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インタビュー

Blur(2)

戦車を無力化せよ

「いまの僕は、異文化コミュニケーションを重要な使命として捉えていて、とくにイスラム文化に興味があるんだ。といっても〈9.11〉の影響じゃなくて、2000年にマリに長期滞在したことがきっかけだった(注:マリもイスラム国家)。ゴリラズの新作をバグダッドで作るという計画もあったけど、あまりに非現実的な案だったね(苦笑)。もちろんあのテロ事件が起きてから想いは強まるばかりで、ミュージシャンとして自分たちの敵とされている人々と対話したいと望むのは当然だと思う。果たして成功しているのか否かの判断はつかないけど、とにかく僕はいまそれを実行しているのさ。モロッコでレコーディングをしたのもその一環なんだ」。

 このようなスタンスは、言葉の表現にも如実に影響を及ぼしている。このままでは世界が滅びてしまう――という危機感を愛とユーモアで受け止める大らかな優しさを湛えた詞を、彼は「『Great Escape』と『Parklife』以来、もっともクリアな詞」と評する。

「しかも韻に凝ったりするわけでもないし、あのころよりも遥かにエモーションに直結していると言えるね。僕は自分の心とコネクトする方法を見つけたんだと思うよ。だからもう三人称も使っていない。僕自身のこと、そして、ほかのみんなのことを歌っているんだよ。今回は自分の想いを詞で確実に伝えたいと強く意識していたからね」。

『Think Tank』というタイトルも然りだ。彼いわく〈Tank=戦車〉、つまり〈戦争を考える〉を意味し、「みんなで考えることによって戦車を無力化する」との反戦メッセージを込めたのだという。そんなデーモンの、みずからを「グローバルなミュージシャン・コミュニティーの一員」と捉える現在位置を映した新生ブラーが、賛否両論を巻き起こすことは想像に難くない。けれど彼はそれを気に病むどころか、ますます旺盛な創造欲を燃やしているようだ。

「結局のところ僕は、ある意味でグレアムが〈その気になる〉のを待つことに疲れてしまったんだよ。だから今後は、自分が正しいと思ったことを迷わず実行に移してゆくつもりだ。僕みたいにどこでも身軽に飛び込んで、いろんな人と自由に交わることができる人間に、不信感を抱く人もいるだろうね。けれど、世界が日々狭くなっているなかで、好奇心をもつ人間なら方々を旅して、なにが起こっているのか自分の目で確かめたくなるのが普通だろう? それがいまの僕のアティテュードなんだよ」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年05月01日 11:00

更新: 2003年05月01日 18:52

ソース: 『bounce』 242号(2003/4/25)

文/新谷 洋子

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