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インタビュー

INTERVIEW with 桜井青(2)――性に堕落していくテディベア



娑婆乱打



――(笑)そこは聴き比べをしてみるとして。続いては“娑婆乱打”ですね。この曲、ギタリスト的にはいかがでした?

「もう、あんまり憶えてないですね。デモの段階でシンセ・ギターが入っていたので一応石井さんが作ったものを忠実に再現して、あとはやっぱりいつものことなんですけど、ところどころ良い感じに変えてくださいって言ってたんで、印象に残るような感じのギター・フレーズ……カッティングとかですね。イントロのリフっぽいカッティング。熱くなりすぎないクールな感じ? ちょうど“娑婆乱打”と“暗中浪漫”はデモをもらったのもほとんど同じ時期で、ギターへのアプローチは似たものなんですね。あとはやっぱり〈ウーハー!〉ってきた時はちょっとビックリしましたけどね。〈ウーハー!〉…………ほぉ~、って」

――(笑)しかもコーラス・パートで。

「まさかウチら、〈ウー! ハー!〉って言わせられないよな、って思ったら言わせられたから、〈ああ、そうすか〉みたいな(笑)。まあいいんですけど、なんだかここにきてね、この方の日本語の言語感覚はもうわからないっていうね。この〈ララ見本見本見本見本〉ってなんなんだろう?って(笑)。〈hold on me〉なのかな?っていうね。まあ、それが仮に〈hold on me〉だったところで、歌詞の意味とは関係ない気がするんですけどね」



コック ア ドゥードゥル



――(笑)それは石井さんのみぞ知るところですが、では4曲目“コック ア ドゥードゥル”。曲は石井さんと研次郎さんの共作ですね。

「定番のコンビですね(笑)」

――サビのロマンティックぶりがまさに石井さん節かと。

「ああ~、石井さんですよね。80sディスコな感じが出てますよね。“娑婆乱打”からちょっとずつ打ち込み色が強くなっていくって感じですね」



その斜陽、あるいはエロチカ



――そして、青さんの打ち込み曲は5曲目の“その斜陽、あるいはエロチカ”。

「そうですね。もう1曲まるっきり、ドラムも録らないでやろうみたいな話をしてたんですよ。これも何度も言ってますけど、時間的な問題で。だからもう、トラックが出来て、歌詞が出来たのって……ミックス当日の朝ですね。で、お店のパーティーがあってそっちに行かなきゃならなかったから(笑)、僕、歌録りにも参加してなくて。終わって寝ないで行って、初めてパーティーでつぶれるっていう失態をね……ま、それは置いといて」

――ギリギリ加減は相当だったわけですね(笑)。

「ギリギリだけど、絶対手は抜きたくなかったんですよ。この曲、自分で作って、格好良いかもってちょっと思っちゃったから。いままでのウチらのなかでありそうでなかった感じで、好きなんですよ。随所にネタも満載させているっていうね」

――前回の取材の時にエレポップを作りたいとおっしゃってて。

「そうそう、それがたぶんこれですね」

――その時はカイリー・ミノーグみたいなハッピーなものを、っておっしゃってましたけど、まったく違ったものになりましたね。

「いや~、それもやりたかったんだけど、もう間に合わなかったです、すいません(笑)。だけど、出来てる曲を並べてみたら、今回そういうのは要らねえなって感じもあって。だから、カイリーっていうよりは、変換期を迎えた頃のデペッシュ・モードみたいな感じですよね」

――まさにタイトルとリンクしている淫靡な楽曲ですが、歌詞を乗せる以前から、こういう曲調でいこうと?

「書くテーマは決まってて、その上で曲を作った感じですよね。あとは、ちょびっとだけジャパニーズ・テイストっていうね。さっきの“JAP ザ リパー”にも繋がるんですけど、陰惨な感じ。日本独特な感じ。“さくら さくら”って聴くと僕、すごくエロさを感じるんですよね。ああいう日本独特の音階を〈雅〉って感じる人もいるけど、僕はどっちかっていうとエロさを感じちゃう人なので、ちょっとそういった感じを混ぜつつ」

――青さんの打ち込みの曲はわりと珍しいかと思うんですが、曲を作るにあたって苦労したところなどは?

「そういうのはないですね。むしろこういうのは趣味で作ろうと思えばいくらでも作れてしまう系の曲なので、作ることに対しては難しくなかったですね。どちらかと言うと、どうすれば絶妙なざらつき感っていうか……変な感じを出せるかな、っていうのだけに特化してみたかな、これは」

――曲と詞が合わさった時に視覚的に浮かんでくる絵が、いまおっしゃったざらつき感とリンクするというか。

「なんかね、これだけは絶対使ってほしいみたいな感じの素材はこっちで作って、その素材を石井さんに渡して組み立て直してもらうって感じでやってるんですよね。だから全体の構成は僕が最初に作った時と基本的に何も変わってないんですけど、そこで使われていく音だとか、いろんなものに関しては石井さんのほうがプロフェッショナルじゃないですか。だから、あとはよろしく、みたいな(笑)。歌の表現だなんだは、全部お任せです!って」

――石井さんの低音が猛烈にエロティックですね。

「あのね、やっぱり石井さんの低音ってエロいんですよ。全体が出来上がって聴いて、〈キター!〉っていうね(笑)。意識はしてないんでしょうけれど、あの人のロウ・ヴォイスは普通の一般女子が聴いたらヤバいですよ、ホントに。特にいちばん最後のポエトリーの部分は〈石井さんの声でこのポエトリーやったら相当やべえだろうな〉って完全に想定してたんですけど、案の定でしたね(笑)」

――そして散らしてあるネタも……リスナーの皆さんはどこまでわかるかな、っていう。

「まあ〈けもの部屋〉なんかはあれですね、〈女囚さそり〉……(笑)。あとはね、この曲って歌詞を書いたのはいちばん最後なんですね。さっきテーマが決まってて、って言いましたけど、石井さんとかと話してる時に今回ジャケットにテディベアを使うっていうことになって、前(2010年のミニ・アルバム『≠』)の“マネキン”みたいにテディベアを曲にリンクさせるとして、残されてた選択肢があと4曲しかなかったんですよね。その時点で完成していなかった4曲中で“コック ア ドゥードゥル”は石井さんの曲だからまずない。1曲は“最後の宿題”で書きたいことがあったから、これもない。あとは、“JAP ザ リパー”とこの曲なんですけど、“JAP ザ リパー”で……例えば前の“マネキン”のように、あの曲調でテディベアはないでしょうと」

――そうですね(笑)。

「ですよね? だからこの曲しかないんですよ。それで歌詞を書く前にどうすればテディベアをリンクさせられるかって考えた時に、テディベアって、まあスラングでもなんでもないんですけど、わりかし〈ベア〉っていう言葉を海外の方々は……まあゲイ用語になるんですけど、毛むくじゃらのね、可愛いおっちゃんのことをベアって言ったりするんですよ。しかもそういう方って、ハイソな方々が多い。そういうところを想定してるんです。日本もそうなんですけれど、変にエロいことに、無駄に金を使うんですよ、あの人たちって。で、没落していく……性に堕落していく様を斜陽族っていう言葉で捉えて、〈斜陽〉って」

――中世の貴族の逸話では、そういう話はよくありますよね。

「性的なものに対して、ちょっとアヴァンギャルドっていうよりはインモラルなんですよね。それは〈ソドムの市〉を観てもらってもそうだし」

――ああ、マルキ・ド・サドは有名どころですよね。

「この曲もだからね、病んじゃってる感じで。こういう生活してみたいです(一同笑)」

――この詞世界は、青さんの妄想ですか?

「そうですね。書くために官能用語辞典とか必死で読んだりしたんですけど、大変でしたね。こいつらすげえなーって。いろんな官能小説の一部を抜粋してああだこうだ書いてある辞典があるんですけど、素晴らしいですね。もうね、エロ小説は立派なカルチャーですよ。文芸ですよ、あれは。例えば沼正三の〈家畜人ヤプー〉なんて、エロと文学がもっとも隣接した名作じゃないですか。文学って言いたいことがやっぱりありますよね、一本筋通ったものが。でもエロ小説ってそこじゃないじゃないですか。人間の三大欲求のひとつを満たすためにあるものだから、一本筋が通ってるところは要らないんですよ。その、人間の欲求に訴えかける文章をソリッドに書ける方々ってすごいと思ったんですよね。ああは書けねえわ、って。だからね、やっぱりフランス書院文庫とか書いてる方々ってすごいですよね」

――フランス書院文庫は……すみません、勉強不足で……。

「(笑)そういうことを匂わせながら書いてみます、って感じ」

――詳しくはないですが、日本のポルノ映画にも芸術とされる作品は多いですよね。そういうシーンが何分間だったかに1回入ってくればあとは自由という話を聞いたことがあります。

「うんうんうん、そういうことですよね。この曲、アルバムのなかではわりと大事なポジションかなって個人的には思ってるんですよね。ここがアルバムの中間地点で、ここからの折り返しになるんで」



カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2012年01月11日 18:01

更新: 2012年01月11日 18:01

インタヴュー・文/土田真弓

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