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インタビュー

KICK THE CAN CREW(2)

いままでできないことができるようになった

この新作『magic number』は全15曲。リズムの多様さや全体の構成の流れや音の表情や拡がり。3人の言葉のキャラの違い。どれをとっても前作を凌ぐだろう。とくにトラックの密度はそれだけでも聴ける、トータルで心地良い起伏を作り出している。

「機材を変えたんですよ。MPC4000という機材なんですけど、いままでできないことができるようになった、それは大きい。トラックのカラフル感は変わってないんですけど、前作はリズムが淡泊過ぎたなと思ったんで、そこは気を遣いましたね」(KREVA)。

その最たる例が、3人がそれぞれ別々にフックを書いている“movingman”だろう。引っ越しをテーマにそれぞれの日常を歌い込んだ言葉はフォーク・ソングのようでもあり、なんとガット・ギターのフレーズもすべてシンセで作ったというこだわりを見せている。

「KREVAがトラックを作ったときに〈引っ越し〉の歌をやりたいと言って、俺たちもそういうのをやりたかったし。3人とも部屋を借りたけど事情がみんな違うし、ひとつのサビにまとめるのも嘘くさい。なんでもサビにしちゃうのも妙だから、それぞれが書いたんだけど。こういうのキライじゃないですよ」(LITTLE)。

「いままで楽器を使っても本物っぽく使ったことがないんで、本物っぽく使うのもおもしろいなと思って。これからの俺のギターはこれということで(笑)」(KREVA)。

このアルバムのなかには2つの流れがある。ひとつはみんなで大騒ぎするようなパーテイー・チューン。そしてもうひとつは、いまの世の中での自分たちの位置や有り様を鮮明にしたような内省的な曲。〈なにかしなくちゃ〉と強迫観念のように〈夢〉に追われる心理を歌った“ナニカ”も、そんな曲だ。

「ドラマティックじゃないと夢じゃない、みたいな風潮がイヤだよね。魚屋のオッチャンの話は説教で、TVに出てる人がなにか言うと夢みたいに捉えられたり。魚屋のオッチャンになりたいって言っても、〈ア、そう〉で終わるのに、歌手になりてぇって言うと、〈それは夢〉みたいな。魚屋のオッチャンよりポッと出のラッパーのほうがスゲエ、みたいなのはイヤ」(LITTLE)。

自分たちの事務所への想いや、パーティーのあとの静けさ、現在のシーンと自分たちの関係を歌った曲もある。そのなかでLITTLEは、氾濫する〈リスペクト〉ブームにも言及している。

「若いMCたちが〈リスペクト〉とか言って縮こまっているのはイヤだよね。ホントはすげえ好きじゃなくてもリスペクトしてますとか言うじゃない。そんなことイイからもっと言いたいこと言って俺たちのことも叩いてのし上がっていってほしいよ」(LITTLE)。

ヒップホップの枠を崩しつつ、ヒップホップの自由さとおもしろさを最大限追求する彼ら。武道館のステージにDJを3人並べたアンコールも圧巻だった。

「初めての人もそうじゃない人も、一回、素直にこのアルバムを聴いてもらえればと思います。なるべくフラットに聴いてもらうともっと楽しめると思います」(KREVA)。

ジャンルを越えた音楽のマジックが全体を貫いているこのアルバムは、年明け早々2003年のシーンを占う一枚になるだろう。

「ヒップヒップ好きの若者たちに言いたいのは、買うならMPC4000(笑)。ヒップホップ嫌いの人たちには、もし、これがヒップホップじゃなかったら、このアルバムの帯に〈ヒップホップ〉と書いてなかったらどうですか?と問いたい」(KREVA)。

KICK THE CAN CREWがリリースしたアルバムを紹介

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年01月09日 10:00

更新: 2003年01月22日 13:24

ソース: 『bounce』 239号(2002/12/25)

文/田家 秀樹