ポーランドの伝説的名手フリードマンの録音全集(6枚組)がDanacordから初CD-R化
【参考画像】LP初出時のアートワーク
ポーランドの名手フリードマン!
貴重な録音全集が復刻!
1985年にデンマークのDanacordがLP6枚組でリリースした「イグナーツ・フリードマン録音全集(1923年-1941年)」は日本にも輸入され、筆者もすぐに飛びついた懐かしいレコード・セットです。お目当てはブロニスワフ・フーベルマン(1882~1947)と共演した伝説的名盤ベートーヴェンの《クロイツェル》ソナタ。当時、このSP復刻盤はこのDanacord盤でしか手に入らなかったのです。買って帰ってわくわくしながら針を降すと、生々しい復刻音に更に嬉しくなってしまいました。フリードマン(1882~1948)のソロ演奏も、このLPで初めて聴いたのですが、ベートーヴェンの《月光》ソナタでの深くロマンティックな表現にすぐさま惹きつけられました。この《月光》はベートーヴェンの没後100年を記念して英コロムビア社が録音したもので、生前の彼の高い評価を物語るものです。ショパンのマズルカ集やメンデルスゾーンの無言歌集はSPレコード時代に決定盤と呼ばれたものです。
ポーランド出身のフリードマンの集成が、なぜデンマークで出たのか、長年不思議に思っていたのですが、今回のCDにはその辺りの事情が詳しく書かれています。1984年、アメリカの若い音楽学者アラン・エヴァンス(1956~)がフリードマンの伝記を書くために情報収集をしており、デンマークにエミール・テルマニー(1899~1991)を訪ねました。フリードマンは1917年から数年間、コペンハーゲンに住んだことがあり、テルマニーと共演した経験があったのです(デンマークの名ピアニスト、ヴィクトル・ショーラーはこの時期、フリードマンに師事しています)。エヴァンスは、Danacord社長Jesper Buhlを通じてテルマニーと面会し、その場でエヴァンスが世界中のコレクターから借り集めたフリードマンの全SPレコードをDanacordから復刻するアイディアが持ち上がりました。エヴァンスは6LPボックスの解説書を書くだけでなく、ニューヨークのトランスファー・エンジニアのSeth Winnerと協力して、元の78rpm録音のトランスファーを監修しました。このセットには、未公開の録音と《月光》などの別テイク含まれており、ニュージーランド・ラジオが収録したフリードマンの声(約10分)も入っていました。
LPが廃盤となって約30年が経ち、多くのピアノ愛好家やシプリアン・カツァリスのような一流のピアニストからLPセットのCD化がリクエストされ、今回CD-Rでの発売に繋がりました。Seth Winnerのオリジナルのトランスファーによる音の明瞭さ、フリードマン特有の輝く、暖かく、浸透する音を活かしながら、最新のデジタルノイズリダクションテクノロジーを使用して、その特長的なサウンドを損なうことなく、サーフィスノイズを十分に除去することに成功してるとのことです。
アラン・エヴァンスはその後、1996年にArbiter社を興して自ら極めて珍しい歴史的音源のCDリリースに取り組み、フリードマンの伝記も2009年に上梓しています("Ignaz Friedman. Romantic Master Pianist" Indiana University Press)。
オリジナルLPの解説書には1933年にフリードマンが来日した際、レコード店で開いたサイン会の写真が印刷されていました。現在、東京エムプラスを通じてDanacordに送ってもらうよう頼んでいますので、到着しましたら、ここに掲載いたします。
(タワーレコード 商品本部 板倉重雄)
【参考写真】来日時のサイン会の模様
初期の LP アルバムを再リリースするシリーズ。Danacord がイグナーツ・フリードマンの全録音を初めて集成して1985年に復刻リリースしたコレクション(DACD141-146)は、当時、批評家の賞賛を集めました。ベートーヴェンの《月光》、ショパンのマズルカ、メンデルスゾーンの《無言歌》など、レコード録音の「古典」を収めたこのコレクションを新しい世代のリスナーに伝えるため、よりクリアな音にリマスタリング。6枚のCDを特別価格でリリースします。
ロマン派の揺籃期にポーランドのクラコフに生を受け、20世紀半ばまで生きたフリードマンは、「ショパンの詩情とリリシズム」を受け継いだといわれる非ドイツ語圏のコンポーザー=ピアニスト。ヨゼフ・ホフマンと並び称されるほどの、ヨーロッパでも指折りのショパン弾きであったと伝わるフリードマンの貴重な録音が蘇ります。
※当タイトルは、高品質メディア(SONY DADC/Diamond Silver Discs)を使用した、レーベル・オフィシャルのCD-R盤となります。
(東京エムプラス)
イグナーツ・フリードマン
録音全集(1923年-1941年) ――
[Disc 1]
ドメニコ・スカルラッティ(タウジヒ 編曲):パストラーレ ホ短調/W.A.モーツァルト:トルコ行進曲/ベートーヴェン:ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 Op.27 no.2 《月光》/カール・マリア・フォン・ヴェーバー:舞踏への勧誘(華麗なロンド)変ニ長調 Op.65/ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番 イ長調 《クロイツェル》 Op.47 *
[Disc 2]
シューベルト(タウジヒ 編曲):軍隊行進曲 D.733(Op.51)/ベートーヴェン:ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 Op.27 no.2 《月光》/クリストフ・ヴィリバルト・グルック(ブラームス 編曲):ガヴォット/ヨハン・ネーポムク・フンメル(フリードマン 編曲):ロンド・ファヴォリ Op.11/メンデルスゾーン:《無言歌集》 から(9曲)
[Disc 3]
ショパン:マズルカ(13曲)、ワルツ イ短調 Op.34 no.2、夜想曲 変ホ長調 Op.55 no.2、即興曲第2番 嬰ヘ長調 Op.36、ポロネーズ第9番 変ロ長調 Op.71 no.2、ポロネーズ第6番 変イ長調 Op.53 《英雄》
[Disc 4]
ショパン:バラード第3番 変イ長調 Op.47、マズルカ 変ロ長調 Op.7 no.1、マズルカ ニ長調 Op.33 no.2、マズルカ 嬰ハ短調 Op.63 no.3、ワルツ 変ニ長調 Op.64 no.1、子守歌 変ニ長調 Op.57、前奏曲 変ニ長調 Op.28 no.15 《雨だれ》 、ピアノソナタ第2番 変ロ短調 Op.35 から 前奏曲 変ホ長調 Op.28 no.19、練習曲(5曲)、バラード第3番 変イ長調 Op.47、マズルカ ニ長調 Op.33 no.2、「フリードマンが語る」(2トラック)
[Disc 5]
ニコロ・パガニーニ/リスト/ブゾーニ:ラ・カンパネラ/リスト:ハンガリー・ラプソディ第2番/メンデルスゾーン:スケルツォ ホ短調 Op.16 no.2/ドヴォルザーク:ユモレスク/シューベルト/リスト:聞け, ひばり/グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 Op.16 **
[Disc 6]
アントン・ルビンシテイン:ワルツとロマンス/モシュコフスキ:セレナード Op.15/I.J.パデレフスキ:メヌエット Op.14 no.1/ヨゼフ・スク:メヌエット/フランツ・ミットラー:小さなナナのオルゴール/作者不詳/イグナーツ・フリードマン:パリスの審判/イグナーツ・フリードマン:オルゴール Op.33 no.3、彼女は踊る Op.10 no.5、侯爵ならびに侯爵夫人 Op.22 no.4/シューベルト/イグナーツ・フリードマン:古き街、ウィーン/イグナーツ・フリードマン:ゲルトナーの主題によるウィーン舞曲(3曲)/ショパン:マズルカ 嬰ハ短調 Op.41 no.1
【演奏】
イグナーツ・フリードマン(ピアノ)
ブロニスラフ・フーベルマン(ヴァイオリン)*
管弦楽団 **、フィリップ・ゴーベール(指揮)**
【録音】
1923~1941年(モノラル)