0.8秒と衝撃。 『【電子音楽の守護神】』
[ interview ]
強烈なアジテーションを叩きつける挑発的なビートと暴発的なグルーヴを基調としたハードコア・サウンドで着実にリスナー層を拡大している0.8秒と衝撃。より、ニュー・アルバム『【電子音楽の守護神】』が到着した。
音源では2人のユニット、ステージ上では6人のバンド編成と、表現の場によって別の形態を取る彼らだが、今作ではそんな活動を重ねてきたからこそのファットかつバウンシーなグルーヴを獲得。そんな本作を、すべての楽曲を手掛ける中心人物・塔山忠臣(唄とソングライター)は〈プログレ・ダンス・アルバム〉と称しているが……塔山とJ.M.(唄とモデル)が完成までのドキュメンタリーを語る。
機械だけでも人力だけでも出せないグルーヴ
――今回は3枚目のフル・アルバムですが、前作の『バーティカルJ.M.ヤーヤーヤードEP』の直後あたりからもう制作に入っていたみたいですね。
塔山「そうですね。今回のも終わってからもう次に突き進んでるので」
――それは、作品を一枚作るなかで次にやってみたいことが見えて……とかそういうことですか?
塔山「いや、シングルでもアルバムでも1回作り終わると、バキッとそこで区切りをつけますね。完全に更地からのスタートです。切り替えるスパンが短いだけで、感覚的には前の音源と全然関係ない。逆に、前作を作ってたときに聴いてたような作品は、まったく聴かないようにするんですよ。で、何も決めずに適当に資料を買いに行くじゃないですか。そのなかで〈いいな〉って思うものを探しながら聴く期間が……短くても濃密な期間があって、そっから更地に行くんです」
――では、今回は何を聴いていました?
塔山「そうですね……今回はやっぱり、プログレとかが楽しくて」
――前作のEPのときも、キング・クリムゾンとかプログレを聴いてたでしょう?
塔山「聴いてたんですけど、そっからまた、あんまりメジャーじゃないプログレを掘っていく作業が楽しくて。〈これ当時はそんなに売れなかっただろうな〉っていう……特にドイツのやつとかそうじゃないですか。3枚買ったら2枚要らなかったな、っていうのがあるんですけど(笑)、それがいいんですよね」
――私が新作を聴いた印象なんですけど、まず音色やフレージングはもう塔山さん色というものが……特にドラムマシーンを改造したりしていた2作目の『1暴、2暴、3暴、4暴、5暴、6暴、東洋のテクノ。』あたりから〈これ〉っていうものがあると思うんですね。それは今作でも継承されつつ、音数が極端に多かった前のEPと比較して、ヘヴィーなんだけど楽器ごとのアンサンブルがより見えやすくなってるな、と思って。
塔山「とりあえず、今回はサビでちょっとおもしろいことができないかなと思って。確かにいままでは、曲にもよるんですけど、サビは音数をすごい増やしてたんですね。特にギターはホントに(音の)壁にしてたんですけど、例えば今回の“シエロ・ドライブ・10050”は……サビまではサンプラーで作ったギターのリフとかがバーッて鳴ってるのに、サビのとこだけ、聴覚的にはっきり捉えられるかわからないですけどアコギなんですね。アコギにノイズ入れてみたり、鍵盤でちょっと歪ませてみたりっていう感じで。サビまでガーッときてるぶん、サビでは和音を意識してるんです。これまでは、ミックスのときにエンジニアから〈もっと音を足したほうがいいよ〉って言われるパターンが多かったんですけど、“シエロ・ドライブ・10050”はアコギでしっかりアンサンブルを考えて録ったら、大きいんですよね、音が。前後に負けてない。その発見がすごい大きかったんで、詰め込みすぎないで、感覚的に行間を意識したっていうところはありますね」
――アルバム全体の発端は、その“シエロ・ドライブ・10050”?
塔山「最初はね、1曲目の“DJ X DJ”をアルバムのためではなくライヴのSEとして作ったんですよ。それまでは自分の好きな曲をSEでかけてたんですけど、ファンの方を見てると〈ライヴの前からハチゲキの雰囲気を楽しみたい〉みたいなのがあったから、だったら自分たちっぽいやつをSEとして作ろうかなと思って。そしたらすごい評判がよかったんで、じゃあ、あれを指標にして作曲していけば、おもしろいものが出来るんじゃないかなと。ループ素材を元にして、っていうのはいままでにやったことがない作り方でしたし」
――ループはダンス・ミュージック的なカタルシスをもたらしますけど、今作の指標にしたことをもっと具体的に言うと?
塔山「やっぱり躍動感ですかね。〈東洋のテクノ〉のときは、いい意味でも悪い意味でも焦ってる感じのビートだったんですよ。それもすごい好きなんですけど、今回はもっと焦ってない、どっしりした感じでいきたかったんですよね。そしたらね、さっきのアンサンブルの話にも通じますけど、こないだライヴのリハで新曲を合わせてみたらすごいしっくりくるんですよ。機械のビートと人力のビートがよく交わってる。前はその反発から生まれる化学反応がおもしろかったんですけど、いま、バンドとしては次のターンにきてて。そのどっしりしたビートが入ってくることによって、またライヴの流れが変わってくると思うんですよね」
――そのどっしりしたビートっていうのは、踊りやすさにも通じてると思います。
塔山「そこは〈楽しみたい〉っていう気持ちと繋がってるんじゃないですかね。その要素として、身体がつい動いちゃうっていうのはあるんでしょうね。実際ライヴで体感した部分が無意識に出たところもあると思うんですよ。いろんな人と対バンしてみて、〈なんでこの人らのこの曲やこのキメで、客はこんなに反応するんやろう?〉っていう。だから、タメ感とかキメ感っていうのはちょっとライヴ寄りになってるんだと思うんですよ、今回の音源は。生バンドって、アイコンタクトでもテンポチェンジとかできるでしょ? そこが俺たちはツイン・ドラムの意識で機械のビートも出してて。で、前まではそいつの速さに振り回されてる部分もありつつ、ついていってたんですよ。でも今回はそいつをどっしりさせることによって、そいつが俺らについてきてるっていうか。機械のグルーヴと人間のライヴ感みたいなのが、ちょうど交わるテンポ感になってきたんだと思うんですよね。生バンドが持ってて俺たちが持ってない何か、そういう部分をいまのスタンスで、機械的なドラムを使った音源で表現できるんじゃないかなって。そこは仕掛けた感じがあります」
――打ち込みのビートと生の呼吸の符号があったと。
塔山「走ってる機械のビートに、俺たちがジャムっていくんですよね。ドラマーも、前までは機械が音源で鳴らしてるようなビートを再現しようとしてたんですけど、いまは人間のグルーヴを機械に叩き込んでるっていうか。そうすることによって、人間だけでも出せない、機械だけでも出せないグルーヴが出てきて、ライヴは一気によくなってきたんですよね、最近」