INTERVIEW(2)――何にも合わせにいってない
何にも合わせにいってない
――インストは“DJ X DJ”だけですけど、その次に取り掛かった曲は?
塔山「6曲目の“北緯821閃光、沈む。”」
――これはヴォーカルの掛け合いがとんでもないことになってる曲ですね。
塔山「最初サビが全然違ったんですよ。ただ俺が喚いてるだけだったんですけど、俺がさんざん叫んで〈よーし!〉って録音ブースから出て行くと、(J.M.の)目が死んでるんですよね。〈え、これでええの?〉みたいな感じで」
J.M.「あそこはなんか、もったいなかった」
塔山「じゃあ変えようか……って。個人的には民族っぽくしたかったんで、マリアッチみたいなサビにしてみたんですよ。フルートも入れちゃったりなんかして。でもそれが合うんですよね、あのコードだと。ニヒルで格好良くなった」
――この曲に限らずですけど、全体的に無国籍感が増してますよね。
塔山「今日はその言葉を持って帰ってご飯食べます。すごく嬉しい。だからね、楽器ひとつ選ぶのも楽しいんですよ。民族感を出すのでも、ストリングスを使うのとフルートを使うのとで全然変わってくるんです。おんなじフレーズなのに、フルートを使うとケルト・ミュージックみたいな、(レッド・)ツェッペリンの『III』みたいな可愛い感じになる」
――いまツェッペリンの名前が挙がりましたけど、今回は、これまでみたいな参考盤のようなものはあるんですか?
塔山「アルバムの方向性としては、エマーソン・レイク&パーマーの『Tarkus』ですね。曲というよりも流れ? 最初はバキバキにダークな色も出しつつ、でも最後はロックンロールで終わるんですね。そこは俺たちも、最後は〈言葉と歌とメロディー〉みたいなところを真っ直ぐ出して終わろうって。そういう流れは決めてやってたんですね。でもぶっちゃけ、俺は『Tarkus』の内容はその時点では好きじゃないんですよ。だけどジャケットにインスピレーションを感じて、聴いてもいないのにアナログをテンションで買っちゃって。このアルバムは、ジャケットにある〈タルカス〉っていう魔物みたいなのを主人公に、旧文化やアートに対する挑戦みたいな物語が描かれてるんですね。ジャケットのなかを見ると、戦いの過程が絵で書いてあって。最終的にはタルカスも傷を負って、哀しみを背負って帰っていくみたいな。常に先陣を切ることにも哀しみがあるんだよ、みたいな、いろいろ取りようがあるんですけど、そういうのもたまらんくて。それで、内容は全然聴けへんで、ずっとその紙芝居みたいなのを見てて(笑)」
――はあ(笑)。
塔山「でも、音源は聴いてないもんだから思い入れはないじゃないですか。それが、『Tarkus』をちょっと掘ってみようかな、って迷ってるときですよ。Googleのロゴがシンセになってて、鍵盤を押すとちゃんとシンセとして弾けて録音もできるみたいな記事が新聞に出てて。それをパッてみたときに、ロバート・モーグがシンセサイザーを研究してる絵があって、彼がシンセの開発にいちばん力を注いだ作品っていうので『Tarkus』が出てたんですよ。それで俺、掘ろうと思って。タイミングなんですよね。あとその新聞は、ロバート・モーグを讃えるのに〈この人は電子音楽の世界では権威があってこうこうで、守護神みたいな存在だ〉って書いてて、〈これだ!〉と(笑)。もうSE(“DJ X DJ”)が一個あるじゃないですか。SEっていままでの曲と比べるとループ感があるから電子音楽っぽいんですよ。あと、俺からしたらエレキ・ギターも電気通ってるから電子音楽で。だからこのアルバムは、音楽の攻撃を仕掛けるっていう意味での守護神になれたらいいかな、って。そのイメージで、『【電子音楽の守護神】』っていうタイトルとSEっていう、まだ薄暗い指標でしたけど、制作はそこから入っていったんですよね。だから『Tarkus』は音っていうよりもテンションの象徴みたいなので、いちばん頭のなかにあったアルバムだと思うんですよ。で、実際ちょっと掘って聴くといいんですよね。音楽ってわかろうとすればわかるっていうか、良さしか見えてこなかったりする。そういう聴き方も好きだし。そのレコードはいまだに大事にしてますね」
――『Tarkus』にはどういう良さがありました?
塔山「基本的に人の話を聞いてない感じなんですよ。何にも合わせにいってない。別にその感じばっかりが好きなわけじゃないですけど、作るときのスタートが全然遠慮してないんですよね。〈ほんまに自分が好きなことしかやれへんよ〉っていうののもう一歩先に行ってるような気がしたんです。〈絶対格好良いからついてこい〉みたいな。その格好良さと、あと『Tarkus』も1曲目からアホみたいに長いんですけど、今回は俺たちもアルバムのどアタマで4分間のループを流してて。いまの日本のバンドでは、それってなかなかないと思うんですよ。試聴機とかでもいちばん大事ですし。で、『Tarkus』は何分の何拍子っていうのが小節ごとに変わるぐらい、拒否反応示す人からしたら最初からあかんぐらいの感じなんですけど、それを聴こうとして最後まで聴くと、彼らなりの物語を感じて」
――その『Tarkus』の物語性に思うところがあった?
塔山「『Tarkus』の〈なに勝手にそういう(架空の)生き物決めてん?〉っていう感じに惹かれたんですよね。俺も『【電子音楽の守護神】』っていう勝手なコンセプトを決めて、それにふさわしい音を作っていこうと。(既存の音を)破壊しつつ、破壊するってことはつまり大事なものを守ってる部分もあると思うので、自分のアイデンティティーと繋がるなと思ってやりましたね」
――そうしたコンセプトに道筋を与えるための鍵になった曲ってあります?
塔山「自分的には“レイモンド K ハッセル”かな? “レイモンド K ハッセル”は、最初のサビをまず歌入れしたんですね。それを2人の声で合わしたときに、〈これ、いいなあ〉と思って。今回やってみたかったシンプルイズムにすごいハマってたんですよ。ベースも入ってない時点で、ドラムとギターと歌の時点でハマってて。SEもホントに音数が少ないし……っていうところで方向性を掴みかけて、“シエロ・ドライブ・10050”でサンプラーにギターとか落とし込んでたとき、だいたいはそこにギターを重ねるんですけど、1回ペラくてもいいからリフを加工してみようと思って。で、ギターをリズム楽器みたいに演奏してみたわけですよね。パッドにアサインして、弾くんじゃなくて叩く感じっていうか。そうしたら、そこのリフの部分で1曲目のいい意味でのループ感、どっしりとしたダンス・ミュージックの要素みたいなのが出た。そこからは、その他の曲も1、2、3曲目と繋がるような自分のイメージのものをやったって感じですね。もっと遊びたい部分は遊んで、そんなにやったことがないようなことをやってみて。それで骨組みが出来てきた」