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インタビュー

Blur

ブラー覚醒!! 3人になったブラーが、デーモンのソロ・ワークスを滋養にプレゼントする21世紀のポップイズム。それは異文化の壁を突き抜けて高らかに鳴り響く!!

僕らのキャリアの最高傑作


〈僕はもうなにも恐れない/君を愛しているから〉という確信に満ちた言葉で厳かに幕を開ける、ブラーの4年ぶりのアルバム『Think Tank』。ここで彼らが踏み入れた新しい領域に当惑する人は少なくないだろう。〈Love〉という言葉を率直に口にし、あきらかに非西欧圏の音楽にインスパイアされたサウンドに。けれど、思えばブラーはこれまでも絶え間なく音楽性を拡張し変化を続けてきたバンドであり、またデビュー以来貫いてきたポップ・センスとメロディックさは今回も健在だ。むしろデーモン・アルバーン(ヴォーカル、ピアノ:発言、以下同)の昨今の動向を追っていた人なら、〈やっぱり〉と頷きつつ聴いているのではないだろうか。なにしろ活動を休止していた3年間で、フロントマンである彼のアーティスト像は大きく様変わりした。ゴリラズで、D12からマリ人のコラ奏者トゥマニ・ジャバテまで世界各地のミュージシャンとコラボレートすると同時に、ブラーでは果たし得なかった世界的成功を実現。そして昨年来、マッシヴ・アタックの3Dとともに、反戦運動家としても精力的に活動している(私生活の面でも父親になるという転機があった)。こうした軽やかなフットワークで活動範囲を広げていた彼は、「2年前の僕には次のブラーのアルバムがあるのかどうか明言できなかったと思う」と、一時は解散も考えていたことを示唆する。

「それでも僕をブラーに戻らせたのは……まず第一に、いっしょに音楽の世界に漕ぎ出した仲間への責任感だった。でもその後、いっしょに音楽をプレイしながらふたたび接点を見い出せたことは、大きな喜びを与えてくれたよ。みんな僕が提示したアイデアを非常にオープンに受け止めてくれたしね。最終的には、まるで結成当初のような熱意に満ちたアルバムが完成したと思う。多分僕らのキャリアの最高傑作と呼べるんじゃないかな」。

 しかし、2003年版ブラーには、ご存知のようにグレアム・コクソンは含まれていない。2001年末に本作のレコーディングを開始して間もなく脱退した名物ギタリストについてデーモンは、「(グレアムは)自分で自分をクビにした」と語る。

「要は長年の行き違いが重なった結果なのさ。僕とグレアムの関係は96年ごろから正常に機能していなかったんだ。それにバンドの作業方法は以前と変わっていないよ。もしなにか違いがあったとしたら、スタジオ内がかつてなくリラックスしてたことじゃないかな。これまではギターを強調しようとするグレアムとメロディーやハーモニーを重視する僕の間に、常に緊張感があったからね」。

 残されたデーモンとアレックス・ジェイムズ(ベース)、デイヴ・ラントゥリー(ドラムス)の3人はギタリストを補充せずに英国内とモロッコでレコーディングを続け、ベン・ヒリエ(2000年のベスト盤に収録された新曲“Music Is My Radar”を担当)の手を借りてセルフ・プロデュースすることを選んだ。さらに前作『13』にも参加したウィリアム・オービットとノーマン・クック(「彼とはクラッシュへの愛情で結束したんだ」)も一部プロダクションに関与。パンクやニューウェイヴ、ヒップホップなどの要素を引用しつつ、デーモンのマリでの音楽体験をブラーの世界に消化したオーガニックなサウンドを構築し、ギターでリードするのではなく、きめ細かに絡み合った雑多なリズムとテクスチャーが醸し出すハーモニーを前面に押し出した形だ。

「つまりゴリラズや『Mali Music』のときと同じで、音楽的にクールなだけではなく、さまざまな興味深い議題を提起する作品が作れるってことを、僕は今回も証明しようとしていたんだ。でも誤解しないでほしいのは、これはワールド・ミュージックではなく、あくまでメインストリームなロックだってこと。インディーから発表するなら、2枚組のかなり難解な作品になっていたと思うけど、できる限りシンプルに仕上がるよう心掛けていたからね」。

 そして、本作におけるその〈興味深い議題〉とは、ずばり「異文化間のコミュニケーション」だ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年05月01日 11:00

更新: 2003年05月01日 18:52

ソース: 『bounce』 242号(2003/4/25)

文/新谷 洋子

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