インタビュー

Death In Vegas

リチャード・フィアレスとティム・ホルムスによるユニット、デス・イン・ヴェガスが3年ぶりとなる新作『Scorpio Rising』を発表した。ここで聴けるのは愛にまつわる光と影。21世紀に鳴り響くサウンドトラック!


「前作はとてもダークなアルバムだと言われ続けてきたから、今回は正反対のレコードを作ろうと思いついたんだ。みんなはダークなテクノ・アルバムを作ると考えていたみたいだから、ある意味でみんなを驚かせるようなアルバムになったと思う。最初は、女性ヴォーカルのラヴソングばかりを集めたものにしようと思っていたんだけどね」(リチャード・フィアレス:以下同)。

大絶賛を浴びた前作『The Contino Sessions』に続き、約3年ぶり、3枚目のアルバムとなるデス・イン・ヴェガス(以下、DIV)の新作『Scorpio Rising』。イギー・ポップやプライマル・スクリームのボビー・ギレスピー、元ジーザス・アンド・メリー・チェインのジム・リードら異色のゲスト・シンガーをフィーチャーし、ダークでダーティーなエレクトロニック・サウンドを極めた前作とはうって変わった、驚くほどアップリフティングな作品となっている。同時に、生と死、光と闇、静寂と喧噪、慈愛と暴力性という両極のコントラストが際立つ、スピリチュアル・コンセプト・アルバムと呼ぶにふさわしい一枚でもある。サウンド的にも、サイケデリックあり、クラウト・ロックあり、エレクトロ・クラッシュあり、オーガニックなミッドテンポありと、非常にバラエティーに富んでいる。もちろん多彩なゲスト陣を迎え、「あえて匿名性のあるアルバムを作る」ことで、よりDIVのアイデンティティーを際立たせる、という前作で体得したDIV一流の手法もこの新作でますます研ぎ澄まされている。なんと、オアシスのリアム・ギャラガーからポール・ウェラー、マジー・スターのホープ・サンドヴァル、そして常連のドット・アリソンまでもがフィーチャーされているのだから。しかも、ポール・ウェラーにはジーン・クラーク・ウィズ・ザ・ゴッドシン・ブラザーズ“So You Say You Lost Your Way”をサイケデリック・ヴァージョンともいうべき斬新なアレンジでカヴァーさせているのだ。

冷徹なデトロイト・テクノDJとして知られ、職人肌の奇才アーティストとしても活躍、ロンドン・イーストエンドのエレクトロ・クラッシュ・シーンでは、ボビー・ギレスピーと並んでカリスマ視されている、DIVの片割れ=リチャード・フィアレス。 常にクールな佇まいのリチャードに、愛想のいい笑顔で「サイケデリック・ラヴソング集を作りたかったんだ」などと言われてしまうと、〈やっぱりこいつは確信犯だ〉と降参せざるを得ない。

「この世界には、美しいものもあれば、その裏側に隠されているものもある。でも、その隠蔽された影の部分にだって、美しい側面というのを見い出すことができると思うんだ。見るもの、聴くもののすべてにそういった〈美〉を見い出すことがこのアルバムの命題だね。それに、歌詞のほとんどはラヴについて歌われている。愛の持つ意味や性的な欲望といった、形は違うけれど、広義の意味での〈愛〉さ。ある意味でこのアルバムは、非常に性愛的なものでもあるんだ。そういうレコードを作るためには、なにか危険を冒さなけりゃならない。その〈危険を冒す〉というのが、僕たちにとってはリアムとポールに歌ってもらうことだったんだ」。

〈愛〉にまつわる光と影。影の部分とは利己的な欲望であったり、倒錯的な肉欲に溺れることだったりする。そうした光と影の部分が見え隠れし、ラストの“Help Yourself”で至上の愛という高みにまで昇りつめ、愛の放つ光の方向へと収束されるイメージで幕を閉じる。そのイメージが、アートワークの細部にまで及ぶという徹底ぶり。

愛をめぐるひとつの小宇宙を一枚のレコードに収めるという〈偉業〉を果たすことができたDIVは、ドット・アリソンやホープ・サンドヴァルといった、ごくフェミニンな女性性を音声化した女性シンガーたちと、まるで男性性の権化のようなリアムやウェラーという〈両極〉を敢えてぶち込むことにより、(偶然の産物を装って)セックスレスであり、彼ららしいエロティシズムに満ちた〈DIV史上最高〉と言っても過言ではない傑作アルバムを完成させた。

この一見美しい愛に満ちたアルバムにも、サソリの毒が隠されている。油断のできない奴らだ。

デス・イン・ベガスの過去作品を紹介

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掲載: 2002年11月07日 12:00

更新: 2003年02月12日 16:37

ソース: 『bounce』 237号(2002/10/25)

文/長谷川 友美