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インタビュー

No Doubt

スカ・パンクから出発したオレンジカウンティーの人気モノたち。待望の新作は、バンド始まって以来の海外レコーディングに加え、豪華プロデュース陣が勢揃い。一点の曇りもないポップなサウンドは、まるでお正月の青空気分!

 参った。まず、それがこのノー・ダウトの新作に対する正直な感想だ。もちろん、 困ってるんじゃなくて、その反対。こんなストレートで、パーフェクトなポップ・ア ルバムを投げてくるとは思ってもみなかったってこと。タイトルからして正々堂々『 Rock Steady』だもの。〈どう?〉って感じでツンと顎をあげるグウェン・ステファニ ーの麗しき表情が目に浮かぶようだ。

思えば前作『Return Of Saturn』は、彼らの出世作『Tragic Kingdom』の成功を受 け、エンターテイメントであるより、アーティスティックな面を押し出し、グループ としてのアイデンティティーを確立したアルバムだった。しかし、ファンとしてはや はり、バンドの、そしてグウェンの弾けっぷりを、もっともっと楽しみたかったって ところは正直あったりもする。だからこそ、この新作のオープンな姿勢に触れた時、 カキーン!と金属バットでホームランを打つ快音を聴いたような気がしたワケだ。

イージー・ゴー・ラッキー

「僕らはヴァイブを感じてた。2000年11月にツアーを終えて、2001年の1月には新曲 を書き始めたんだ。前作のヘヴィーなテーマから解放されて、とにかく楽しみたかっ た。〈さあ、やるぞ!〉ってね。」(トニー・カナル、ベース/キーボード)。

彼らはその『Return Of Saturn』の長いツアー中、まるで厄払いをするかのように (?)、ショウが終われば毎晩ダンスホール・パーティーを開いていたらしい。トニーによると、それがあまりに楽しいものだったらしく、「そのスピリットとヴァイブ をキープしてアルバムに放出したかった」とのこと。だからこそ彼らは、その気分を 失わないうちにジャマイカへと足を向けた。

「あれだけ毎日ダンスホール・レゲエを聴いてたんですもの。知らないうちにその リズムが身体に浸透していった。だから、新作で何をやりたいとか考える前に、もう ジャマイカに行ってたの。そんな無計画さも、この新作がもってるある側面ね」(グ ウェン・ステファニー、ヴォーカル)。

「そこで僕らの友達が、スライ&ロビーや、スティーリー&クリーヴィーに引き合わ せてくれたんだ。僕らは一軒家でいっしょに生活して、プレイした」(トニー)。

「ひと仕事やり終えるころには、その辺り一帯の電気は全部落ちて、何もすること がなくなるの。ただそこには星があるだけ。みんなで集まって、飲んで、スライ&ロ ビーの話を聞いて……本当に素晴らしい、魔法のような時間だったわ」(グウェン) 。

実にうらやましい話である。オレンジカウンティー出身のスカ・パンク・バンドだ った彼らが海を渡り、当たり前のようにそのルーツに触れ、溶けこんでその歴史の一 部となる。それは言葉どおり〈魔法の時間〉だっただろう。でも、今回の彼らがスゴ イのは、それが単にルーツ巡礼の旅ではなく、もっと大きな冒険の一部に過ぎないと いうことだ。この新作で彼らは、ロンドン、LA、サンフランシスコ、ジャマイカの4 か所に渡ってレコーディングをおこなっているが、アメリカ国外でレコーディングを するのが初めてなら、その先々で何人ものプロデューサーを迎えてレコーディングす るのも初めての試みだった。まさに初モノ尽くしの大冒険。そこで選ばれたメンツが またスゴイ。前に述べたジャマイカの2チームを始め、ネプチューンズ、ネリー・フ ーパー、ウィリアム・オービット、リック・オケイセク、そしてプリンスまで!

「音楽をより良いものにするためなら、なんでもやろうって思ったんだ。これまで は自分たちだけで完結してたんだけど、今回はオープンになって、外部の人が自分た ちをどう料理するのか見てやろうって思ったんだ」(トニー)。

結果生まれた新作は、それぞれのプロデューサーが緻密にオーガナイズするサウン ドのキャンバスに、ノー・ダウトという個性が伸びやかなサインを描き込んだ素晴ら しい内容と相成ったのである。トニーによると、新作のソングライティングには、従 来のようにギターは使わずプロ・トゥールズを使用。使い方もよくわからないうちに 、キーボードを「気分のおもむくままに」触って、リズム・トラックから曲を作って いったとのこと。この底抜けのイージーさ、シンプルさが、どんなプロデューサー相 手でも、彼らの〈生〉を存分に出せる突破口になったようだ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年05月16日 15:00

更新: 2003年03月06日 19:59

ソース: 『bounce』 228号(2001/12/25)

文/川島健次