インタビュー

Pearl Jam(2)

『Riot Act』が踏み入る新世界


こうして開かれた姿勢はアルバムのサウンドにも直結している。シリアスなトーンが一気に開放的なトーンへと転化する瞬間が随所に用意された『Riot Act』は、現在のパール・ジャムがいかに良い状態にあるかを示した作品でもあるだろう。メンバーはレコーディングを、こう語る。

「今回のレコーディングに入るまで1年以上バンドとしていっしょに演奏してなかったからね、とにかくみんながフレッシュな気持ちで毎日スタジオに来ていたと思う。いっしょに音を出し、それがうまく組み合わさっていくことがとてもエキサイティングだった。エディもすごく楽しんでいて、俺たちまで嬉しくなるような感じだったよ」(マイク・マクレディ、ギター)。

「今回のエディは、本当に〈彼自身が歌っている〉感じがしたね。もちろん、いままでだって彼は偽りなく歌っていたんだけど、どこかで自分自身をプロテクトしているようなところがあったと思うんだ」(ジェフ・アメン、ベース)。

「経験を重ねるなかで、人々とつながる大切さを感じているんだと思う。だから、このアルバムはさまざまなレヴェルで聴き手に向き合ったアルバムだ。きっと、パール・ジャムをより理解したがってるファンにとって、いい驚きになると思う」(マット・キャメロン、ドラムス)。

長い休暇を経て、戻るべきところへ戻ってきた彼らが、社会が発するさまざまなヴァイブを感じながら自分たちの音楽を深く、そして開かれた形で止揚した、拡がりのあるアルバム。それが『Riot Act』なのだと思う。最後はエディの言葉で締めくくろう。

「より良いものを作ろうと努力し、自分たちの基準に見合う作品になったと思う。ちょっと子供を産むのと似てるよね。たいへんな苦しみを経て生まれ、そこでホッと一息つくんだ。頭の形が多少歪んでるかもしれないけど、そのうちちゃんと丸くなることもわかってる。このアルバムもそうだよ。これはトム・ウェイツの言葉なんだけどね、頭の中に曲が何曲もあって、それは外に出さないと金にならないし、常にどうすべきか悩みの種でもある。でも、曲をようやく作り終え、頭もすっきりした。次は、〈さぁ、お父さんのために稼いできておくれ〉、そんな感じだな、いまは(笑)」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年11月28日 12:00

更新: 2003年02月07日 15:14

ソース: 『bounce』 238号(2002/11/25)

文/染野 芳輝