インタビュー

LONG REVIEW――0.8秒と衝撃。 『【電子音楽の守護神】』



この音についていけるか



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不要な感傷を持ち込む可能性もあるので、本文では故人のことに触れるかどうか迷った。だが、触れた。なぜなら、言葉数の少ない(けれどこのユニットのことはなかにいながら俯瞰でよく見ている)J.M.が、その話題においてこんな趣旨の発言をしたからだ――「リスナーを置いてけぼりにしたうえで、必ず結果を出す」と。

0.8秒と衝撃。の〈リスナーを置いていく〉という姿勢が徐々に表れはじめたのは、2作目の『1暴、2暴、3暴、4暴、5暴、6暴、東洋のテクノ。』からだ。デヴィッド・ボウイ『Low』と80年代のミュート周辺を念頭に置いた同作では、当時のクラウト・ロックやインダストリアル、ボディ・ミュージックを基調としたヨーロピアンな陰影のあるシンセの音色、ビートの質感をオリジナルの響きとして獲得。さらには全パートがリズムと言っても過言ではない楽曲構成に振り切っており、その同時代性を無視した方向性は続く『バーティカルJ.M.ヤーヤーヤードEP』~今回の最新作『【電子音楽の守護神】』にも引き継がれている。

では本作での特筆すべき点は?というと、どことも知れぬ無国籍感が増しているということと、本来は緊密さが重要となるリズム・アンサンブルのなかにいい意味での揺らぎ、不規則性が含まれているということ。それは、気がふれたかの如く連打されるキックが地鳴りのように轟く異形のブレイクビーツと、ロボ声ならぬロボ・ギターの無機質なリフ、さらにはエスニックなシンセを浮遊させつつ、ヘヴィーなバンド・サウンドが一気呵成に畳み掛ける“シエロ・ドライブ・10050”に象徴的だが……今作は、それらがガッチリと噛み合った果ての混沌と強引なまでのダンス・グルーヴが共存した、好戦的かつ人の血の通ったロック・アルバムとなっている。

一方で詞の面では、彼らの十八番でもある怒りを原動力とした扇動的な言葉の合間に、今回は昨年他界した故人への思いが散りばめられている(……と筆者は思う)。その表出の仕方は、ラストで故人の名を絶叫する“ENKAと55拍子”のようなわかりやすい詞世界を持つものから、暗喩的なタイトルが与えられた“北緯821閃光、沈む。”までさまざまだ。だが、そんな極限的にパーソナルな心情を背景にしていながらも、本作から浮かび上がってくるのは、とにかく前を向いて歩みを進めていこうという主人公の毅然とした姿である。それは恐らく、言葉の背後にある現実を知らずとも、切実に伝わってくるはずだ。

前作では〈東洋のテクノ〉というタイトルを、今回なら〈プログレ・ダンス・アルバム〉というキャッチコピーを塔山は提示しているが、それはつまり、彼らの根底にあるのはいつだってパンクであり、ニューウェイヴだということと同義だ。その革新に対する渇望と自身のアイデンティティーの現時点における記録――不穏なベースラインがうねるインストゥルメンタル“DJ X DJ”で始まる『【電子音楽の守護神】』という物語は、上述のメッセージ性と冒頭の決意をストレートに表した“Freedom FOREVER.”でエンディングを迎える。その、1分以上かけて急速に高みへと登り詰めていく轟音が真っ白な浄化作用をもたらすラストが清々しくていい。

不敵さと愛嬌を兼ね備えたサウンドを抱え、彼らは何があろうともこの先を往く。そんな厳然たる意志を最後の最後で開放的なポップソングへ落とし込んでいるところに、本作の凄みを感じた。


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掲載: 2013年02月06日 18:00

更新: 2013年02月06日 18:00

文/土田真弓