔の歌謡曲っぽい曲だったんですね。でも、その形のままやるのはなかなか難しいなって。研次郎くんも、もともとはcali≠gariのために作ったものではないって言ってたので……なんか、“シルエット・ロマンス”とかあの感じの曲だったんですよ、コード進行とかも。でも演奏するのはcali≠gariですから、ちょっとキーをいじったりとか、落としどころをどこにしようかなと考えて。その時にちょっとYMOを感じるような……YMOというか、例えば細野(晴臣)さんがアイドルに作ってた感じの曲調にしてみようかと。ま、そこまでシンセ、シンセしてしまうとね、今度は俺がやってる別のもの(GOATBED、XA-VAT)と近くなってきちゃうから(笑)、だからシンセの音数もそんなに入れないで、みたいな」

――サビがある意味、女性的で可憐とも言えるほどにロマンティックなんですよね。そこが石井さんらしいな、と。

「これはまあ、コード進行とかは世間的にもよくあるパターンですけど、メロディーとコードの調和は完全に俺の黄金パターンですよね。何か困ったらこのパターンみたいな。別に困ってたわけじゃないんだけど(笑)」



その斜陽、あるいはエロチカ



――そして次は、シンセ~エレポップの流れで“その斜陽、あるいはエロチカ”。この曲はこの位置に入る曲という前提で、青さんが書かれた曲ですね。

「これもまあ理由があって。ドラムはこの日までに絶対録らなきゃいけないっていう日があって、その前日までには絶対デモがなきゃならないわけじゃないですか。それが不可能だからドラム録りが間に合わないってことで、もう1曲を打ち込みにしようっていうことをもともと決めてたんですね。で、さらにその打ち込み曲を俺が作ると、またさっきも言ったように他のものと同じになってくるので、青さんが作ったものを俺が打ち込むっていう……それもまた、再結成後の一個のパターンではあるんですよね。ドラムまで打ち込みっていうのは“オーバーナイトハイキング”とか。“電気睡蓮”もけっこうそれに近いかもしれないけど、うん」

――上がってきたデモを打ち込んだと。

「そうですね。意外とそのデモ……意外とっていう言い方も失礼だけども、デモが全然良かったので、〈この後は全然お任せしますよ〉みたいな感じだったけど、尺とかはなんにもいじってないです。青さんが作ったまんまを打ち込み直しました、ぐらいなところで」

――スロウに近いぐらいのミドルテンポで、かつ非常に官能的な楽曲ですが、石井さんとしてもそういう曲が欲しかった?

「気怠いムードがある楽曲なんだけど飛ばしたくならない、そういうのが好きじゃない人もさらっと聴ける感じのタイム感とテンポ感がある曲。歌の乗っかり具合もあるかもしれないですけど、そういうものがいいよねって話はしてましたね」

――あと歌詞も相当淫靡な感じですが、青さんから〈こういうふうに歌ってほしい〉というリクエストはありました?

「ないですね。〈今日は店の14周年パーティーなんで、僕はスタジオ行けないから〉って言われて、マジかよ、みたいな(笑)。きたよこのパターン、みたいな(爆笑)」

――では完全に歌はお任せで。

「うん。ずいぶんちゃんとした仮歌が入ってるデモをもらってたんで、特に問題もなく。ただね、聴いた瞬間に歌わなきゃならないんで、それがまたね……歌録りの時はエンジニアがいないから、それが困るんですよ。初めて録るにしても、もう理解してる曲であれば自分のペースでやれるからいいんですけど、これは初めて聴くわけですよね。曲は知ってますけど、歌詞が乗ったものっていうのはまるっきり違いますから。譜割りも変わるしね。それを初めて聴いて歌って、っていうのは無理なんですよね。覚える時間とかも必要ですから。だからこの曲はゴッパーという、いわゆるダイナミック・マイクで録ってるんですよ。コントロール・ルームとブースは別にありますから、普段はコントロール・ルームのほうで録音をして、ブースのほうにセッティングされているマイクで歌って、っていうのを繰り返すんですけど、それができないわけですよ。すぐに〈うぉっ! 違う違う〉ってなりますから。だからコントロール・ルームのほうでヘッドフォンをしまして、ゴッパーってライヴハウスとかで使うハンドマイクですよ? それを持って、〈ナントカ~♪〉って歌って、あ、間違えた、って止めて、また歌って、止めて、みたいな(笑)」

――その必死な姿を想像するとなんというか……(笑)。

「そうですよ。それでこの歌、歌ってますからね。〈アァ~ン♪〉……違えな、これ違えな、って(笑)。最後に台詞みたいなとこあるじゃないですか。あそこも〈ああ違う……〉って言いながら」

――ははは。曲のイメージが変わりそうです(笑)。

「そのゴッパーっていうマイクでは、絶対レコーディングしないわけじゃないですよ。まあ、ライヴ感を出したい時とか一発録りしたい時とか、そういう時は使いますけどね、これはアルバムのなかでも唯一全部、リズムまで打ち込みなわけじゃないですか。こういう曲でね、まずゴッパーで歌っちゃ駄目ですよね(笑)」

――まあでも、その粗い質感がこの曲の持っている歌詞も含めた世界観にハマっていると思いますよ。

「まあね(笑)。そっちのほうに処理で逃げたってことですよ」


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掲載: 2012年01月11日 18:01

更新: 2012年01月11日 18:01

インタヴュー・文/土田真弓

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