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インタビュー

KYOTO JAZZ MASSIVE(2)

ウェスト・ロンドン・ミーツ・KJM

 制作が始まったのは1年半前だ。修也が主にメロディーを、好洋がプログラムを担当し、KJM作品には欠かせない吉澤はじめのスタジオでベーシックなトラックを完成させた。そして、ヴォーカル録りにロンドンへ。まず、“The Dawn Introduction”“The Brightness Of These Days”を歌うヴァネッサ・フリーマンは、〈ウェスト・ロンドンきってのディーヴァ〉と囁かれる実力派。この録音の指揮を執り、スタジオを提供したのはディーゴとの共同プロジェクトでも知られるアレックス・アティアスだ。

「この時のレコーディングをIG・カルチャーが覗きに来てたんですけど、〈Where is broken beats?〉って言ってましたよ(笑)」(好洋)。

 西ロン・サウンドのメッカでKJMは70年代の薫りが濃厚に漂うスピリチュアルなジャズを録っていたのだ。限りなく生ドラム的に打ち込まれた重厚なビートに促され、ヴァネッサは「生きることの希望、喜びと悲しみ」(修也)を高らかに歌いあげる。

「こんな変拍子のジャズでブラックな感じっていままでやってなかったから、KJMのイメージからしたら〈難しい〉と思うんです。でも、こういうところも見せたいなと。ヴァネッサのフェイク、アドリブとかも想像を越える出来で。書いてくれた歌詞も曲のイメージにドンピシャやったんです」(修也)。

 アルバムにはオーガニックな空気とエッジの利いたエレクトリック感がいい具合に満ちている。シングルになった“Mind Expansions”は、反復するベースラインと軽快にシンコペイトするビート、そしてアナログ・シンセがクセになるグルーヴを生み、そこにマイヤ・ジェイムスのスウィートな歌が乗る〈ロニー・リストン・スミス+ウェスト・ロンドン〉なKJM流コズミック・ソウル。そして、ヴィクター・デイヴィスが歌ったのが“Deep In Your Mind”だ。

「ツアーで来日してたヴィクターと、遊びついでに吉澤(はじめ)さんのスタジオにセッションをやりにいったんですよ。その時、ベースとドラムのモチーフだけ出来上がっていたものをヴィクターに聴かせて出来た曲。メロディーは彼が最初に歌ったものを採用したんです」(好洋)。

 こうして、内省的なシンガー・ソングライターを思わせる歌表現とダンサブルなフューチャー・ジャズが溶け合った。

「ヴィクターはリアリストですよ。でも、ドロドロしすぎないし、かといって爽やかすぎない。生真面目な部分もあるし、シビアなことも言いつつフレンドリー。すごくバランスがとれた人です。曲としては、相当こねくりまわして相当難しいことをやっている。ブロークン・ビーツにブラジリアンやしね。でも、これが意外に評判いいんですよ(笑)」(修也)。

 そんな好評の理由は、全編で聴ける吉澤はじめの熱のこもった鍵盤捌きによるところも大きい。とくにここでのローズは絶品だ。また、スモーク・シティ/ダ・ラータのクリス・フランクと、幅広いセッション歴を持つスペイン系の女性ヴォーカリスト、グイダ・デ・パルマの参加は、KJMの大きな特徴であるブラジル要素を強化。一方、ミックス・ダウンはミュンヘンでヤン・クラウゼが担当。さすがコンポストの首領、マイケル・レインボースの肝入りだけあって驚くほどの音の粒立ちを実現させた。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年09月05日 16:00

更新: 2003年02月13日 12:10

ソース: 『bounce』 235号(2002/8/25)

文/池谷修一