インタビュー

Jay-Z

方々で騒動を巻き起こし、さまざまな噂が飛び交うなか、帝王ジェイ・Zが 待望の新作を完成させた。
みずから〈素〉の姿すら垣間見せる『The Blueprint』に綴られた完璧なマ スタープランは、その地位をさらに不動にするものだ!

 〈H to the IzzO, V to the IzzA, That's the anthem get'cha damn hands up!〉。

 ある時はH.O.V.A.、またある時はJ-Hova、そして、時にはJehovah(ジェホヴァ)という名を語るジェイ・Zが、 このキャッチーなフックで、すでに巷を賑わせている“Izzo(H.O.V.A.)”のヒットを受けて、 通算6枚目となるアルバム『The Blueprint』を発表した。 アルバム収録曲“Hola' Hovito”では、さらにHovito(オヴィート)なる別名まで登場しているが、 ここでみずからのリリカル・スキルについて、〈If I ain't better than B.I.G., I'm the closest one(ノトーリアスBIGには負けるけど、かなりいい勝負だ)〉と言っている。 これが、ただの誇張でないのは、彼のアルバムを心待ちにしていたリスナーならずともわかるはず。 全15曲入りだが、2日間で9曲も録ったとかいう情報が伝わってきたり、ナズ、プロディジー(モブ・ディープ)、 ジェイヨ・フェロニー、ジェイダキスから揃ってディスられていたり、エミネム、 さらにはマイケル・ジャクソンとの共演も噂されていたりと、さまざまに注目されていた。

 まず、これほどまでに周囲からの集中砲火を浴び、一躍ヒップホップ界でもっともディスられる男となってしまったジェイ・Zの心情が気になる。

「ラッパーってのは競争心が強いから、互いに相手のことが嫌いなものだ。強くあるには、保身に努め、嫉妬を覚えないようにしていなければならない」。

 彼は“Takeover”でプロディジーに対して、〈俺が18歳でクルマを乗り回してたころ/お前はバレリーナのカッコをしてた/その写真を持ってるぞ/俺は一週間でお前らの全売上げと同じ枚数を売る……〉と、またナズに対しては、〈出てきたころは煌めいてたのにいまじゃただのカス/“Oochie Wally”でもお前よりボディーガードのヴァースのほうがマシ/俺はお前の声をサンプルしたが/それをホットなラインにして/ホットな曲にしたのは俺だ/お前の曲はカスだ……〉と報復している。
 
 「ラップは競い合うスポーツだ。そうやって作り上げられてきた。これは頂点に立つ者なら誰でも経験することだ。ただ、ここまでやられた者がいたかどうかは知らない」。

 まるで、ホットなラッパーはつらいよ、とでも言いたいようだが、もちろん「挑戦には受けて立つ」と宣言してもいる。

 「俺がホットなラッパーだっていうこととは別に、俺との間にホントに問題があるとしたら、そいつはそれを曲にしたりしないはずだ。その曲がCDでもミックステープでも、 いったん世の中に出て聴かれると、こいつとこいつが問題があるんだなってことになるけど、俺はそこには問題なんて、なにもないとわかってる」。

  彼がかなりのハイ・ペースで曲を作っていると聞いたとき、てっきり数々のディスに対する報復曲が中心になるのかと思っていたが、 その目的は先述の“Takeover”1曲に凝縮されたようである。また、 「リリシストとしてリスペクトしていた」エミネムとの共演は“Renegade”で実現し、 「この曲をいっしょにやったことで、以前にも増してリスペクトするようになったよ」という。 そして、マイケルとの共演は、(今回のアルバムには入っていないが)彼の“You Rock My World”のリミックスにフィーチャーされるにとどまった。

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掲載: 2002年05月09日 15:00

更新: 2003年03月07日 17:52

ソース: 『bounce』 226号(2001/10/25)

文/小林 雅明