ヴィエラルー奏者トビー・ミラー&アンサンブル・ダンギー『純朴なる羊飼い ~ヴィエラルーのための18世紀フランス音楽』
田園気分に浸るロココの響き、名手トビー・ミラーの真骨頂
木製の箱の端につけたハンドルで楽器内の車輪を廻し、その車輪が接する弦を擦ることで音を出す楽器ハーディガーディ。
その歴史を中世まで遡れば知識人社会では一時廃れ、農村で伝承曲を奏でる楽器として辛うじて残りましたが、そのイメージが逆に牧歌的な理想郷での田園生活への憧れと結びついたのが18世紀のフランスでした。フランス語でヴィエラルー(車輪式ヴィエル)の名のもと、愛奏者の激増に合わせて上流階級向けの楽器が多く作られ、同時期に同じ事情で流行したミュゼットと共に多くの曲が誕生しました。
21世紀にその名手として活躍、中世音楽からバッハの無伴奏曲までヴィエラルーで弾きこなす俊才トビー・ミラーはここで、独奏楽器としてのヴィエラルーの可能性の広さや声楽との相性を十全に示すべく、多角的な視点で作品を厳選。
ミュゼット(演奏は横笛とバグパイプの名手ラザレヴィチ!)やヴァイオリンとの共演やヴィエラルー二重奏なども盛り込むことで、2017年にリリースした技巧派ソナタやカンタートを集めたアルバム(RIC382)とはまた異なる角度からロココのヴィエラルー芸術の面白さを堪能させてくれます。
ふくよかで柔軟なミュゼットの音との対比も、同じ弦を擦るヴァイオリンとの特性の違いも聴きどころ。
通奏低音付きソナタではトビー・ミラーが細やかな装飾音や急速なパッセージを流麗に弾きこなし、時に異界感さえ感じさせる曲作りの面白さと相俟って、伸縮自在の音作りでこの楽器の味わいを最大限に楽しませてくれます。
楽器や音色の珍しさに全く甘んじない、圧巻の音楽性あればこその聴きごたえ。多くの人に届いてほしい21世紀ならではの古楽アルバムです。
(ナクソス・ジャパン)
『純朴なる羊飼い ~ヴィエラルーのための18世紀フランス音楽』
【曲目】
1-5. ルイ・ルメール(1693頃-1750):
Cantatille “La Musette” カンタティユ「ラ・ミュゼット」
6-9. ラヴェ氏(生歿年不詳、1750年前後に活躍):
1re Sonate “La Champêtre” 第1ソナタ「田園情緒」
10-13. ジャン=バティスト・デュピュイ(生年不詳〔18世紀前半〕-1759):
Sixième Sonate à deux vielles 二つのヴィエル[=ヴィエラルー]のための第6ソナタ
14-16. ルメール: Cantatille “Les Plaisirs champêtres” カンタティユ「田園の楽しみ」
17. セルヴェ・ベルタン(1687頃-1759):
“Tu ne m’écoutes point Lisette” リゼット、ぼくの話なんて聞いてないんだね
18. デュピュイ: Premier air / second Air (de Quatrième Suite) 第1&第2エール ~『二重奏の戯れ』第6組曲より
19-21. ジョゼフ・ボダン・ド・ボワモルティエ(1689-1755):
Cinquième gentilesse 第5のお楽しみ ~『新たなお楽しみの曲集』Op.100より
22. 作者不詳: Le Berger innocent 純朴なる羊飼い
23-26. ジャン=フランソワ・ボユアン(1716頃-1781頃):
Les Folies d’Espagne, 4e Divertissement Champêtre 田園風ディヴェルティスマン第4番「スペインのフォリア」
【演奏】
アンサンブル・ダンギー(声楽&古楽器アンサンブル)
トビー・ミラー(ヴィエラルー〔宮廷風ハーディガーディ〕、指揮)
モニカ・マウフ(ソプラノ)
フランソワ・ラザレヴィチ(ミュゼット〔ふいご式バグパイプ〕)
アリス・アンベール(ヴィエラルー)
エリー・ニメロスキ(ヴァイオリン)
カロライン・リッチー(バス・ド・ヴィオール〔ヴィオラ・ダ・ガンバ〕、チェロ)
ノラ・ハンゼン(バスーン)
サム・チャップマン(テオルボ、バロックギター)
ナージャ・ルソーニエ(クラヴサン〔チェンバロ〕)
【録音】
2022年10月19-22日 サン=レジェ教会、ライメン(フランス東部アルザス地方)
収録時間: 74分
カテゴリ : ニューリリース
掲載: 2023年11月29日 00:00