インタビュー

エミネムのサウンド的な魅力を探る手がかりたち

 エミネムをサウンドの面から考えたときに、デカい存在として最初に挙げるべきは、やはり彼を見い出した恩人でもあるドクター・ドレーだろう。デトロイト・ローカルであきらかに群を抜いたスキルを持っていたにも関わらず、ドレーがデモテープを聴くまで、エミネムは放り出された存在だった。確かに線が細くて深みに乏しいエミネムの声は旧来の〈いいMC〉的条件を満たしているとは言い難いし、フロウも素っ頓狂だったりする(しかもド白人なルックス……)。恐らく数多のA&Rたちは彼をどう扱っていいのかわからなかったのだろう。が、99年頃に折良く完成しつつあったドレーの新しいテクスチャーにガッチリとハマるのはエミネムのラップだった。逆にいえば、エミネムのようにいわゆる非正統派のMCを発見できたからこそ、ドレーのビートも〈新しさ〉を纏うことができたのかも知れない。ミッシー・エリオットが早速共演をオファーしたのも、その変幻自在なフロウを闘わせる相手が欲しかったからじゃないか?

左から、エミネムの参加曲を収録したドクター・ドレー『2001』(Aftermath/Interscope)、ミッシー・エリオット『Da Real World』(Gold Mind/Elektra)、DJスピナ『Heavy Beats, Vol.1』

その一方で、ブレイク前からロウカス周辺にいくつかの印象的な客演を残していたり、地元の玄人ウケするグループ=アウトサイダーズに名を連ねていたり、従来のMC的な文脈にも溶け込んでいたのがエミネムのおもしろいところ。そういう背景がなければ、彼はヴァニラ・アイスに続く白い徒花として扱われかねなかっただろう(閉鎖的なハナシですが……)。

また、新作『The Eminem Show』で大半のプロダクションをみずから手掛けているエミネムだが、プロデューサーとしての活動はそれ以前から徐々に本格化しつつあった。身内グループのD12はもちろん、イグジビットやジェイ・Zへの提供曲でも一定の成果は上げていたし、今後はそちらの方面でもエミネムの奇矯な才能を楽しめる機会が増えていくはずだ。


左から、DJスピナ『Heavy Beats, Vol.1』、コンピ『Soundbombing II』(共にRawkus)、アウトサイダーズ『Night Life』(Ruff Nation)、エミネムのプロデュース曲が収められたイグジビット『Restless』(Loud)、ジェイ・Z『The Blueprint』(Roc-A-Fella/Def Jam)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年05月30日 15:00

更新: 2003年03月03日 22:08

ソース: 『bounce』 232号(2002/5/25)

文/出嶌孝次