椎名林檎
ポップでシンメトリックでエクスペリメンタルな問題作!?
3年ぶりのオリジナル・アルバム『加爾基 精液 栗ノ花』の奥にはナチュラルでスタンダードな彼女がいる!!
贅沢なアルバムなんですよ
おそらく、これまでの彼女のパブリック・イメージを根底から覆す一枚になるだろう。椎名林檎の約3年ぶり3作目のオリジナル・アルバム『加爾基 精液 栗ノ花』から流れ出すのは、体温までもが伝わってきそうなほど生々しく耳元に囁きかける歌声と、計算されつくした精緻な設計図に基づいて鳴り響く多彩な音の数々。ギターとベース、ドラムとキーボードといったスタンダードなバンド・サウンドに加え、ストリングスやパーカッション、ウッドベースやピアニカ、そしてディジェリドゥーやカリンバ、マンドリンやシタールといった民族楽器、琴や篠笛といった雅楽器からさまざまな生活ノイズまでをも含めた音が見事にコラージュされたエクスペリメンタルなこのアルバムを、ビートルズの〈サージェント・ペパーズ〉やビョークの『Vespertine』などに例えて形容する人も少なくないだろう。とにかく、ほぼ彼女のセルフ・プロダクションによって作られたというこの新作は、生のバンド・サウンドとともに衝動に突き動かされるように巻き舌で唄っていたこれまでの椎名林檎作品とはまったく異なる様相を呈している。だがそんな、まるでコンセプチュアル・アート作品のごとく作りこまれた今作のような作品こそが、デジタルを当然のものとして育った世代の彼女がずっと作りたかったもの、だった。
「使ってる楽器とかかけた時間とかを考えると、『加爾基 精液 栗ノ花』は贅沢なアルバムなんですよ。デビューしたときはまだ10代だったから、初めからそんな贅沢ができる身分じゃないことはわきまえてたつもりだったので、サッと録れる形をとったというか、それでも十分まかなえる楽曲だったというか。今回は楽曲がレベルが高いとか低いとかってことじゃなくて、シンプルにバンド・サウンドでやり切れない楽曲を集めたってことなんですけどね」。
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2003年02月27日 18:00
更新: 2003年03月06日 16:27
ソース: 『bounce』 240号(2003/2/25)
文/早川 加奈子