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インタビュー

アーヴィン・アルディッティ

アルディッティ弦楽四重奏団、5都市7公演で19曲を演奏!
共演者は、野村萬斎、薮俊彦、青木涼子、野平一郎、ジェイク・アルディッティ他

9月に久しぶりの日本ツアーを行う世界的な現代音楽のスペシャリスト、アルディッティ弦楽四重奏団。なんと5都市7公演で19曲を演奏するという意欲的なプログラミングがまず目を惹く。しかも共演者も公演ごとに異なり、狂言の野村萬斎(世田谷)と籔俊彦(金沢)、能の青木涼子(大分)、ピアノの野平一郎(水戸)、初来日となるカウンターテナーのジェイク・アルディッティ(石橋メモリアルH)など、どれをとっても魅力的なコラボレーションだ。さらに、ジョン・ケージ生誕100周年を記念したアーヴィン・アルディッティのソロ・コンサートでは、後半の第3〜4集が彼のために作曲された《フリーマン・エチュード》全曲が演奏される。

アルディッティが1980年代にケージと親交があったことはよく知られている。「ケージは私が出会った中でも、もっとも刺激的な人でした。彼は強いオーラを持っていて、一緒に仕事している人すべてがそのオーラに包みこまれるようだった」と回想する。今回、ケージの《4部の弦楽四重奏曲》において狂言や能などの伝統芸能とコラボレーションを行うことについて、「ケージはマース・カニンガムの踊りに強い関心を抱いていたので、こうした舞踊などと組み合わせることを彼はきっと気に入ってくれたと思う。ケージはとても心の広い人でしたから」と話す。どのようなコラボレーションになるかについては、「すべてのケージの音楽と同様に〈不確定〉であり、日本に行ってからのリハーサルでどんな展開になるか楽しみにしている」と語る。

アルディッティQといえば、あらゆる同時代の作曲家たちの弦楽四重奏曲を初演してきたことで知られ、その数は数百曲に上る(それらの作品はバーゼルのパウル・ザッハー財団にすべて保管されている)。しかし意外にも、1974年にグループを結成したときには、作曲家に新作を委嘱しようと思っていたわけではなく、「当初はリゲティやルトスワフスキなどの既存の現代曲を弾くために始めた」そうだ。「しかも初めのうちはフルタイムではなく、趣味としてカルテットをやっていたのが、いつの間にか本職になってしまった」と笑う。その彼らの原点ともいえるリゲティの弦楽四重奏曲第2番は、今回金沢と広島で聴くことができる。また水戸ではシュニトケの特集で、弦楽四重奏曲とピアノ五重奏曲が組まれている。

広島と大分の公演では、旧友である細川俊夫がアルディッティQのために作曲した《沈黙の花》が演奏される。また彼らは現在細川俊夫の作品の2枚組CDを収録中で、東京滞在中に五重奏曲2曲を録音するそうだ。

アルディッティQの最近の初演作が聴けるのは東京の上野学園石橋メモリアル・ホールでのコンサートだ。全曲日本初演で、ファーニホウ、ヒルダ・パラデス、そして気鋭の藤倉大の《フレア》というプログラム。藤倉作品はウィグモア・ホールとエディンバラ音楽祭、石橋メモリアル・ホールの共同委嘱作で、2011年2月にウィグモア・ホールで世界初演された。奏法上の工夫を凝らした魅力的な作品だが、たとえば同じ公演で演奏されるファーニホウの弦楽四重奏曲第6番にくらべてどんな難しさがあるのだろうか。「ファーニホウの曲のほうがより複雑であるという点で難しいですが、藤倉作品も弾きづらい部分もありますし、効果的に聴かせるのが難しいということもあります。でもすぐれた曲というのは弾くごとに成熟していくもので、昨夏エディンバラで再演したときにもだいぶ弾きやすくなっていましたし、日本ではさらに楽しんで弾けるでしょう」

このコンサートで共演するカウンターテナーのジェイク・アルディッティはアーヴィンの息子で、現在25歳。ヒルダ・パレデスの「カンツィオネス・ルナティカス」は、ジェイクとアルディッティQのために書かれ、ジェイクのしなやかで表現豊かな歌唱を生かした作品だ。ジェイクはバロックから現代までレパートリーが幅広く、本公演のために、パレデスがジェズアルドおよびダウランドの曲をこのコンビ用に編曲する。アルディッティは息子との共演については、子供をほめて育てる英国人の親らしく「共演者としては申し分ない。ひじょうに飲み込みが早く、一緒に演奏するのは楽しい」と賞賛を惜しまない。

アルディッティQは2009年、「弦楽四重奏曲のための膨大なレパートリーを開拓し、弦楽四重奏曲の展望を変えた」業績に対し、ドイツのジーメンズ音楽賞を受賞した。そのことをたいへん誇りにしているアルディッティだが、「私たちのミッションはまだまだ終わっていない」と強調する。「新作を初演するのには大きな責任感がともないます。でも初めて世に出る曲をどのように演奏すべきか決定することは20世紀、そして21世紀に生きる演奏家としてもっとも興味深いことです。楽譜と作曲家をダイレクトにつなぐことは、私たちにとってこの上なく刺激的な体験なのです」

アーヴィン・アルディッティ2012 年日本ツアー各地プログラム
アルディッティ弦楽四重奏団

9/12(水)19:00 開演
会場:世田谷パブリックシアター 共演:野村萬斎* /中川賢一**
演目:カーター:弦楽四重奏曲5番/ケージ:4部の弦楽四重奏曲*/ケージ:Five3**

9/15(土)15:00 開演
会場:金沢21世紀美術館 共演:薮俊彦*
演目:一柳慧:インタースペース(予定)/ケージ:4部の弦楽四重奏曲*/リゲティ:弦楽四重奏曲2番(予定)

9/16(日)15:00 開演
会場:上野学園/石橋メモリアルホール
共演:ジェイク・アルディッティ(CT)*
演目:全曲日本初演 ファーニホウ:弦楽四重奏曲6番/藤倉大:フレア/ジェズアルド/ダウランドのパレデス編曲作品*ヒルダ・パレデス:カンチオネス・ルナティカス*

9/17(月/祝)14:00 開演
会場:水戸芸術館コンサートホールATM 共演:野平一郎(P)*
演目:シュニトケ特集 弦楽四重奏曲2 番、3 番、ピアノ五重奏曲*他

9/18(火)19:00開演
会場:広島アステールプラザ オーケストラ練習場
演目:リゲティ:弦楽四重奏曲2 番/ 細川俊夫:「書」「沈黙の花」/クセナキス:テトラス

9/22(土・祝)15:00開演
会場:iiichiko 総合文化センター iichiko音の泉ホール
共演:青木涼子* /珠寳**
演目:ヤナーチェク:クロイツェルソナタ/ ケージ:4 部の弦楽四重奏曲 * ** 細川俊夫:沈黙の花* /ラヴェル:弦楽四重奏曲

9/25(火)19:00開演
会場:津田ホール 出演:アーヴィン・アルディッティ
演目:ケージ:フリーマン・エチュード全曲演奏(Nos.1-32)

9/13(木)19:00開演
出演:Jake Arditti(CT) 会場:上野学園エオリアンホール
共演:チパンゴ・コンソート

http://www.okamura-co.com/concerts/2012/arditti.html

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年07月19日 11:38

ソース: intoxicate vol.98(2012年6月20日発行号)

取材・文/後藤菜穂子