Anti-Pop Consortium
異形のエクスペリメンタル・ヒップホップ!? いやいや。彼らはアートフォームとしてのヒップホップと真摯に向き合い、前進を続けてきただけだ。待望の3作目でさらに大きく羽ばたくのは……アンチポップ・コンソーティアム!!
伝統を身につけたラディカルさ
写真/Chris Davidson
ヒップホップはその誕生以来、多様な音楽的要素によって成り立つハイブリッド・アートフォームとして存在してきた。今日のヒップホップ・シーンにおいて、〈リアルなヒップホップとはなにか〉ということが議論されるが、アンチ・ポップ・コンソーティアム(以下APC)の新作『Arrythmia』はそんな疑問を吹き飛ばしてくれる。この傑作では、街の環境音からストリング・セクション、オペラ・シンガーの採用など、ミュージック・コンクレートやエレクトロアコースティック・ミュージックに見られる実験的手法が、ごく自然にヒップホップのストリート的観念と融合されている。
NY出身のAPCは、ラッパー兼トラックメイカーのビーンズ、プリースト、M・サイードによるグループ。もうひとり、初期から彼らと関わっているエンジニア/プロデューサーのアール・ブレイズも、オフィシャル・メンバーと考えてよい。ビーンズ、プリースト、サイードは、もともと90年代初期のNYのポエトリー/スポークン・ワード・シーンとの関わりがある。3人は〈Rap Meets Poetry〉というイヴェントで92年に出会い、グループは97年に正式に結成された。彼らはヒップホップの伝統をしっかり身につけているが、音楽的バックグラウンドは幅広い。3人ともヒップホップとともにパンク・ロックやポップス、フリージャズにも親しみ、いまはメインストリームのヒップホップからエレクトロニカ~IDMにも詳しい。
彼らは、カンパニー・フロウやソニック・サム、マイク・ラッド、ソウル・ウィリアムズなど、実験的なヒップホップやスポークン・ワードのアーティストを輩出したマネージメント会社、オゾンに所属している。このように、ディープなNYアンダーグラウンド・シーンとの関わりが深いAPCが本格的に脚光を浴びはじめたのは、DJヴァディムの構想によるスーパー・グループ、アイソレーショニストが99年に登場してからだ。イギリスのDMCチャンピオンであるターンテーブリスト、プライム・カッツもメンバーだったこのグループは、ヴァディムのアヴァンギャルドでダークなビートの上に、APC独特のシュールなライム・フロウが絡み合って、いままでのヒップホップにはない高次元な世界を展開していた。残念ながらアイソレーショニストでの活動は続かなかったが、このユニットがヒップホップ・シーンに消えることのない足跡を残したのは確かだ。
そして、2000年にAPC待望のファースト・アルバム『Tragic Epilogue』が75アークからリリースされた。アパニやエイシーアローンなど、アンダーグラウンド・ヒップホップのスターをフィーチャーしながらも、プロダクションとライムに対してラディカルな発想を提示したこの作品は、ヒップホップとエレクトロニカの収斂を象徴したといえる。その延長線上にあるのが今作『Arrythmia』なのだ。
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2002年04月11日 12:00
更新: 2003年03月07日 19:10
ソース: 『bounce』 230号(2002/3/25)
文/バルーチャ・ハシム